第31話 エピローグ2 俺と残念な彼女たち。

「……疲れた」


 一人になった俺は自室に戻り、身体を投げ出すようにソファに腰を下ろして呟いた。

 体力的にはこの程度なんの問題も無いが、精神的には疲労困憊と言ってもいいだろう。


 マジで疲れた。

 何なんだこのイベントラッシュは。



 いや、一番疲れたのは最後のウルル女史の質問攻めだったけどな!


 ロッテ・リードマン女史の親友があの人だとか、予想外もいい所だよ!

 知っていればもっと円滑に話は進んだろうに。


 なんつーか、異世界転生してる俺が言うのもあれだけどさ、謎の司書兼作家の親友が教会騎士団の特務部隊とかどんなラノベだよ、ちくしょうめ!


 しかもウルル女史も先生に世話になったらしいし。

 あの人もラノベの主人公みたいな存在くさいなあ……。

 飄々とした初老の男性なんだが。


 とにかくロッテ・リードマン女史の関係者という事で、一気に口調が砕けた……というか馴れ馴れしくなったウルル女史から根掘り葉掘り聞かれたわけだ。


 彼女たちはシェアハウスという事で同じ屋敷に住んでいるらしいのだが、俺は一度も顔を合せたことが無い。

 それなりの頻度で訪れてたんだけどねえ。


 よく考えてみると「今日は来るな」みたいな事をたまに言われてたわ。


 妙齢?の女性の家に行くのだからその辺をしっかり守っていたので、結果として5年もの間お互いの存在を知らなかったわけだ。

 俺が訪れた際の痕跡や匂いとかも、全て綺麗に消されていたらしい。

 徹底してる。

 間男か何かか、俺は。


 ……なんでそんな事したんだろう?と漏らしたら、ウルル女史は滅茶苦茶ニヤニヤしながら「恥ずかしかったんじゃない?」とか言っていた。


 中学生か。


 普通に紹介してくれりゃ、こんな面倒な事にならなかった物を……!



 とりあえず、恋人ではないという事は話しておいた。

「またまたぁ~」とかクッソムカツク顔で言われたが、マジで5年間そう言う会話は無かった。


 フィールドワークについて来てくれたり、彼女の仕事を手伝って徹夜で同じ部屋に居たりはしたが、そういうオトナの付き合いは一切ありませんでしたァ!(半ギレ)


 それだけは真実を伝えたかった。


 いや、ほんとすごくいい友達付き合いをしてもらったのだ。

 あの町には知り合いは一人もいなかったが、寂しいと思った事は一度も無かった。

 忙しくてそんな事を考えている暇が無かったのもあるが。



 ……彼女からは全くそう言う素振りはなかったが、なんとなく好意のようなものは感じていた。



 正直に言おう、俺も友情以上のものは感じていた。



 彼女は見た目こそ幼いものの、その知識量には敬服しているし、ややシニカルでダウナーな所はあるがとても優しい事を知っている。

 

 尊敬できる素晴らしい女性だ。


 別れの際の自分の家族を紹介する、という彼女の言葉はと理解はしているつもりだ。



 だが、俺には今やることがある。

 やらねばならぬことがある。


 俺がやらねば、誰がやるのだ?



『なので、今はそう言う関係ではありません』


 と、言った所、ウルル女史は「うひょおおおおおおおおおおおおおお!!!!」とか叫んで床をゴロゴロ転がり出した。


 一体何なの……?


 そしてむくりと起き上がり、真顔で頭を下げられた。


『あたしが許す、許すから貰ってあげて。ロッテちゃん、だいぶ拗らせてるから』


 アンタになんの権限があるんだ……?

 まぁ、拗らせてるのはなんとなくわかる。


 その後も、彼女は幾つかのエピソードを話すまで離してくれなかった。

 別に艶っぽいエピソードは無かったものの、ウルル女史は随分満足気であった。


『揶揄うネタが出来た!』


 やめて差し上げろ。

 いや、マジで。




 ……疲れた、本気で疲れた。

 もしかしたらロッテ・リードマン女史はこれが面倒で黙ってた可能性があるな……!



 ちなみに彼女は「恋人が居る」と言ったわけではなく、「仲がいい奴が出来たから、今度紹介するわ」程度の話だったとの事。

 それをウルル女史が拡大解釈しただけの話らしい。


 ……あれ? 俺、もしかして余計な事言った?


 帰り際に、『にゅふふふふふふふふ、あたしは黙っとくから安心してよぉー!』とかクッソムカつく顔で言われた。

しばいたろか。


 これでロッテ・リードマン女史が、マジで俺の事を「仲の良い友達」とか紹介したら腹を切るしかあるまい……!

 自意識過剰もいい所だからなァ!



 ……まぁ、全部終わってから考えよう。

 神札タロット戦争が終わった後にも、俺には人生の目的が必要なのだ。


 そう言う意味では、なんと紹介されるかがではある。



 きっと俺の人生を彩る素晴らしい思い出の一つとなるに違いない。



 まぁ、ロッテ・リードマン女史についてはもういい。

 うん。

 いいのだ。

 はい、やめやめ!



 それより今、俺が本気で考えなくてはならないのは、「イベント」についてだ。


 メアリーとの邂逅以降、立て続けに起きた出来事はどれも今後に関わるような「イベント」だった。

 ゲーム中に起きる「シトリーのイベント」だけでなく、人狼の襲撃のような想定外の「イベント」も起きた。


 そしてその人狼を追って来た教会騎士ウルル・ルー。

 彼女は「アルカナ・サ・ガ」には出てこなかった人物だ。


「ゲーム内のイベント」と考えるとおかしなことだらけだが、出来事一つ一つは全て絡み合っており筋が通っている。


「アルカナ・サ・ガ」についての記憶が戻り、攻略wikiの知識が与えられたことにより「ゲーム」としての認識が強かったが、その気分に冷水をぶっかけられた気分だ。



 俺はこれまで何を見てきたんだ?


 この世界で様々な人と出逢い、別れてきたじゃないか。

 この世界の人々は生きている。

 喜び、悲しみ、怒り、笑う。

 いい奴も悪い奴もいる。


 人は死に、決して生き返る事はない。



 この世界は、

 間違ってもゲームではない。



 何が「未来の事が分かる」だ。



 確かに攻略wikiに載っているような出来事は起きるのだろう。

 だが、それは「ゲームのイベントだから起きる」のではない。


 起こるべくして起こるのだ。


 物事には理由がある。

 原因がある。

 それを忘れてはならない。


 忘れた時、俺は大きなしっぺ返しを受けるだろう。



 メアリーとシトリーもそうだ。

 あの子たちはゲームシステム上では「仲間」になったはずだ。


 しかし、ゲームのように俺の手足のように動くわけではない。

 ある程度の指示は聞いてくれるだろうが、その意に反した行動は難しいだろう。



 当然だが彼女たちは、独立した意志を持つ人間なのだ。



 彼女たちが俺と同行する事に決めたのには、当たり前だが理由がある。


 それを裏切るような事をすれば、あっさりと袂を別つことになるだろう。

 打算の上で成り立った関係であるのだから、冷静に考えてみれば当たり前だ。


 彼女たちと俺の間には「信用」が無いのだ。


 積み上げた関係性が存在しない。

 ゲームのように理由も無く最後までついてくることなどありえないだろう。


 ゲームだと「なんで君最後までPTにいるの?」みたいなキャラもいるからな……。

 普通に考えると「用事が済んだらばいばい」になる筈だ。


 ……なんとなく攻略wikiを見て最終パーティとか考えていたが、それについては考え直す必要があるかもしれない。


 というか、ゲームでは5人パーティーだったが、別にその数にこだわる必要はないのでは?

 その気になれば10人でも20人でも行けると思う。


 幸い俺には傭兵団を纏めていた経験がある。

 孤児たちをまとめ上げ、小さいなりに組織を作り上げた事もあった。

 その辺のノウハウも生かせるだろう。


 ……そうなるともう、ゲームの内容からかけ離れた展開になりそうだな。

 別になぞる必要はないのだが、少しだけ不安だ。

 とにもかくにも、検討し直さねばなるまい。



神札タロット戦争」は始まってしまった。


 ゲームと同じように、全てを集めて願いを叶えることが最終目的ではある。



 ゲーム内で全てを集めた際のエンディングは幾つかあるはずなのだが、ふざけたことに俺の脳内にある攻略wikiからは綺麗さっぱり消してあるのだ。


 無理矢理引っ張り出そうとしても「404」とか出る始末だ。


 ふざけてやがる。



 俺をこの世界に引っ張り込んだ奴は、間違いなくクソ野郎だ。

 こうやって悩んでいる様を見てニヤついているに違いない。



 それでも俺は指針として、攻略wikiを頼らざるを得ない。

 大きなアドバンテージだからだ。




 俺は神札の啓示を受けた直後から最短距離で各地を回り、神札タロットをかき集めたのだ。


 その数、4


ザ・パワー」「吊るされた男ハングドマン」「死神デス」、そして俺の「悪魔ザ・デビル」。


 どいつもこいつもいずれ劣らぬ札付きのろくでなしばかりだ。

 放っておくと災厄を引き起こす、そんな連中だ。


 故に、奴らが何かやらかす前に

 理不尽かもしれないが、神札タロットの啓示を受けた訳だからその辺は勘弁してほしい。

 遅いか早いかの違いだ。


 事前に彼らの居場所は調べていたし、名前なども攻略wikiで知っていたからそれほど難しくなかった。


 戦争で多数の命を奪った俺だ、今更多少の数が増えても気にはしない。

 前世での倫理観から言えば「やるかもしれないから」で殺すのは完全にアウトだが、この世界は日本ではないのだ。


 放っておくと、数百人数千人単位で人の命を奪う奴の事情など知った事か。


 メアリーやシトリーと出会えたり、『ザ・ムーン』までが手に入ったのは僥倖だった。


 特に主人公であるメアリーとは敵対する可能性が高かったし、多少無理をしたが最初に出会って手を組む事が出来て良かった。


 しかし、幾つか気になる事もあるのも確かだ。

 予定ではもう一枚神札タロットを集められるはずだったのだが、空振りだったのだ。



 それは神札タロット恋人ザ・ラヴァーズ』。


 異性に対する強力な効果を持つ神札だ。

 ゲームでは全く使えないゴミであったが、現実となると一番タチが悪いまである。


 どう考えても放っておくとマズい。

 しかし、それが見つからなかった。


 


 他殺かどうかは不明だが、階段で足を踏み外したのが死因らしい。


 目撃者は、いない。



 酷く嫌な予感がする。

 大事になる気がする。


 こういう時の勘は外れないんだよなあ!

 ちくしょうめ。



 まぁ、情報が足らない間はどれだけ考えても答えは出ない。


 今は、ゲーム中ではありえない速度で神札タロットが集まった事だけを祝おう。


 シトリーの5枚、俺の4枚、そしてメアリーの1枚。



 合計10枚!



 半数近くを握っているのだ。

 油断をする気は無いが、ロケットスタートが切れたと言っていいだろう。



 棚から酒を取り出し、グラスに注ぎ呷る。

 上質だが強いアルコールが喉を焼く。


 全て集めるまで、どれくらいかかるだろうか。

 ゲーム中ではその辺の情報が全然なかったんだよなあ。


 だが、ストーリーのテンポから考えると、1年もかかっていないと俺は推測している。



 ……なるべく早く終わらせて、あの町に帰りたい。


 すっかり第二の故郷となっている、あの町並みを思い出す。

 あの町で一緒に過ごしていた、彼女の顔を思い出す。



 絶対に生きて帰らねばならない。



 俺には待ってくれている人がいるのだから。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ◇前半は書きながらニヤニヤしていました。

 前の話との温度差が酷い。


 ◇エピローグは多分3までです。


 ◇あんまり人気が出なかったらヴァサゴくんの集めた数が増える予定でした。

 最悪「これで22枚!」とかなる可能性もあったよ!

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