第26話 「ラプラスの悪魔」
「ラプラスの悪魔」と言う言葉をご存じだろうか?
まぁ、有名だし知ってるよね。
シュレディンガーの猫と並んで有名な言葉だと思う。
次点でフェルマーの最終定理。
好き好き大好き。
何というか、ものすごくオタクゴコロをくすぐってくれる素敵な響きの言葉だ。
カタカナ+悪魔、もう鉄板だと思う。
但し、それがどんなものなのかきちんと説明できる人となると、その数はぐっと少なくなると思う。
恥ずかしながら俺も説明できない方の人間だった。
詳しく説明するとものすごく大変なのでものすごく簡単に言うと、「ある時点での世界の全てを知っている存在がいれば、そいつは未来も全て予測できるんじゃない?」という思考実験のようなものだ……と俺は理解している。
違ってたらごめんね?
まぁ、もちろんそんな「悪魔」は存在しないし、最近だと量子力学の不確定性原理やカオス理論(これらもかっこいいよね)とかの考え方で否定されているらしいけど。
俺が今使った「
本来は成立しない物を、成立させる。
そんなことを成し遂げることが出来たのは、この世界に存在する不可思議な力あってこそだ。
不可能を可能にする力。
その力の名前を「魔力」という。
膨大な魔力を使う事により、俺はそれを成し遂げた。
具体的にどうやってと訊かれると困るが、出力量さえ確保できれば割と何でもできる力、それが魔力と言うものなのだ。
勿論、かなりの無理をしているので長時間の維持は不可能だが、1秒にも満たない時間でも十分すぎる強力な力だ。
実はこの「ラプラスの悪魔」という技、ゲームにも出てくる。
勿論使うのはラスボスたる俺、ヴァサゴ・ケーシーだ。
理不尽系ラスボスと呼ばれたヴァサゴ君の代名詞であり、全国数十万人の小学生たちを泣かせた技である。
もちろん俺も泣いた。
効果は「味方全体に超大ダメージ(防御無視・必中)」である。
しかも、ラスボスのHPを削り切る攻撃に対するカウンターで発動する。
嫌がらせかな?
そもそも「ラプラスの悪魔」全然関係ないじゃん!と言いたくなるが、昔からRPGのラスボスとかって「何か知らんが凄そうな大技」使って来る事がお約束ではある。
「グランドクロス」「クエーサー」「ビックバン」「次元の歪み」「アルマゲスト」などなど……懐かしいね。
どれも凄そうだけど、調べたらただの天体用語だったりする。
「グランドクロス」なんて惑星が十字に並ぶだけやぞ、並んだからなんだというのか。
確かに凄いが。
まぁ、ヴァサゴ君の「ラプラスの悪魔」もそんな技の一つだ。
ちなみに回避法は無いので、全滅したら復活するアイテムを使うとか大ダメージを肩代わりしてくれるスケープドール(非売品)を用意するしかありません!
酷すぎる。
もしかして、「アルカナ・サ・ガ」は結構なクソゲーなのでは……?
で。
そんな素敵な「ラプラスの悪魔」だが、俺が使った
この力の本質は「観測」だ。
世界全てではなく「対象を絞り」「それの全てを観測し」「未来を予測し」「確定させる」力だ。
観測する内容はただ一つ。
「殺し方」だ。
そこまで限定しないと制御出来ないから仕方がない。
だが、その効果は絶大で「観測」さえできればその「死」は確定した未来となる。
……もしかしたらゲームの「ラプラスの悪魔」はその過程を省いただけなのかもしれない。
結果として「相手が死ぬ」のならば同じ事なのだから。
前置きが長くなった。
結論から言おう。
「アモンは殺せる」
その未来は確定した。
最適解を導けた。
だが。
奴の身から這い出て来ようとしている「何か」は、不可能だ。
「不可能であることが確定」してしまった。
なんとなく「死」という概念があるかどうかも怪しい気がする。
ただ、その「何か」は小さな小さな穴「アモンと言う獣人の狂気によって空いた穴」を通って出て来ようとしているだけだ。
こちら側に出てきているのはほんの一部であり、穴を閉じればお帰り願う事ができそうだ。
「観測」すると脳が焼き切れそうになったので、あれが何かは考えない事にする。
触りだけ読んだが、あれは良く無いものだ。
俺達とは別の理屈で、別の原理で存在している。
流石にあれと真正面からやり合うのは勘弁して頂きたい。
やり合っても楽しくもなさそうだし、それより俺にはやらなくてはならない事が沢山ある。
今回は縁が無かったと言う事で。
今後のご健勝をお祈りしております。
穴を閉じる方法はシンプルだ。
『穴の主であるアモンを殺せばいい』
それですぐに閉じる。
しかし、「観測」の過程で俺は知ってしまったのだ。
「アモンという人狼の人生」の全てを。
彼の人生は苦難に満ちていた。
人狼という種族が生きていくには、今はとてもつらい時代だ。
人と言う種族が発展し協力し合い、力を持っている。
彼が幼い頃に父母を失ったことは哀れだと思う。
例えそれが人に仇名すような存在であろうと、肉親の情というものは理解できる。
一人で生きる事の辛さは、多少なりとも理解できているつもりだ。
アモンの人生は、一貫して孤独に苛まれていた。
俺にはあの町の孤児達と言う家族がいたが、彼にはそれすら得られなかった。
父母も失い、同族も見つからない。
意思の疎通が可能な人間は、彼にとって食料であった。
人狼と言う生き物は、生まれながらにして大きな矛盾を抱えている。
食料と言葉を交わし、意思の疎通が可能なのだ。
それがどれだけストレスになるか考えたくもない。
俺達にとって牛や豚と会話ができる事に等しいのだ。
憐れだと思う、同情もしよう。
だが、共感は出来ない。
彼は鬱憤を晴らすかの如く、殺し、喰らい尽くした。
どれだけの人間が犠牲になったのか分からない。
彼自身が憶えていないからだ。
俺には力があったから対抗できたが、もし力なき民衆の一人だったならばなすすべもなく殺されていただろう。
そう考えると俺にとってアモンと言う存在は、明確に「悪」である。
だが、アモンという人狼には、俺達と同じように愛に飢えた一面もあった。
もし、万が一。
彼が父母と死に別れた時に、俺の下に着いたならば。
人狼の性質を抑える事ができたならば。
こんなことには、ならなかったのではないか?
……。
いや、分かっている。
理解している。
「もし」は「無かった」のだ。
未来は努力次第で変えることが出来る。
しかし。
過去は変えられない、変えることが出来ないのだ。
ならば、やはり俺は。
ここで「アモン」という人狼の命を奪うことにしよう。
彼の物語に、終止符を打つとしよう。
その判断を、是としよう。
俺の世界が終わる。
1秒にも満たない、観測の時間が終わる、終わる、終わる。
全身にどっと疲労が押し寄せる。
めまい、動悸が激しい。
汗が噴き出る。
……想定以上に消耗が激しい。
だが。
終わりの時だ。
無様な姿は見せられん。
胸を張れ、笑え。
「アモン、俺がお前に終わりをもたらそう。お前がどう生きて、どう思い、何を考えていたか俺は知っている。知った上で、俺はお前を殺そうと思う」
アモンは何も言わない。
だが、「ラプラスの悪魔」で僅かではあるが彼に意識がある事は「観測」した。
きっと聞こえている筈だ。
「死は救済などと陳腐な事を言う気はない。お前は俺の敵として誇り高くここで死ぬのだ」
俺は忘れない、お前と言う人狼が居た事を。
お前の想いを決して忘れない。
アモンの身体から、数百にも及ぶ鉤爪のついた触手が飛び出してくるが、全てを往なし捌き弾いた。
量こそ多いが、直線的でフェイントも無い攻撃なので避ける事は容易い。
しかし、穴の向こうの何者かが更に力を増せば厄介なことになるだろう。
時間はあまりない。
「さらばだ、アモン」
終幕だ。
別れの時だ。
静かに魔力を燃やす。
盛大に、盛大に送り出してやろう。
此度放つは浄化の炎────
魔を滅し、邪を払う焔なり────
「
払魔「
魔に属するものだけを焼き払う、秘跡を模倣した魔術である。
先生から「いつか使うかもしれないから憶えておきなさい」と言われておぼえたが……本当に使うことになるとは。
なんか見透かされてるみたいで怖いな。
音もなく青い炎が巻き起こり、アモンを包み込む。
不思議な事に俺は熱を感じない。
苦しんだ触手が必死にその炎を払おうとするが、炎は消えたりせずさらに燃え盛る。
あぁ、やはりあれは魔に属するものか。
ならばこの炎は覿面だろう。
苦しかろう。
ここはお前のいるべき世界ではない。
元居た場所へ、帰るが良い。
永遠にも感じた炎が、現れた時と同じように静かに掻き消えた。
残っていたのはアモンのものと思しき大振りの爪、そして1枚の札のみ。
俺はゆっくりと歩み寄り、拾い上げる。
月の光に照らされしそれは、
但し、描かれた月は砕けておりその魔力の大半を失っていた。
おそらくこの状態だと、「
……なるほど、そう言う事か。
この
ぱちぱちぱちぱち。
拍手。
「ッ!?」
「ははァー、すごいねェー! まさかあっさり人狼を倒しちゃうなんてさァー?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇「くるえるじんろう アモン」をやっつけた!
「じんろうのツメ」と
◇そして次のイベント開始。
まだなんかあるの!?という気持ちになったら、それはヴァサゴ君と同じ気持ちですよ!
やったね!
◇と言っても、次の章への導入みたいなものなんで。
次回からリザルト回になります
やっと1章がおわるよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます