第14話 俺と彼女とその悩み。
メアリーの故郷である「隠れ里」への旅は至極順調であった。
流れの早い河川や危険な湿地帯など、本来なら遠回りしないと進めないような場所も浮遊式衝撃推進魔導装置試作8号……『ベヘモス』なら無問題だからな!
だから君達、もう少し興味を持ってくれても……。
え? 仕組みはどうでも良い?
はい……。
まぁ駆動方式のせいで少々喧しく、そのせいで少し強めの魔物を呼び寄せる事もあったが、俺が指先一つでダウンさせて(誇張なし)俺達の夕食の献立を豪華にしてくれたので何も問題はない。
特にこの辺のヌシである「おおとかげ」は脂がのっていて実においしかった。
ご馳走様。
そんなこんなで目的地まであと1日となった日の夜。
この日の不寝番の担当である俺は、一人焚火の前でペンを片手に状況整理をしていた。
アマイモンからもたらされた情報を元に、俺の脳内wikiを改めて精査しているのだ。
状況が変わりすぎて全く当てにできなくなった脳内wikiだが、それでも活用できる部分はある筈だ。
その辺の情報を纏めてアマイモンに渡し、今後について話し合う必要がある。
もちろんすべての情報を渡す気は無いし、アマイモンもきっとそうだろう。
情報は力だと現代(?)日本人ならよく分かっているだろうしな。
だが、協力関係を結ぶのならお互い利のある関係で無いといけない。
片方が不満を持つような関係では、いつ寝首をかかれるか分からんからな。
とまぁ、どこまで情報を渡すべきかというのが現時点での俺の悩みである。
渡しすぎても駄目だし、足らなくても問題だし……ううむ、その辺の駆け引きについては暴力で誤魔化してたからなぁ。
すっかり蛮族になってしまった。
こういう時、バアル様やアガレス翁の硬軟織り交ぜた対応はすごかったと思える。
譲れない一線は死守し、尚且つお互い妥協できる点をいつも目指していたからな。
途中で面倒になってしまう俺とはえらい違いである。
……元気かな、あの二人。
もう5年も会って無いんだよなあ。
そんな事をぼんやりと考えていた、その時。
ゴソゴソゴソ……
メアリーとシトリーが眠っているテントから音が聞こえた。
と言っても不審者ではなく、どうやら二人のどちらか目を覚ましたようだ。
……うん、熱源の大きさを見るにメアリーだな。
これは……トイレじゃな?
ならば俺は、気付いてない振り.exeを実行する!
以前似たようなシチュエーションで尋ねたら、『こういう場合はスルーするのが礼儀だ!!』とロッテ・リードマン女史からこっぴどく叱られたんで……。
そう思っていたのだが……。
ぺた ぺた ぺた すとん。
俺と焚火を挟むようにメアリーが座った。
「…………」
「…………」
無言。
聞こえるのは焚火の薪が爆ぜる音と虫の声だけである。
な、何!? 何なの!?
トイレじゃないの!?
彼女の目的が何なのか全く分からず、内心大混乱に陥る。
俺は気付かない振りをしているので手元の資料に視線を落としたままであり、メアリーの表情を窺うことが出来ない。
俺の経験上、こういう場合に取るべき行動は概ね2つある。
一つ目は、そのままただ黙って静かに傍に居る。
普段から思慮深く、悩みが多いタイプはこっちだ。
悩みを共有するのではなく、自分で考えて選択するバアル様やロッテ・リードマン女史のような人は「安心」を俺に求める場合が多い。
もちろん話し相手が欲しい場合もあるので、見極めは必要だが。
二つ目は、こちらからそれとなく悩みを尋ねる。
俺に「共感」を求めるタイプはこっちだ。
悩みがあり、それに対して俺の助言を求めている場合だ。
ちなみに助言をしても採用される事はほぼない。
ただ話を聞いて欲しいだけなのだ。
言ってしまえば「かまってちゃん」はこっちである。
さて、メアリーの場合はどっちだろうか。
……うん、後者だな。
メアリーは間違いなく後者だ!!
アマイモンの魂を賭けてもいい。
彼の犠牲を無駄にしない為にも、さっそく声を掛ける事にする。
違ったらごめんね、アマイモン。
「悩み事か?」
「……うん、おじさんにはお見通しかぁ」
そう言って苦笑するメアリー。
ヨシ!
表情を見るにどうやら正解だったようだが、別に見通した訳ではないのは言うまでもない。
今も彼女が何について悩んでいるのかさっぱり分からない。
全然分からない。
俺は雰囲気で対応している。
女の人にはある月に一度のあれかな?とか考えたが、流石の俺も直接聞いたりはしない。
以前、バアル様に聞いたら死ぬほど怒られたからな!
ラスボスたる俺には同じ技は二度と通じぬ(?)
「吐き出しみろ。言語化するだけでも整理されて楽になるものだ」
まぁ、楽になるだけで解決はしないんだけど。
「うん、ありがとう。えっとね、私が村から旅立つ時は一人じゃなくて……───」
メアリーは俺の言葉に小さく微笑み、話し始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なるほど、大体わかった」
そう言いながら話を聞きながら沸かしていた白湯を手渡す。
『隠れ里の人間の前に姿を現したくない』
あっちこっちに脱線しまくった彼女の話を、一言で纏めるとそうなる。
なんでも同行者であった里長の息子が事故で死んでしまい、その報告をするのが嫌だとの事。
うーん、細かい事情は知らないが報告だけはしておいた方が良い気がするのだが……。
彼女の語り口から察するに、碌な奴では無かったようだし気持ちは分からなくもない。
ま、結局は彼女の里の事情だ。
俺が首を突っ込むのも違うだろう。
悪いが俺はメアリーの人生に介入する気は無い。
責任を取る気は無いのだ。
だから彼女の望むように動こう。
……なんか俺、すごく嫌な奴っぽいな!?
「じゃあ、こうしよう」
彼女の緊張を解きほぐすように「にぃ」と笑う。
「メアリーの母君の治療は誰にも見られぬように行おう」
「え……できるの?」
驚きの表情を浮かべるメアリー。
そんな返事があるとは思っていなかったようだ。
「もちろんだとも」
鷹揚に頷く。
その程度、単身砦に忍び込んで守備隊全員を暗殺したことがある俺にとって朝飯前である。
「里の人を全員殺して『はい、目撃者はこれでいないよ』とかいわないよね?」
「お前は俺を何だと思ってるの……?」
一応、無駄な殺生はしない性質である。
必要ならいくらでもやるけど。
「ありがとう!」
がばっと抱き着いて喜びの声を上げるメアリー。
うーん、ちょっと罪悪感。
彼女の為を思うなら村人とのトラブルを解決してやるべきなのだろうが、俺が楽をするためにその道を潰した。
……これは傲慢というものだろうか。
「ねぇ、おじさん。一つきいていい?」
抱き着いたまま、メアリーが上目遣いで俺を見ながら尋ねてくる。
彼女のちょっと高めの体温を感じ、内心ドキドキであるが何でもないような顔で答える。
「構わんよ」
「私のお母さんが病気って、どこで知ったの?」
俺を見上げるその目は、冷静な観察者の目だった。
逃げたり誤魔化すことは許さない、と言わんばかりに俺を抱きしめる腕に力が籠る。
まぁ、気になるよな。
さて、どう答えようか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇淡路島の山を自転車で登ってる時に、現実逃避の為にこの話考えてた。
本当につらかった。
アプリでタクシー呼ぼうと思ったけど、サポート外で全く役に立たなかったぜ!
◇旅行から帰って来て丸一日休んでたのに、疲れが抜けない……!
歳だねえ……!
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