理不尽系ラスボス俺氏、残念ヒロインズと無事〇〇する。

みかんねこ

1章 理不尽系ラスボス俺氏、残念ヒロインズと無事邂逅す。

第1話 理不尽系ラスボス俺氏、主人公と邂逅す。

「お願いします、あなたの持つ神札タロットを譲ってください!」


 俺達がいるのはアースの街の外れ、街の人間には廃棄地区と飛ばれている場所。

 まさにスラム街と言う風情で、人影は無くどこか荒んだ雰囲気が漂っている。


 少なくとも眼前の少女のような子供が、うろつくには似つかわしくない場所だ。


 時刻は夕暮れ。

 空は茜色に染まっており、まもなく夜の帳が下りて来ようとしている頃合いだ。

 いわゆる逢魔ヶ時と言う奴だな。


 そんな場所を歩いていた俺に声を掛けてきた少女は、見たところ十代半ば。

 顔付きは凛々しく、金色の輝くようなツインテールとやや釣り目気味の緑色の瞳が印象的だ。

 きっと十年後には誰もが振り向くような美女へと成長するだろう。


 ふーん、だとドット絵だったけど、だとこうなるんだ。


 日本ですれ違ったら、100人中150人が振り返るだろう(半数が二度見する)

 弩級の美少女つまりド美少女である。


 まぁ、この世界の顔面偏差値は妙に高いからなあ。

 俺の前に立つ少女ほどでもないが、驚くような美形の人間を割と見かける。

 俺? ははは……。

 不細工って言う程ではないと思う、うん。


 まぁ、美少女だろうが不細工だろうが関係ない。



 彼女には利用価値がある。



 その為にわざわざ人気のない場所に誘い出したんだから、後はやる事をやるだけだ。



 そんなことを考えながら、俺は目の前で頭を下げる少女へジロリと視線を向ける。

 今の俺の見た目は、どこに出しても恥ずかしい、それはそれは立派なゴロツキなのでそこそこ迫力は出るだろう。


「き、聞こえてますよね?」


 俺の視線にいきなり弱気になった彼女の言葉を聞き流しながら、魔術「解毒アンチドート」をこっそりと発動させて、体内のアルコールを分解して酔いを醒ます。


 酒でほんの少しぼんやりしていた頭が、一瞬ではっきりした。

 ……うん、大丈夫だな。


 ごろつきを装う為だとしても、場末の酒場の酒なんてモノを飲んだから心配していたのだ。

 ありゃあ多分混ぜ物して嵩増ししてやがんな、変な風味が付いてたし。


 この身体ならばあの程度の酔いならば問題は無かったと思うが、計画を進めるなら万全を期すべきだろう。

 失敗は許されない……訳でもないが、上手く行くに越したことは無い。

 完璧にやろうとすると何事も上手くはいかないものだ。

 ゆる〜くいこうや。


 普通の人は「解毒アンチドート」をこういう使い方はしないらしく、色々教えてくれた先生が驚いていた事を思い出した。

 この事実から分かる事は、スキルや魔術って奴は使い手の意識によって仕様が変わるって事だ。

 つくづく不思議で研究し甲斐があるねえ、スキルや魔術って奴は。


 ……全部終わって、俺のが叶わなかったら、そっちの道に本格的に進むのも有りか。




 そんな取り止めの無いことを考えながら、にぎにぎと手を開けたり閉じたりして感覚を確かめていると、無視された形になった彼女がギャンギャン吠え始めた。

 おそらく不安を感じた際の逃避行動だろう。



「───……ねえ、無視しないでよ! 聞こえてるんでしょ!?」



 既に口調がタメ語になってやがる。

 年上だからと言って無条件に敬う必要は無いが、初対面の相手にはもう少し丁寧に話しなさい。

 そんなんじゃ世間で上手くやっていけないぞ?

 おじさんは心配です。



「いちいちそんなにデカい声出さなくても聞こえてるよ、嬢ちゃん」


 そんな考えはおくびにも出さず顔をしかめながら答えると、彼女はホッとしたような顔を一瞬見せ、すぐにその表情を引き締める。

 うーん、育ちの良さが隠せていない。



「聞こえてるなら、もっと早く返事しなさいよ!」



 人に物を頼む態度じゃねぇな、こいつ。

「主人公」と言えども、まだ成人前のガキって事か?


 ……いや、これは無意識に怖がってるのか。

 まぁ、確かに怖いわな、知らん人間に声を掛けることになんか慣れていないだろうしな。


 だが駄目だよ、お嬢ちゃん。

 自分の力に多少は自信があるのだろうけど、こんな所に一人で男の人についてきちゃあ。

 俺としてはチョロくて大変ありがたいが、彼女の今後を考えると少し心配になるねえ。



 いや、俺自身にそういう事をする気は毛ほども無いのだが。

 流石にこんな小娘に手を出すほど、女に飢えてはいない。

 それに俺は、もうちょっと歳取ってて肉付きが良い方が好みだ。



「はいはい、そいつァ悪かったなァ……だがな、嬢ちゃん。俺は挨拶も無しに他人の物を寄越せって言う奴に、丁寧な対応をする気はないんだよ」



 そんな考えをおくびにも出さず、チンピラのような口調で顔を歪めて嗤う。

 俺の傷だらけの凶悪フェイスだと、さぞ恐ろしく感じるだろう。

 一応、顔のパーツはそれなりに整ってるはずなんですけどね……。


「……ッ!」


 息を飲む彼女の表情には、僅かだが怯えが見て取れる。


 この程度のハッタリで動揺するなんて、まだまだ経験が足らんな。

「主人公」と言えども、駆け出しなら仕方がないのかねえ?


 しかし、俺の顔そんなに怖いのか。

 自覚はあったが、少しだけショックだ。


 でもまあ、あんまり脅かしてもあれなので、こちらから話を進める事にする。

 別に俺は彼女をイジメたいわけではないのだ。




「それで、お嬢ちゃんが欲しがっているモノは、これかい?」


 俺はそう言って指を鳴らし、己の神札タロットを呼び出す。

 キラキラと無色の魔力光を放つ、不思議な、不思議なカード。


 これは22種全てを集めれば、集めた人間の願いを叶えると言われる神具!

 そして、単体でもアルカナに応じた力を持ち主に与える強力な魔道具でもある。


「……ッ! そう、それよ! わ、私はそれを集めなきゃいけないの! 集めて、母さんの……───」



 俺の神札タロットに、彼女は手を伸ばすがもちろん渡すつもりは無い。

 ちなみに彼女からは絵柄が見えないようにしている。

 悪いが情報は制限させてもらう。


 奥の手は最後まで伏せておくべきだからな。




「おおっと、手癖の悪い嬢ちゃんだ」


 俺は神札タロットを、彼女の手の届かない位置へ動かす。


「あッ!?」


 悔しそうにこちらを見る彼女を見て、考える。


 彼女の目的は知っている。

 その願いがどれだけ切実か知っている。




 彼女の願いは『母の病の治療』。

 なるほど、確かにこの神札タロットを使えば願いは叶うだろう。


 通りに進めば、彼女は全ての神札タロットを手にすることが出来るだろう。




 しかし、それでは間に合わないのだ。



 俺は知っている。

 母の亡骸の前で嘆く彼女の姿を。


 それは余りにも胸糞悪いだろう?



 だから、俺が救ってやると決めたのだ。


 ここがゲームの世界なのか、ただ似ている世界なのかは未だに分からない。

 だが俺は、起きることが分かっている悲劇をそのままにしておく気は無い。




「これを譲って欲しい。それは分かった。22枚あるこれを集め、己の願いを叶えようって腹なんだろう?」


「……そうよ」


「酔狂なヤツだな、そのままでも十分有用だろうに。まァ、別に構わんよ。俺はこれの力なんぞ無くても問題は無い」


 嘘ではない。

 これが無くとも、俺は強い。


 こんなモノに与えられた力ではなく、己の肉体に刻み込んだ鍛錬による力の方が上だ。

 それに、これを使いすぎるとどうなるか知っている俺は、極力使おうとは思わない。


「なら……!」


 俺の言葉を聞き、ぱっと表情を明るくする彼女に訊ねる。


「対価は?」


「え……?」


「対価は何だと聞いている。嬢ちゃん、お前まさかタダで寄越せというまいな?」


 まぁ、彼女が俺に差し出せる物なんてたかが知れているだろうが。


「う……お金なら少しだけ……」


 よかった、身体とか言い出さなくて。


「じゃあ同じだけ払うから、お前の神札タロットを寄越せ」


「……ッ! それは……」


 話にならんな。

 何か面白い対価を示すなら、とも思ったが。




 ならば、悪いが予定通り俺主導で話を進めさせてもらう。




 パチンと指を鳴らし、神札タロットを仕舞う。

 

「お前さぁ、俺の事そこいらにいるチンピラだと思ってただろう?」


「……ッ!」


 俺の雰囲気が変わった事に驚き、息を飲む少女。


 まぁ、その為に念入りにそう見えるように振舞ったからな。

 わざわざ汚い服を着て、肌を汚し、無精髭を生やした。

 綺麗好きな俺にとっちゃ拷問に近かったよ。


 無事に罠に掛かってくれて報われたぜ。


 卑怯だなんて言うなよ?




「その感じ、図星だったか?」



 嗤う。



「お前が神札タロットを通じて俺に気付いたように、俺もお前に気付いてたんだぜ?」



 嗤う。



「チンピラ風情、叩きのめして奪い取ればいいとでも思ってたんだろう?」



 嗤う。



「甘ぇ。甘ぇぞ、嬢ちゃん。そういうことはなァ、事前に相手の実力を確認した上でやるもんだぜ? 喧嘩を売るなら、相手をきちんと見極めろよォ……───」



 首を回し、ごきりと音を鳴らす。

 肩をぐるりと回し、違和感がないか確かめる。

 うん、酒の影響は抜けている、問題なし。


 ポケットから取り出したナックルダスターを握り込む。


 ちなみにこれは威力を上げる為ではなく、手加減をする為の物だ。

 今の彼女を全力で殴ると、おそらく一撃で死ぬ。

 だから直撃しても掠った程度になる訓練用の魔道具を用意したのだ。


 まかり間違っても、殺してしまうわけにもいかない。

 

 別に殺しがどうこう言うつもりは無い。

 幾たびもの戦場で、俺の両手は既に血に塗れている。

 ヒトゴロシにもすっかり慣れてしまった。



「……───じゃねェと! こんな相手に!! 喧嘩売る羽目になっちまうぞッ!!!」




 そう嗤いながら吠え、俺は抑えていた魔力を開放する。

 燃える様な赤い魔力の燐光が舞い散る。



 大事な大事な見せ場だ、派手にいくぞ!

 こういうのは最初が肝心なんだよなァッ!!




 ゴォッ!




 朱い魔力が俺の全身から噴き出し、周囲にその暴威をまき散らす。

 

 過剰に励起された魔力が熱に変換され熱風となり、周辺を荒れ狂う。

 周囲の廃屋の木材が一瞬にして発火点に達し、燃え上がる。




 そして巻き起こった熱風に煽られた近くの建物の一つが爆発し、爆炎を吹き上げた。


 なんでや。

 俺、そこにはなんも仕込んでないぞ。

 


「はははははははははははは!!! 嬢ちゃん、もう後には引けねぇぞッ!! 売られた喧嘩、高値で買ってやるぜッ!!!」


 焔に照らされながら、両腕を広げ哄笑を上げる。

 100点満点の悪役ムーブだろう。




 だが俺は内心、焦っていた。


 あかん、やりすぎた!

 早く終わらせて消火活動せんと、スラムが全部燃えるゥ!


 さすがにここまで大規模火災になるのは予想外だ!

 事前に周囲の建物に水撒いて延焼しにくくしたはずなのにっ!



「……ァッ!?」


 そんな俺の焦りを他所に、真正面からその熱波を受けてしまった少女は、掌で顔を押さえてよろめくように数歩下がった。


 彼女の方向へは手加減したから、そんなにひどい火傷はしていない筈。

 ……たぶん。


 顔を覆って下がるなんてどうしようもない隙だが、俺は彼女が体勢を整えるのを待つ。 

 流石にここで一発殴って終わりと言う訳にもいかない。


 ……ヒーローの敵役が変身とか名乗りを待つのって、もしかしてこんな気分なのかな?




「な、なによ……! いいじゃない、やってやろうじゃない!」


 想定外の展開に少女は混乱しつつも、その腰に下げていた剣を引き抜く。

 しっかり手入れのされた刀身に、燃え広がる焔の光がギラリと映る。


 ……初期装備のロングソード+1か。

 あれ初期装備としては破格なんだよな。

 主人公の父の形見だったっけ?

 すくなくとも50Gと「どうのつるぎ」よりだいぶマシだ。


 そんなことを考えながら、事前に予定した展開に持ち込めた事を安堵する。

 この程度の威圧で折れてもらっちゃ困る。

 


「ははははははは! 構えはなかなか様になってるじゃァないか! 折角の喧嘩だ、俺を楽しませてくれよ、嬢ちゃァァァァァん!?」


 再び哄笑を上げ、ゆっくり構える。



 さぁ、見せ場だ。

 滾らせろ、見せつけろ、宣言しろ。



「俺はヴァサゴ! ヴァサゴ・ケーシー! 炎竜傭兵団の団長焔の暴君フレイムタイラントたぁ、俺の事よ!」



 この世界における己の役割ロール、「斃すべき敵ラストボス」として、大音声で名乗りを上げる。



 炎に照らされる中、俺と彼女の初めての対話殺し合いが始まった。




 さぁ、物語ストーリーをはじめるとしよう。

 





 しかしまあ、自ら望んで始めたわけだが、一体全体どうしてこんな事になったんだろうねえ?


 ───────────────────

 ◇新作でございます(神妙な顔)

  今回はゲーム悪役転生主人公最強物でいきます。(特盛)

  精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。


 ◇とりあえず30話くらいは書いてるので、それまでは毎日更新します。

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