第10話 俺と彼女と決着と。
しまったァァァァァァァ!
やらかした!
やらかしてしまったあああああああ!
刀身の中ほどから砕け、くるくると回転して地面に突き刺さる「剣だったもの」を見て、俺は内心頭を抱える。
持ち主である
良い感じの一撃が来たから、反射的に『
ゲーム中の『
当たり前である。
そらそうよとしか言いようがない。
あの、言い訳させてもらうとですね。
戦場でもポキポキ折ってたから、ほぼ反射的に折っちまう癖がついてるんですよ。
武器破壊が決まれば、普通の相手なら戦闘能力はほぼ失われるからね。
敵に武器を再利用させないという意味では非常に有効な手段だ。
まぁ、やりすぎて鹵獲武器がほぼなくなって怒られたりもしたんだけど。
たまに徒手空拳になった方が強い奴もいるから気を付けよう。
俺みたいにな!(どやぁ)
いや、違う違う!
今はそんなことを言っている場合ではない!
「す、すまねえ! つい折っちまった!」
姿勢を正し、彼女に向けて90°まで深々と頭を下げる。
前世のサラリマン時代に身に着けた、由緒正しい詫びの入れ方である。
悪い事をしたら謝る、みんな知ってるね?
今回のことは間違いなくケジメ案件だ。
「えっと、その。いや武器なんて消耗品だし……」
そう言って彼女は折れた刀身を拾い上げ、眉をハの字にして俺の方を見ている。
焦燥、そして困惑の色が濃いように見える。
ぬう、やはり精神的ダメージは大きかったか……。
それはそうだよなあ……。
さっきも言った通り、彼女と仲良くなる必要は無いのだが、嫌われるのはちと困る。
ここは更なるフォローが必要と見た。
「いや、親父さんの形見だったんだろ? すまねえとしか言えないが、とりあえず代わりの武器を俺から提……───」
「……───は!? え!? な、なんでそんな事を知ってるの!?」
空間拡張鞄に手を突っ込み代替えの剣を取り出そうとする俺に、ぎょっとした表情で驚く声を彼女が上げる。
「あッ」
しまった!
やらかした!
やらかしてしまったああああああああああ!!!(30秒ぶり2回目)
結構前から観察していたから、すっかり知り合いの娘みたいな気分になってた!
何とかして誤魔化さねば!
このままだと俺はストーカー扱いまっしぐらである!
由々しき事態だ!
喋れば喋る程ドツボに嵌っている気がするが、それはそれだ!
と、とにかく弁解を……!
「だ、大事にしてたようだし、剣の形や鍔の作りが今の流行りの形ではないからな! その造りは恐らく一昔前の……20年ほど前の北部の王国にあった工房の一振りだと思う。大きさも今の君には合っていないし、そうなると父君の物だと推測したわけだ!!」
慌てて早口で言い訳をする。
正直死ぬほど怪しいって自分でも分かってる、でもこれで黙り込んだらもっと怪しいじゃん!
言い訳の後ろ半分は本当だが、前半分は嘘です、口からでまかせです!
剣の形の流行とか知らんわい!
斬れればなんでもええわい!
お願いだから、俺より刀剣に詳しいみたいなオチだけはやめてくれよ!?
俺に疑惑の眼差しを向け、しばらく考える素振りをした彼女は大きく溜息を吐く。
「……うーん。まぁ、なんかちょっと引っかかるけど、納得することにする。実際に父さんの形見だしね。それよりおじさん、この火事ほったらかしてて大丈夫なの?」
彼女はそう言って、俺達の背後で燃え盛るスラム街を指さす。
気付かぬうちに完全に夜になっていたが、燃え盛るスラム街の火によって辺りは赤々と照らされていた。
すっげえ燃えてる。
はっきりわかんだね。
炎はさらに勢いを増し、それに気づいた本町の方が騒がしくなっているようだ。
カァン! カァン!と半鐘が鳴っている。
「全然大丈夫じゃねぇな……!」
「じゃあさっさと逃げましょ、こんなところじゃ落ち着いて話なんかできないわよ。私、おじさんに聞きたい事が沢山あるんだけど」
そう言ってへにゃりと彼女は笑い、俺の背中をぱちこーんと叩く。
……知らないうちに、なんか態度が柔らかくなっておる。
ナンデ?
いや、いいんだけどさ。
……このくらいの年頃の女の子は分からん!
それは前世も今世も変わらないのが悲しい所だ。
てか、なんかモラル無い事言いだしたぞ、この子。
逃げちゃダメだろ、常識的に考えて。
モラルゆるふわ系か?
「いや、さすがにこの規模の火災を放置するのはマズい。どう考えてもマズい。制御されていない炎は大惨事につながりかねん」
現時点で既に大惨事だが、実は事前に住人の立ち退きは済ませてあります。
事前に役所にも相談済みです。(金も積んだ)
住民はまとまった金がもらえて喜んで、役所も解体費用が掛からんからって喜ばれたぞ。
延焼だけはしっかり気を付けてくれと言われたがな。
……先生からの紹介状の効果、半端ねぇな。
「じゃあどうするの? おじさん火の魔術使ってたから水は難しいでしょ? そもそもこれだけ火の影響が強いと、ちょっとやそっとじゃ水魔術の発動も難しいと思うけど」
一応、この世界の常識では火と水のような反属性は使えない事になっている。
ゲームでも相克関係は使用不可だったんで、別に不思議ではない。
色々調べたのだが、教導者や教官などの一部のジョブを除いて、全属性がムラなく使える人間は存在しない。
実際、俺も火の属性が強すぎて、水の系統は使用不可能だ。
まぁ、自分で使うのが難しいなら、使える奴に使って貰えばいいだけの話だ。
「任せとけって」
俺はニヤリと笑って鞄から小瓶を取り出し、封を切った。
「……おじさん、それは何?」
「触媒」
彼女の疑問に端的に答え、小瓶の中身を辺りにさっと振り撒いた。
「わっ!?」
彼女が驚き、目を見張る。
急に辺りに水の魔力が満ちたのだ。
これをどう表現したらいいか分からないが、夕立が来る直前の空気の匂いが一番近いかもしれない。
今の触媒は、アメフラシやアマガエル、水龍のウロコといった水の気が強い物を、水の魔石と共に砕いたものだ。
その次は鞄から混ぜ物の少ない上等な酒を取り出し、同じように振り撒きながら祝詞を奏する。
祝詞はこの世界の言葉ではなく、日本語だ。
隣で聞いている彼女が転生した人間ならばきっと反応しただろうが、ちらりとみると口を開けたアホ面でこちらを見るばかりである。
……少なくとも日本人ではないな。
どれだけ上手く隠そうとも、急に聞こえる日本語に反応しないわけがない。
俺の懸念が一つ解消した。
「
正直、前世で少し聞きかじった祝詞を多少いじったモノなので、きっと神職の人が聞いたら失笑する様なものだろうが、頼み事が『相手』に無事に届けばそれでいいのだ。
必要なのは願い、訴える意思だ。
「───……恐れみ 恐れみも 申す」
全て奏した後、再び酒を振り撒き柏手を打つ。
空気中に神気が満ちる。
「……終わり?」
彼女がそう言った瞬間、俺の耳に鈴を転がすような可憐な声が聞こえた。
『おっけー』
ザッァ───!!!!!
「ぎゃああああああああああああ!?」
急にバケツをひっくり返したような雨が降り出した。
「うむ、上手くいった」
雨に濡れながら頷く。
これこそは俺が編みだしたオリジナル魔術。
その名も「請願式コトダマ術」!
「こ、これ……もしかして、おじさんがやったの?」
驚愕の表情を浮かべた彼女に、満面の笑みで答える。
「よくぞ聞いてくれた!これはな!この世界で俺が学んだ魔術と前世の神道をくみあわせたまったくあたらしい新機軸の魔術である!この世界の魔術は基本的に世界に満ちる魔力を利用して自分の中で練り上げて放出するという形を取っており スゥー(息継ぎ) 魔術の強弱もその場所の魔力濃度に左右される上構成が分かっていないとうまく発動しない!しかもさっき言った通り反属性と言われる魔術は発動が難しくこれは魔術と言う技術の基礎的な部分での問題点だろう スゥー(息継ぎ) そこで俺は考えたんだ自分にできなければできる奴にやってもらえばいいんじゃないかと!これを思いついた時は俺は天才じゃないかと思ったね!色々な文献を紐解いてみたもののこの世界はどうにもこうにも歪な部分があって……───」
「ストップ! ストップおじさん! 分かった! 分かったから!」
何故か引き攣った顔で俺を押しとどめる少女。
なんだよ、これからが良い所だったのに。
「わかった! 後で聞く! 後で全部聞くから! とりあえず場所変えよう! ね!? どうやら鎮火したみたいだし! それに二人ともずぶぬれだし風邪ひいちゃうから!」
何やら必死である。
「……うむ、わかった。風邪ひいたら不味いからな。俺が借りている宿に行こう、そこでなら落ち着いて話せるだろう」
ぐるりと辺りを見ると、燃え尽きてぶすぶすと燻る残骸が残るばかりである。
火は大体消えており、先ほどの「通り雨」で水気が増しており燃え広がる恐れも少ないだろう。
……被害が拡大する原因になったあの爆発は、一体なんだったんだろう。
なんか薬品でも残ってたのだろうか。
まぁ、いいか。
「よし、じゃあ行くか、嬢ちゃん」
そう言って歩き出すが、彼女が歩き出す様子はない。
「嬢ちゃんは止めて」
振り向くと、ふくれっ面の少女がそこにいた。
ご機嫌斜めらしい。
ふむ……?
そういえば名前は調べなかったな。
見た目がまんまだったから気にもしなかった。
『あぁ、女主人公なんだな』で納得した記憶がある。
昔ゲームをプレイした時は男主人公だったな、そういや。
子供の頃は女キャラ選ぶとからかわれそう、とか思ってたわ。
大きくなると女キャラばっかり選ぶようになるんだけどな!
何が悲しゅうて、ずっと男のケツをみてプレイせにゃならんのか。
さらに歳を取ると、男主人公に回帰したりするから不思議ではある。
あぁ、思考が逸れた。
名前だったな。
主人公のデフォルトネームは無かったはずだが……。
まさか「ああああ」とかじゃあるまいな?
さすがにそれは可哀想すぎる。
「名前、聞いてもいいかい?」
俺の言葉に、彼女は満面の笑みを浮かべて名乗った。
「私はメアリー! メアリー・スー! 親しい人はモルって呼ぶわ!」
それを聞いて盛大に吹き出してしまい、彼女の機嫌を大層損ねてしまったが、俺は悪くないと思う。
……はい、ごめんなさい。
人の名前を笑うなんてサイテーである。
だけど、なぁ。
あまりにも「それらしい」名前すぎないかい?
───────────────────
◇メアリー・スー
理想化されたオリジナルキャラクターを揶揄する時に使われる名前。
でも、この作品みたいな主人公最強系だと、理想化してなんぼって気がしますね。
◇結果的に上手くいったけど、そうなるまでの過程は大体失敗してるヴァサゴ君。
しかも概ね自爆。
相手が子供だとどうしても追い込み切れない甘ちゃんです。
◇10話で4万字ちょっとという、恐ろしいペースで文字数が増えてる……!
まぁ、こんな感じで話が進んでいくと思いますので、よろしくお願いします。
とりあえず二桁話数になったし、ぼちぼち★もらえると嬉しいな!
⭐︎くれ(豹変)
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