第11話 俺と彼女と次の目的。

「……なるほど」


 シトリーの話を簡単に纏めると、それは「」であった。


 地方領主の娘、つまりは「お姫様」と一介のチンピラに過ぎない「冒険者」の悲恋の物語だ。

 護衛の仕事で起きたトラブルによって交わらぬはずの二人の道が、交差してしまった事が悲劇の始まりであった。


 まぁ、日本という世界でも類を見ない程の物語大国で生きた俺にとって、なんともありきたりでつまらない話だ。

 どこの国でも似たような話はあるし、それだけ愛された類型の話でもあるな。


 女は自分の周りにいないタイプの男に惹かれ、男も美しい上流階級の娘に心奪われた、ただそれだけの話だ。

 彼らは僅かな時間の逢瀬を重ね……愛し合った。


 もちろん上手く行くはずもなく、大方の予想通り二人は引き離され……悲劇的な結末を迎えた。

 怒った領主は娘を無理矢理嫁に出し、男は追放された。


 そして、望まぬ結婚に絶望した娘は世を儚み、その命を自ら断った。

 何という結果の分かり切った悲劇だろうか?

 予想通り過ぎて欠伸が出るぜ。


 問題はそれが実際に起きた出来事らしいことだな。


 いや、こういう「噂話」は多少なりとも脚色されるものだし、実際のところどうだったかは分からない。

 だが、そのお姫様は亡くなっており、追放された冒険者は姿を消したというのは事実らしい。


 同じように話を盛られまくっている人間としては、多分そんなにきれいな話だけじゃないとは思うのだが。

 俺、100万人も殺してねぇよ?

 あと、別に亡国の姫を集めてハーレムも作ってないし、バアル様ともデキてねぇよ。

 あの方に対して失礼すぎんだろ、俺みたいな奴が伴侶とか。


 なんにせよ、だ。


 当事者であるお姫様は亡くなっており、もう一人の当事者であるアマイモンは中身が入れ替わってしまった。


 つまり、この話について正解を知っている人間はこの世からいなくなってしまった。

 残ったのは尾ひれや背びれ、挙句の果てに角まで生えたような美談のみ。

 なんともやりきれないね。


 ……あいつ、この話知ってるんだろうか?


「気付いたら森の中にいたんですよー」ってヘラヘラ笑ってたから、知らない可能性が高い気がする……。

 今度ちょっと聞いてみよう、もし知らないんだったらちょっとマズい。

 アマイモン・ジーロを今後も名乗るのならば、尋ねられる事もあるだろうしな。

 その時に「え? なんの事?」とで答えようならば、すごい薄情な男になってしまうぞ……。


 しかしまぁ、どの世界でも女の子ってのはこういう話好きなんだねえ。


 未だにメアリーとシトリーの二人は目をキラキラさせ、アマイモンとお姫様の悲恋について意見交換をしている。

「本当に好きなら連れて逃げるべきだった」、「生活の質の担保が出来ないならさっさと身を引くべきだった」と二人の視点が違っていて中々面白い。

 ちなみに夢見がちな前者がメアリーで、現実主義な後者がシトリーである。


 途中から報告じゃなくなってたけど、まぁ……二人が楽しそうだからいいか。


 そう言えば傭兵やってた頃は恋愛の話なんか全くしたこと無かったなあ。

 男女の違いはあるだろうが、馴染みの娼婦についてとかそんな感じだ。


 駄目すぎるが学が無い連中の楽しみなんて女と酒くらいなものだし、仕方がない部分もある。

 俺の部下は割とお上品ではあったが、それでも荒事専門のお上品なチンピラだった訳だしなあ……。

 なんだよ、上品なチンピラって。


 俺? そんな時間があったら次の作戦の立案をやってたよ。


 祝勝会も乾杯の音頭を取ったら離席していた。

 上司が居たら騒ぎにくいだろう、というのが建前であったが純粋に時間が惜しかったのだ。

 ある程度は親交を深めるべきだったのだろうが、戦場の働きでそれなりに慕われていたしな……。

 結局は強くて自分を稼がせてくれる相手が一番好きなのだ、傭兵という存在は。


 酒も精々バアル様との報告を兼ねた食事会や、グレモリーが絡んできた時くらいしか飲む機会は無かったような気がする。


 ……つまんねぇ人生だなあ!

 そりゃ青春時代の思い出が、血生臭い戦場の思い出しかない筈だわ!


 だが、学術都市での生活は俺の人間性を回復させてくれた。

 先生やロッテ・リードマン女史などの知り合いに恵まれた事も運が良かった。


 知人と飲む酒は美味い、それを思い出させてくれた。

 必要に迫られての勉学だったが、俺の人生に無くてはならない貴重な時間だったと思う。


 この五年間は遅れてきた俺の青春時代と言えよう、30代も半ばだったけどな!



 それはそうとして。



「うん、シトリーありがとう。予想以上に詳しい情報で参考になったよ」


 そう言ってシトリーの頭を撫でる。

 半分以上ゴシップではあったが、情報収集とはそういう雑多なモノの中から必要なモノを見つけ出すところまでを含めるものである。


「ふふふふふ、この町での動きも網を張ってるから期待してていいよ、パパ♡」


 そう言って俺を見上げ、にっこり微笑むシトリー。

 ううむ、味方としてはこの上なく心強い。

 敵には回したくないが、彼女の望む家族の一員であるなら大丈夫だろう。


「まぁ、そういう人ならおじさんが手を組む事に反対はしないよ」


「悪い噂はあんまり聞かなかったねぇ、『女癖が悪い』って言う同業者の妬みみたいな評価もあったけど」


 メアリーとシトリーはそう言って納得してくれた。

 その頃の彼とは恐らく別人になっているとは思うのだが、上手い事説明できないので黙っておくことにする。


「そうか、すまないな二人とも」


 そう言って頭を下げ、すぐに顔を上げて告げる。


「じゃあ、次の議題に移る」


 二人の顔が引き締められる。


「俺達が次にどう動くか、だ」


 こっちが本題だ。


 本来なら次の神札タロットをすぐにでも探しに行くつもりだったが、行方が分からなかった「隠者ハーミット」の神札タロットを持つアマイモンが現れた事によって状況が変わった。


 彼と協力して集めるのなら、純粋に捜索範囲が半分になる。

 アマイモンの「リメイク」の知識も役に立つだろうし、これは正直かなりありがたい。


 ならば少しだけ出来た時間的余裕を使い、「寄り道サブイベント」をこなすことにしよう。

 優先度は低いが、必ずこなす必要があるタスクを消化するのだ。


「メアリー、君との約束を果たそう」


「え?」




「お前の願い、俺が叶えよう」


 そう言って「悪魔」は笑みを浮かべ、「愚者メアリー」へ手を差し出した。


 次の目的地はメアリーの故郷、つまりは「」である。





「えっ、結婚してくれるの!?」


 何言ってんだこいつ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ◇ロマサガ2リメイク、裏ボス撃破。

 最低難易度なのに一回全滅したんですけど?

 「魅了」→「無双三段」が皇帝に直撃→戦線崩壊。

 強くてニューゲームより、普通に高難易度で1からやった方が面白そう。


 ◇しごと、きまった。

 おれ、12がつから、はたらく。

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