第32話 エピローグ3 俺と彼女たちと今後の事
激動の一夜が明け、希望の朝が来た。
程よい肉体的疲労に加え極度の精神的疲労もあり、目を閉じたと思ったら朝だった。
熟睡にもほどある。
眠った気がしねえ。
コンディションに問題は無いから良しとしよう。
これから旅に出ると、ここまで快適な環境で眠る事は中々難しいだろうしな。
風呂もそうだけど、敷布団にそば殻の枕とお別れなのはとても残念だ。
ベッドも悪く無いんだが、敷布団からしか取れない栄養素はあるのだ。
それよりも、起きたら俺の顔をジジが覗き込んでいて死ぬほどびっくりした。
何故そんなことをするのかと尋ねると、『ご主人様の安眠を見守っておりました』と返って来て猶更困惑した。
顔を隠した女が真っ暗な部屋の中で顔を覗き込んでいるとか、人によってはおしっこ漏らすぞ!?
完全にホラー映画の1シーンだ、
心臓が弱かったら止まるかもしれん、それくらいのショッキング映像であった。
まぁ彼女によると、朝食が出来た事を伝えに来た際のちょっとした悪戯だったらしいが。
その悪戯は死人が出かねないからやめなさい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺とメアリー、そしてシトリーが揃ったところで朝食となった。
メアリーとシトリーにはパンやチーズ、果物などが準備されたが、俺の前には米とみそ汁と納豆や焼き魚が並べられた。
ご機嫌な朝食だ。
俺の和食は極東ではよく食べられている献立らしく、リクエストしたら出してもらえたのだ。
初めて食べたときには懐かしさのあまり、つい涙が出てしまったよ。
何故かジジが物凄く驚いていたなあ。
まぁ、飯を食ったおっさんがいきなり泣き始めたら驚くか。
仕方ないだろ、数十年ぶりの味なんだからさ。
二人は俺の和食を興味津々だったので勧めてみたのだが、メアリーは味噌の匂いは駄目だったようだ。
まぁ、慣れないとキツいからなあ、発酵食品は。
日本人でもダメな人は本当にダメみたいだし。
だから納豆は止めておけ、悪い事は言わないから。
これは脅しではない、警告だ。
逆にシトリーは目を輝かせ、俺の朝食をパクパク食べていた。
何故、俺が箸をつけた物ばかりを狙うのか。
……まぁ、美味しかったらしいので、今度何か和食を作って食べさせてやろう。
どんどん食べてどんどん大きくなりなさい……。
まだスタイルとか気にしなくていいからさ、成長期は特に。
あ、俺? ちょっとぷくぷくしてるほうが好きだよ?
そんな楽しい朝食が終わった後、俺達は今後の予定についての話し合いの時間を取った。
場所は昨日ウルル女史と話し合った応接室だ。
俺達はとりあえずこの町で旅の準備を整え、近日中にイリアムの町に向かう事、その町には
何でそんな事を知っているのかと訝し気な顔をされたが、それは秘密にしておいた。
さすがに『実は俺、別の世界から転生してきた人間で、この世界は俺の前世で遊んでいたゲームの中なんです、しかも脳内にwikiまである!』などとは言えない。
でも、いつかはキチンと話しておかねばならないだろう。
どう説明すれば分かって貰えるかが悩みどころである。
そして、最後に俺は最も大事な事を伝えた。
それは、『
まだ確証はないが、それは最悪の事態に繋がる可能性がある。
「これはあくまでも俺の予想だが」と前置きし、使用出来なくなった「
専門の施設で調べないと分からないが、恐らくこの
この
普通ならば魂の器だけ切り取る事なんてできない、そんなことをすれば死んでしまうからだ。
しかし、どんな方法を取ったのか知らないが、この
つまり、この
それを聞いた二人は蒼褪めた。
さもありなん。
製作過程なんて考えたくもない、本当に碌でもない代物だ。
まぁ、それだけならただの気色の悪い強力な魔道具なのだが、そこでさっき俺が言った注意点が絡んでくる。
ゲーム的に言うと、熟練度が上がってスキルが増える。
しかし、それは使い方が上手くなったからなのではないのだ。
それは使用者の魂の器が、
形が近づけば近づく程、強力な力を引き出すことが出来る絡繰りだ。
短期間に連続使用すれば、その変質は加速度的に早くなるようだ。
それはずっと使っていたらしい人狼アモンが、その身をもって証明してくれた。
魂の器とは、その人の在り方だ。
その在り方が別の物になってしまったら、どうなるのだろうか?
別の誰かになってしまうのではないのだろうか?
それは「死」そのものではないだろうか?
(ゲームでは
そして、それが0になるとゲームオーバーになった。
描写はされなかったが、それはただの死を意味しているのだと思っていたのだが、もしかしたら違ったのかもしれない。)
そして、もう一つ問題がある。
この
つまり……────
「あ、おじさん。もういい、あんまり知りたくない……」
「とりあえず、使いすぎるとマズい事になるのだけは凄く良く分かったよ……」
ちょっとテンションが上がってしまい、更に突っ込んだ説明をしようとしたが、グロッキー気味の二人からストップがかかった。
うんまあ、普通ならショッキングな話だよな……。
続きはまた今度な!
大学で魔道医療を学ぶと、過去の失敗例で似たような話があるんだわ。
……もしかしたら人間が一番怖いかもしれない。
「む、そうか。ヒトの魂の器には復元力が備わっているから、一週間に1度くらいの頻度ならそこまで影響は無い、と思う。副作用を恐れるあまり使わず命を落とすことが無いようにな。……まぁ、最悪俺が何とかする。安心しろ」
魔道医学を学んだのは、本当に正解だった。
実は今はある程度であるが、魂の器に干渉する方法が確立されているのだ。
ちなみにその領域の権威が俺の先生だ。
本当に何でもやる人だ……。
『魂の器が傷ついている友達の治療の為に研究しているんだ』とか言ってたなあ。
「……わかった、その時はお願いね。私、信じてるからね。絶対、絶対、絶対に助けてね?」
「さすがパパ! 頼りにしてるよぉ!」
メアリーからは妙にねっとりした、シトリーからは軽い返事が返ってきた。
今後の戦いの事を考えれば、彼女たちが
鍛えるとしても、今回の争いには間に合わない。
常に俺が傍に居れればいいのだが、なかなかそれも難しいだろう。
それなら
フェアではない。
彼女たちは仲間だ、騙してこき使っていい存在ではない。
それに俺は、『確信がないから今はまだ言わない』みたいに意味ありげな発言をするキャラが大嫌いなのだよ!
ちゃんと、説明しろ!
どんなリスクがあるか、全部話せ!
例え間違っていたとしても、その時に謝ればいいだろ!
そこできちんと言わなかったから、事態が余計ややこしくなってるだろ!
取り返しがつかなくなってから「やはりそう言う事だったのか!」とか言う奴は、本当に死ねばいいと思う。
二人が落ち着いた後、旅の準備をするための買い物に誘った。
準備はできる時にしっかりしておかないと、まわりまわって余計な時間を取られるからな。
が。
シトリーはなぜかちらりとメアリーを見た後、「ちょっと調べ物があるから、午前中はメアリーちゃんと二人で行ってね! あ、ボクは午後にお願いね、パパ!」と笑う。
ふむ?
これはつまり、自分達と向き合いコミュニケーションを取れという彼女たちからのメッセージか?
とにかく今は彼女たちの信用を積み上げていかないといけないから、いい機会ではある。
なんか一緒に修羅場を潜ったせいか、結構前からいる様に感じちゃってるわ。
いかんいかん、まだ知り合って1日も経ってないんだった。
そうだ、メアリーには武器も用意せねばならないのだった。
形見の剣、折っちゃったし。
修理できないかも聞かないとな、ちょっと難しいかもしれんがナイフなどに作り替えることが出来るかもしれない。
あと、メアリー着ている服もちょっとほつれが目立つし、しっかりとしたものを買ってあげたい。
良くも悪くも田舎から出てきたばかりのおのぼりさんだからな、ちょっと服のセンスが古い印象がある。
俺の都合に付き合せるのだ、そう言った部分では贅沢をさせてあげたい。
金ならあるのだ、ガハハ!
……シトリーに対しても同程度の金額を掛けてあげないといかんなあ、差をつける訳にもいかんし。
シトリーは金に困ってないみたいだし、どうした物やら。
「そう! 相互理解を深めるために、パパにはボク達とお買い物デートをしてもらいます! しっかりエスコートしてね!」
そう宣言してシトリーがにっこりと微笑み、その後ろでメアリーもこくこく頷いている。
……ぬう、年頃の女の子と二人で買い物デートか。
血に塗れた復讐と肉片が舞う闘争と地獄のような勉強しかしてこなかったから、前世も含めそういう経験はほとんどないのだよなあ。
あ、ロッテ・リードマン女史とはよく行ってたけど、特に会話に困る事も無かったし彼女も気にしなかったのでカウントに入れていない。
友達だからな、うん。
……たまに強請られてアクセサリー買ってたな、あれはまさか……いや……うーん。
「パパ?」
「あぁ、すまん。もちろん問題ないさ」
ポンと頭に手を載せて笑う。
……上手くコミュニケーションが取れればよいのだが。
えっと、デートって何話したらいいの?
戦争の話? 魔術の話? 効率的な人の殺し方?
ファッションとかそう言うのは全くダメなんですけど!
おじさん、ちょっと……いや、かなり心配である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇エピローグ3で終わりと言ったな?
あれは嘘だ。
嘘になっちゃった(´・ω・`)
◇と言うわけでエピローグ4はデート回です。
◇いや、エピローグ3でデートまで終わらせるつもりだったんだ。
でも、
ここで説明しておかないと、よくわからんままになりそうだったんでェ……
まぁ、ろくでもない代物で間違いはないです。
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