第3話 俺と戦争と気付いた事。
俺の暮らしていた場所は、大陸南方にある都市国家群の一つだった。
前世の地球でもあった、都市単位の国。
古代ギリシャのアテナイとかが有名だな。
町の周りを高い石壁がぐるりと覆ってる感じだ。
まぁ、よくある異世界モノに出てくる町を思い浮かべてもらえば、それほど間違いじゃない。
実際はあんなに綺麗じゃないけどな。
と言ってもその事を俺が知ったのは、戦争が起こってからになる。
当時は生きるのに精一杯で、それどころじゃなかったし。
周りの連中も知らなかった訳だから、それは仕方が無かったとも言える。
住んでいたスラムは石壁の外にあったわけだが、幸いなことにそれまで特に問題はなかった。
魔物が少ない地方だったし、襲ってきたら晩御飯になるだけだったよ。
兎に角、隣街はそれ即ち隣国と言う訳で。
周囲を海に囲まれていた日本だと少し理解しにくいかもしれないが、小競り合い自体は多かったようだ。
そう言う意味では戦国時代っぽいのかな?
周辺の都市国家とは持ちつ持たれつやっていたようなんだが、どうしても軋轢ってものは産まれるもんだ。
軋轢は不満になり、不満は少しずつ積もっていく。
そして、そこに火種が投入されれば燃え上がるのだ。
俺は最初に述べた通り、戦災孤児だ。
前回の都市国家間戦争で俺の両親は死んだ、らしい。
何故あやふやなのかと言うと、俺の周りに詳しく知っている人間が一人もいないから、どうしてもあやふやになる。
ただ、状況証拠的に間違いないと思う。
なぜって?
俺と同世代の孤児、滅茶苦茶多いんだよ。
少し上や下に比べると10倍くらいいる。
だから俺達は戦争と言われると、非常に複雑な気分になる。
それさえ無ければもう少しマシな人生だったかもしれねぇってな。
だが、俺達のような孤児にとって戦争はチャンスでもある。
戦争に参加して勝てば、孤児だろうと市民権が貰えるのだ。
市民権、それは石壁の内側に住める権利だ。
大盤振る舞いだとは思うが、戦争で人口が減ることを見越した上らしい。
なんとも世知辛い話だ。
それを聞いてなお、俺は参加することに決めた。
その時点で同世代にはもちろん、大人たちにも負けない程の体躯を持っていた俺は、根拠も無く生き残ることが出来ると考えていたのだ。
市民権さえあれば、冒険者として登録もできる。
この肉体をもってすれば、冒険者としても大成できるだろう。
冒険者以外にも市民権さえあれば、大手を振って仕事をすることが出来る。
人間として生きる事ができるのだ。
そうすれば、俺が面倒を見ていた孤児たちに、もっといいものを食べさせることが出来る。
病気の子を医者に見せることが出来る。
「ボスならつよいからだいかつやくだね!」
「がんばってね! おみやげたのしみにしてる!」
「けがしないでね!」
そんな風に子供達に送り出され、俺と歳の近いメンバー数名は意気揚々と自ら地獄に飛び込んだのだ。
惨敗だった。
戦争開始から半日もしないうちに、俺の周囲には人だったモノが多数転がっており、生き残った仲間も少なくない傷を負っていた。
無傷の人間など、数えるほどしか見当たらない。
俺個人としてはかなり活躍したと思う。
相当な数の敵を討ち取った自信がある。
人を殺すことに抵抗はあったが、戦場ではそんなことも言っていられない。
命の取り合いである戦場の空気には少々戸惑ったが、それでも俺は特に傷を負うことなく戦うことが出来た。
だが、どれだけ個人での勝利を積み重ねようと、戦況に影響を与える事は難しいのだ。
俺がいる場所で優勢になろうとも、それ以外の場所が劣勢ならばどうしようもない。
俺は転生後はどんな喧嘩にも負けた事が無かったから、勘違いしていたんだな。
結局のところ、所詮多少腕っぷしの強いだけの兵卒に過ぎず、戦況を変えるほどの強さはなかったのだ。
まぁ、上の連中もそこまで期待はしていなかっただろうけど。
隣の都市国家とウチの都市国家、規模にそれほど差は無いと聞いていた。
戦場で戦う兵士の質にもそれほど差は感じられなかった。
なんと俺達、武器が自弁なんだぜ?
俺は棍棒を持ってきた、剣なんか買えん。
周りの人間の武装もバラバラで、正直山賊にしか見えんかった。
だが、それは相手もなんだよなぁ。
烏合の衆 vs 烏合の衆って感じだった。
なのに何故ここまで差が付いたのか。
慢心、環境の違い……と言いたいところだが、違う。
それは相手方にいた魔導士が原因だ。
こちらの軍にも魔術師なら数人いたようだが、上級ジョブである魔導士一人になすすべも無くやられたのだ。
遠目だった上、すっぽりとローブを被っていた為にその顔は見えなかったが、そいつは矮躯であった事だけは分かった。
戦闘開始と共に現れたそいつの姿に、こちら側の軍から笑い声が上がったが、すぐにその認識を改めることになった。
一瞬にして、こちら側の主力の正規兵が焼き払われた。
超巨大な火球が出現し、陣の真っただ中に叩き込まれたのだ。
今なら分かるが、あれは恐らく禁忌魔術『
本来ならあの程度の被害で済むような魔術ではない。
魔道士のスキルアシストを受けて失敗したのなら、アイツは魔導士としては二流だ。
ただ、それでもその一撃で半数が消し炭に、半数は助からない程の火傷を負った。
即死が出来なかっただけで、戦闘能力は失われたに等しい。
都市国家の戦術としては、俺達のような公募兵をぶつけた後に正規兵で攻めるつもりだったようだが、それが破綻した瞬間だった。
俺は先陣を切って飛び出していたので、運よく巻き込まれることは無かったが、戦争の趨勢はそれで決まってしまった。
俺は大魔術を見たのは初めてだった。
俺の周りには魔術については周囲に専門家がおらず、なかなか学ぶことが出来なかったが、あれほどまでの破壊を引き起こす事が出来るのは予想外だった。
見た事があるのはちょっとした火を出すとか、その程度だったから度肝を抜かれた。
もし知っていれば状況は……いや、俺が子供であるうちは不可能だったか。
そう言う意味では、こちらの負けは最初から決定づけられた運命とでもいうべきものであったのだろう。
敗走して戻ってきた俺達の目に映ったのは、燃え上がる街の姿だった。
そのまま占領して統治するつもりであった敵にとっても予想外であったろう大火は、勢いを増し都市国家の全てを焼き尽した。
俺の寝床、俺が必死に集めた物。
そして、最も大切な護るべき仲間達。
すべて、燃えた。
あとで聞いたところによると、戦場で見た矮躯の魔導士が暴走した結果らしい。
自分の力を示す為にやったらしいが……。
俺に新しい目的が出来た。
復讐だ。
奴らを殺す。
俺からすべてを奪ったあいつらを、必ず殺す。
全てを忘れて別の場所で生きていく方が、ずっと幸せになれるのは分かっている。
それでも。
俺の仲間をゴミのように殺したあいつらを、同じように殺し尽くしてやる。
赦してなるものか。
俺の復讐が始まった。
力がいる、それも個人では無く集団の。
そう思った俺は、同じように帰る場所を失った兵士たちをかき集め、傭兵団を結成した。
後に「火竜傭兵団」と呼ばれるものの始まりだ。
自衛のための力。
奪われないようにするための力。
そして、復讐するための力。
各地を転戦し、気付けば10年ほど経っていた。
彼方此方で多くの人達と出会い、別れた。
怒りも悲しみも、喜びも楽しい事も沢山のあった。
傭兵団も大きくなり、名も売れた。
俺も死にかける様な戦場を幾たびも経験し、力をつけた。
肉体的にも20代になり、ピークだという実感もあった。
だから俺は稼いだ金と築き上げたパイプをすべて使い、いくつかの都市国家を焚き付け、俺がいた街を滅ぼした奴らに戦争を仕掛けた。
お題目は南部に生きる人間の悲願である、南部都市国家群の統一だ。
俺は心底どうでもよかったが、そういう綺麗なお題目が無ければ人は動かんからな。
つまり、俺の復讐の為に踊ってもらった訳だ。
彼らも統一国家という果実を得ているからWinWinの関係だろ?
その頃、俺がいた都市国家を滅ぼした国は、南方都市国家群の中でもかなりの勢力を誇っていた。
件の国の国王は引退しており、国家運営の方針も大きく融和路線に切り替わっていたが、そんな事知った事か。
俺達からすべてを奪っておいて、のうのうと平和を享受する事なんて神が許しても俺が許さん。
だから、容赦無く一切合切、何も残さずに滅ぼした。
王と前王は俺が縊り殺した。
魔導士もこの手で討ち取った。
この事により南方都市国家群は滅び、新しい統一国家がこの地に誕生した。
まぁ、俺はどうでもよかったが。
十数年をかけた復讐は、終わった。
だからと言ってあの町が帰ってくるわけでもない、あの子たちが生き返るわけではない。
失ったものは戻らない。
それでも、終わった。
全てが終わり、俺は傭兵団を解散した。
文句を言う奴もいたが、力で黙らせた。
新しく誕生した国の連中にも随分引き留められたが、全てぶん殴って振り切った。
俺に勝てる奴なんて、この辺りにはいない。
力こそ、この世界では正義だ。
だが、俺のやった事は正義なのか?
答えは出なかった。
何もやる気が起きず、抜け殻のようになった俺は、最初の目標であった世界を見て回ることにした。
山を越え、川を越え、平野を行き。
辿り着いたのは、遥か北の学術都市。
そこで俺は、世界を学び直すことにしたのだ。
学術都市の大図書館でなんの気無しに見た高精度の『大陸地図』。
世界でもここでしか見る事が出来ないそれを見た瞬間、ざぁっと霧が晴れるように感じた。
なぜなら、俺にはその大陸の形に見覚えがあった。
今世ではなく、前世で。
「ここは、この世界は……!」
愕然とした。
何という事だ。
「……ただの異世界転生じゃなく、ゲームの世界への転生だったのか!」
前世でプレイした事がある、とあるゲームの大陸地図そのものであったのだ。
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◇復讐開始! 復讐終了!
まぁ、あんまり本筋に関係はないからね。
ただ、よくあるゲームキャラのバックグラウンドも結構波乱万丈で、彼ら自身にとってはそっちが人生のメインだったりするんでしょうね。
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