第13話 「隠者」の生き方。

『シャックス・ウルグスがこの町にいる』


 彼女達にとって最大級の福音とも言える情報を伝え、俺は二人の反応を観察する。


 人間は思いもよらない情報を心の準備も無しに与えられると、思わず素の反応を出してしまうものだ。

 それがどれだけ心の奥底に沈め、表面を分厚く化粧のように塗り固めていてもだ。

 抑えることは出来ても僅かな揺らぎは発生するはずだ。


 俺が読み取れない程度に抑えることが出来る化け物だったら、もう俺の負けでいいよ。

 気持ちよく騙し切ってくれ。


 そう思っていたが、それは杞憂だった。

 何しろフルフル・ムルムル姉妹の反応は激烈だったからな!


 二人とも、涙を流していた。


 フルフルは「私達の長い旅路も、ようやく終わるのですね」とハラハラ涙を流し、ムルムルは何も言わず肩を震わせながら涙を零さぬよう空を見上げていた。


 これからようやく敵討ちの始まりなのだから、喜ぶのはまだ早いと思うのだが……。

 まぁ、終わりが見えない日々がようやく終わるのだから、そう言う気持ちになるのも分かる。



 だが、俺は見逃さねぇぞ。



 フルフルの姐さん。

 アンタほんの一瞬、


 すぐに取り繕うことが出来るのはすげぇと思うが、あれを見ちまった後だと普通に怖い。

 何で無表情の女の人ってあんなに迫力が出るんだろうね……。


 誤魔化すように、いつもの無邪気な貌して俺に抱き着いてきたフルフルをあしらいつつ、脳内で今後の展開を組み立てる。

 真砂さんとの遭遇という望外のイレギュラーはあったものの、予定の変更はないと結論付けた。


 うん、やはりこの二人は俺の知っている「フルフル、ムルムル姉妹」と相違ないようだ。


 それはつまり、以前に俺がプレイした「アルカナ・サ・ガ Reincarnation」に登場する「フルフル、ムルムル姉妹」である。



 ならば、俺の方針は決まっている。




 彼女達を、救うのだ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 フルフル、ムルムル姉妹。


 ゲームの顔とも言えるチュートリアルに登場する美人姉妹である。


 製作者もそれが分かっているので、彼女たちのモデリングのレベルは非常に高かった。

 と言っても、ありがちな人形染みた美しさではなく、親しみやすい美しさである。


 フルフル、ムルムル姉妹は絶世の美女ではないが、近所で評判の美人のねーちゃんと言った感じで、俺も初めて見たときはときめいたものだ。

 素朴で清楚なタイプの女性は、主流ではなくともどんな時代でも人気があるからな。


 人は届かない星のような女性より、身近な存在である花のような女性を求めがちである。


 つまり、彼女たちは人気が


 いや、今は人気が無い訳ではないのだが、人気の種類が違うというか……。

 とにかく人気投票には必ず登場する程、彼女達は有名だ。


 有名なのには理由がある。


 いや、チュートリアルに出てくる時点で有名ではあるんだよな、「緑髪の〇レアは殺せ」とかな!



 でも、違うんだ。



 確かに彼女達はチュートリアルに出てくる。

 だが、そのチュートリアルは初戦闘と最寄りの町への案内だけなのだ。

 町に到着したら、基本的には彼女達とはお別れになる。


 問題なのは、彼女たちの目的である「父の敵討ち」を手伝う事になった場合である。


「アルカナ・サ・ガ Reincarnation」はフリーシナリオだから、神札タロットを集めるという大目標以外の指針は何一つない。

 何をするかは完全にプレイヤーにゆだねられている。


 だから、チュートリアルで知り合った美人姉妹の手伝いをしようとするのは、それほど不思議ではない。

 シナリオライターもそれを分かっていたに違いない。


 だが、彼女達の顔に釣られてホイホイ手伝うと、大抵の場合酷い目に遭うのだ!


 彼女達の専用シナリオの難易度はかなり高めである上、ちょっと選択を間違えて好感度が下がると二人ともあっさり裏切ってくれる。

 最悪の場合、捨て駒扱いされる始末である。


 お前ら、俺達を何だと思ってるの?

 下心ありで近寄って来る得体の知れない人間ですね。

 うん、捨て駒扱いされても仕方がない気がする。


 セーブ・ロードを繰り返しうまい事進めても、そのシナリオの中で彼女たちがどんな手段で金を稼いでいるか父殺しの真相などの、知りたくもない情報を次から次にお出しされる。

 彼女達のシナリオは、昼ドラも真っ青なドロドロの愛憎劇だ。


 発売して数日後の某掲示板の専用スレは、まさしく阿鼻叫喚であった。



 それでついたあだ名は「」である。



 ひどい。



 別に彼女達はそんな気は無かっただろうけどな!


 多分だけど、シナリオライターの趣味だと思う。

 そう言う意味では彼女達も被害者だな。


 ゲームのヒロインキャラとしては極めて異質だが、製作者はヒロイン扱いする気は無かったに違いない。

 初めてフルフル・ムルムル姉妹のシナリオをプレイした時は、あまりのショックに寝込んだが今となっては良い思い出だ。


 いや、良くはないな……。

 思い出すとお腹痛くなるし。



 つまり、俺は一度失敗している。

 ゲームの中ではあるが、この流れを一度体験しているのだ。


 ならば、変えられるはずだ。

 何が問題で、どう立ち回ればいいか知っているのだ。


 あんな悲劇的な結末を迎える事無く、姉妹仲良く生きる未来もあるはずだ。



 フルフル、俺は君がろくでもない女だと知っている。

 だが、妹の事は本当に大切にしている事を知っている。

 自分を悪者と思い込み、偽悪的な想いを抱いている事も知っている。

 妹が不幸にならぬよう、その身を挺して防波堤になっている事を知っている。


 ムルムル、俺は君がどうやって生きてきたか知っている。

 庇護者を失くし、姉と二人で生きていくにはそれしか手段が無かったという事も知っている。

 そして、君がそれを望んでなんかいなかった事も知っている。



 君達には、幸せになる権利がある筈だ。

 ゲームのように、決められた道を進まねばならない事なんて無い筈だ。

 ここは「アルカナ・サ・ガ Reincarnation」に似ているが、ゲームではなく現実だ。

 神のような存在はいるが、シナリオライターは居ないのだ。



 だから、お互いの事を大切に思っている姉妹で殺し合うような、そんな事はあっちゃダメなんだ。



 そんな未来は見たくはない。

 今度こそ俺に君たちを救わせてくれ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ◇間に合った。

 ドラクエ3はあとゾーマを斃して終わりです。

 都合3日間で終わりそう。


 ◇甘井くん側で数話、真砂君側で数話やって2章はクライマックスになります、多分!

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