第33話 エピローグ4 「悪魔」、邂逅す。
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
「お、おう」
何故か物凄く上機嫌なメアリーと連れ立って、アースの町へ繰り出す事になった。
「それで、最初はどこに向かう予定なの?」
歩きながら何を話すか悩んでいると、気を使ってくれたのかメアリーの方から話題を振ってくれた。
いい子や……。
「とりあえず最初は俺が折ってしまった剣の代わりの調達と考えている」
彼女は剣士であり、その獲物が無ければ戦闘力はガタ落ちする。
流石に昨日の今日で戦闘になる事はないと思うが、早めに用意したほうが良いのは言うまでもないだろう。
昨日はそれで失敗したし。
「あー、確かに。腰のあたりが軽くてちょっと不安だったんだよね」
腰の辺りをぽんぽんと叩くメアリー。
「そうだろうなあ。俺みたいに素手でもイケる奴の方が珍しい訳だし。本当に申し訳ないと思っている。ただ、戦えた方が良いのは間違いないから、旅の途中に格闘について手解きしよう」
決して無駄にはならない筈だ。
「ほんと!? ありがとうおじさん!」
俺の言葉に大喜びしたメアリーは、俺の腕にぎゅっとハグをしてきた。
むにゅん。
今日は胸当てなどの防具を身に着けていないので、その柔らかい肢体の感触がダイレクトに伝わってくる。
はっはっは、軽率なボディタッチは止めような!
俺が10歳若かったら勘違いするところだったぜ!
あぶねェあぶねェ……!
戦争中に英雄と呼ばれていた頃は、色仕掛けを含めて色々されたものだが、ここ数年はストイックな日々だったからなあ。
元々食欲以外の欲は薄い方だし。
ロッテ・リードマン女史?
平たい。
特に文句はない。
無いのだ。
「そんなに喜ぶ事かい?」
勿論、自制心の塊である俺はそんな事をおくびにも出さず、クールに肩をすくめてみせる。
ふ、小娘の軽率な行動など我が自制心の前には塵芥よ。
だから離して。
「当たり前でしょ!? 南部の英雄から直接指導してもらえるなんて、人によってはどれだけお金を積んでも惜しくないはずよ!?」
そういうものかなあ?
あの学術都市で俺の事に気付いた人は何人か居たが「へー、そうなんだ」位の扱いだったぞ。
あの場所で大事なのは「どんな研究をしているか」であって、どこかの戦争で活躍したという事はあくまでも話の種にしかならないのだ。
……まぁ、かなり特殊な場所である。
うん、石を投げたら変人に当たるような場所だったからな……。
お前もその変人の一人だろうって?
はっはっは、ご冗談を。
俺ほどの常識人は世界広しと言えどもなかなかいないぜ!
「約束だからねー!」
メアリーはそう言って俺の腕を抱いたまま町へ向かうのだった。
ところで、そろそろ離してくれませんか……?
ちょっと……あの、当たってて……。
「当ててんのよ」
「ワッザ!?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……あんまり良いのがないな」
「そう? 私からするとそれほど悪くは無いと思うんだけど……」
武器屋で手頃な剣を数本用意してもらい、順番に持たせて素振りをさせているのだが、なかなかメアリーの腕に見合うものが無い。
「お嬢さんはまだまだ成長期ですからね、今出したものだと少し重すぎるとそちらの旦那は仰っているのでしょう」
店員が苦笑して、剣を片付ける。
「元々あの形見の剣はメアリーにはちょっと重すぎたんだよ。お父上の為に誂えられた訳だから、それも当然と言えば当然なんだが」
成人男性向けの剣だとやはり重量的にきつい筈だ。
無理をすれば使えなくは無いだろうが、長時間振るうには少々厳しかったのではないかな。
「あー、なるほど。確かにそうだったかも。慣れてたからあんまり気にしてなかったんだけどね」
「変な癖がつくから、やはりピッタリの長さと重さの方がいいんだよ」
まぁ、武器なんて安いもんでもないから、みんな誤魔化しながらやってる。
アースの町は別名「始まりの町」だから、初心者向けの武具が多い。
そのせいで少し質が良い物を求めるとなると、途端に選択肢が絞られてしまうのだ。
「拘るのでしたらウチの工房で新しく打つというのは如何でしょう?」
店員がにこやかに勧めてくる。
俺達が
それに、カネを出すのは俺だと分かっているらしく、俺にしか話し掛けてこない。
メアリーは物珍しそうに店内を見て回っている。
「……それが一番なんだろうが、採寸からやるとなると相当時間かかるだろう?」
ゲームのように1日2日出来上がるものではない。
「そうですね、万全を期すなら一か月ほど頂きたいところですね。もちろん、その分素晴らしい物をご用意できると思います」
うん、論外だ。
時間があるならそれも悪い選択肢じゃないと思うのだが、今はそんなことをしている暇はない。
……うーん。
繋ぎとして何か買おうと思ったが、無理にここで買う必要もなかろう。
「とりあえず一旦持ち帰って、相談してからまた伺いますので」
「アッハイ、お待ちしております」
「メアリー、出るぞー」
「はーい」
「んで、おじさんどうするの?」
武器屋を出てちょっと先にある広場でメアリーが楽しそうに訊ねてくる。
この広場は武器を買った人間が試し切りなどを行う場所だ。
数名の冒険者らしき人間が武器を振るっているのが見える。
俺は何も答えず、メアリーの身長や腕の長さを目測する。
なんでちょっと嬉しそうなん?
……ふむ。
「ちょっとこれ持ってみ」
そう言って俺は、腰に下げた空間拡張鞄から一振りの剣を取り出した。
メアリーは頷き、鞘から静かに抜く。
するり。
造りがいいのか、彼女が上手いのか鞘走りの音はしなかった。
美しい刀身が太陽の下に現れる。
「片刃かぁ……」
彼女が今まで使っていた剣は両刃のロングソードで、片刃だと色々勝手が違う筈だ。
だが、彼女の戦闘スタイルだと片刃の方が向いてるんだよね。
「重さとかはどうだ?」
「んー……」
ヒュッ シュッ
軽く振るう姿は様になっており、まるで彼女の為に誂えたかの用であった。
「……悪くない。というか、ものすごくしっくりくる。不思議」
驚きの表情を見せるメアリー。
「んー、メアリーと同じくらいの背格好の奴が使ってた剣だからな。質は良いと思う」
当面はこれで凌ぐか?
どうせ指導はするのだから、彼女の剣の幅を広げるには悪くない選択かもしれない。
「私と同じくらい……? じゃあ、女なの?」
すっと気温が下がった気がした。
「えっ? あぁ、うん、傭兵やってたの時の部下だな」
な、なんだ?
何が気に入らなかったんだ?
妙な暗い圧力を感じ、背中に冷や汗が流れる。
「ふゥん? 部下、部下ね……どんなご関係で?」
質問というか、尋問になってきている気がする!
「か、関係? 上司と部下というか……正直、名前もはっきり憶えていない」
隠すようなことでは無いので、正直に答える。
「えっ」
変な圧力が霧散する。
そのことにほっとしながら続ける。
「なんつーか、戦争の真っただ中に志願してきた奴でな。俺に憧れてきたらしいんだが、その時は戦争が大詰めで相手してる余裕がなかったんだよ。しばらく俺の周りでちょろちょろしてたんだが、最終局面で行方不明になってな……。残ってたのはその剣だけだ。一応探したけど見つからなくて、結局そのままだ」
戦後処理の真っ最中で、何もかも大混乱だったからなあ。
「……結構ドライなんだね、おじさん」
責めるように口を尖らせるメアリー。
どうしろと。
「初期からのメンバーじゃなくて、俺達が優勢になってからの志願者だったからなあ。似たような連中結構いたんだよ、勝ち馬に乗りたいような連中」
「あー……」
「戦力にはなるから受け入れはしたけど、正直俺としてはあまり。持ち物と身なりから推測するに、どっかの貴族っぽかったし」
重用したくないに決まっている。
「まぁ、そう言う経緯なんでちょっと縁起は悪いかもしれないが、武器は武器だからな。質はかなりいいと思うから、使いたいのなら使ってもらって構わない。特に思い入れも無いし、折っても構わんぞ」
「うーん、なるほどォ……。うん、ちょっと使ってみようかな」
ぶんぶんと感触を確かめるように、剣を振り回しながらメアリーが頷く。
よかった、とりあえず当面の武器はこれでいいだろう。
ちょっと使ってみてダメそうなら、次の町で新しく探すことにしよう。
……あぁ、剣の持ち主の名前を思い出した。
確か、アイツは『パイモン』と名乗っていたな。
まぁ、もし生きていても会う事は無いだろうが。
こんな事言うとなんか再会のフラグみたいだな、わははは。
さて、メアリーとのデートはこれからが本番になるな。
気合入れていくぞッ!
話題は……武器屋の後だから効率的な首の落とし方で良いか。
「よし、とりあえず武器の問題は片付いたな。じゃあ、次は服でも……────」
ふと視線を感じ、振り向く。
そこにいたのは、驚愕の表情を浮かべる「男」。
二人の女を侍らせた、金髪翠眼の美男子。
まるで、俺の後ろにいるメアリーを男にしたような雰囲気を持つ男。
男が、呻くように漏らす。
『なぜ、お前が……こんなところに……』
『アルカナ・サ・ガ』の男主人公が、そこにいた。
1章『理不尽系ラスボス俺氏、残念ヒロインズと無事邂逅す』 完
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇はい、すげえところですが、ここで1章が終わりです。
一応、予定していた展開まで持ってこれました。
◇ちょっと休んでから2章やります。
少々お待ちください。
steamのサマーセールで買ったゲームやりたいんだ!
ユルシテ。
◇明日はキャラ紹介の予定。
閑話というか、ロッテちゃんとかの話を書くのも有りかなーと考えてます。
四天王とかもええな。
◇今後もよろしくお願いします。
面白かったら⭐︎もよろしくぅ!
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