閑話 とある年末の一コマ。

 *ヴァサゴ君視点です。


「疲れた……」


 見慣れた学術都市の門をくぐりながらぼやく。

 先日「珍しい現象が起きるみたいだから一緒に見物に行かない?」と誘われ、研究もちょっと一段落していたし気分転換に良いかと軽い気持ちで出発したのだが……。


「あっはっは! 大騒ぎだったわねえ!」


 上機嫌に俺の隣で笑っているのが今回の仕掛け人、ロッテ・リードマン女史である。

 埃に塗れて盛大に汚れている俺とは違い、大冒険直後とは思えない身綺麗さである。

 この人も同様に爆発に巻き込まれたはずなのに、なんで汚れてないんだ?


「……ふふん! この程度、私にとっちゃ騒動の内にも入らないわ」


 俺の視線に気付いたロッテ・リードマン女史が、その綺麗な銀の髪をかき上げて笑う。


 えぇぇ……?

 ドラゴンゾンビの集団に追いかけられたり、謎の研究施設に迷い込んで踏破するという大冒険が騒動の内にも入らないの……?

 ……ううむ、あの「先生」の娘だからマジでありえるわ。

 あの人自身は割と温厚ではあるんだけど、生粋のトラブルメイカーでもあるんだよなぁ。

 トラブルメイカーというか天性の巻き込まれ気質というか……苦労人ではあるのにそれを楽しんでいる節がある。


「……でも、楽しかったでしょ?」


 くるりと回りながら俺の前に立ち、ほころぶ様な笑みを浮かべるロッテ・リードマン女史。


「ああ、楽しかったよ。掛け値なしに」


 彼女の笑みに釣られる様に笑う。


 疲れはしたが、つまらなかったとは言っていない。

 彼女といると、俺は今まで経験したことが無い出来事と出会えるのだ。

 とても、とても感謝している。


「……よろしい! さ、これで今回のピクニックはおしまいよ、ゆっくり休みなさいな!」


 ピクニックだったんですね……。

 と、そこでふと気になり懐からメモ兼日記帳を取り出す。


 ……ふむ、もうすぐ年が明ける、か。

 ならば、前世の暦と照らし合わせるならそろそろクリスマスだ。


 当たり前だがこの世界にはクリスマスなんてものは無い。

 というか年末年始の休みみたいなものも特にない。

 祭りの規模で言えば収穫祭が一番大きくて、あとは地方によって独自になんかやっている程度である。

 ……よし、ここは一つ男らしく誘ってみるか!


「なぁ、ロッテさんや」


「なによ、気持ち悪い」


 酷くない?

 名前呼ぶのがちょっと恥ずかしかったから茶化しただけじゃんかよぉ!(30代成人男性)


 でも俺は負けない。

 というか、ロッテ・リードマン女史はたまにやたらと当たりが強くなるからこの程度で凹んではいられない。

 ……初期は死ぬほど凹んでたのは秘密な。


「今夜、一緒に飯でもどうかい? 奢るからさ」


「あら珍しい、どういう風の吹き回し?」


「別にいいだろ、いい経験させてもらったお返しだよ、お返し」


 この感じ、とりあえずオッケー貰えそうだ。

 意中の女性をクリスマスの夕食に誘うなんて、俺も陽キャの仲間入りかもしれんな!

 発想が陰キャであると言ってはならない。


「まーいいけど。どこで食べるの? ガブの店は嫌よ、美味しいけど絡まれるし」


「あ、今回はキチンとした所だ。ほら、この前新しくできたレストラン。行ってみたいって言ってただろ?」


「へぇ! あそこなかなか予約取れないって話だけど?」


「あそこのシェフとちょっと縁があって招待されてるんだよ」


 本当である。

 少し前に地上げに遭ってて困ってた所を助けたのだ。

 まぁ、能動的に助けた訳じゃなく、近所でチンピラが騒いでたのを〆ただけなんだけど。

 ちなみにガブの店ってのは、安酒と安くて美味いけど盛り付けが汚い大衆店である。

 ロッテ・リードマン女史と行くと、必ず「子供がこんな所来ちゃいけないよ」と説教しに来る奴がいるんだよね。

 ……見た目がまぁ、なんというかアレだから仕方が無いと思うけど。


「……ふぅん? 何? 本当に珍しいわね。……もしかして今日はアンタの地元の祭りの日だったりするの?」


「お。すごいな、なんでわかったんだ?」


 びっくりである。

 なんかそう言う事匂わせるワード出したっけ?


「ふふふ、なんででしょうねぇ?」


 そう言って悪戯っぽく笑う彼女。

 なにやら上機嫌である。

 良き哉良き哉。


「ま、いいわ。じゃあ着替えてくるから……そうね、2時間後に現地に集合って事で」


「汚れてる俺はともかく、その綺麗な服を着替える必要ある?」


 着替えるなんて珍しい。

 いつもはインクの染みだらけの服で平気な顔してるのに。


「……失礼ね、今日はそう言う気分なのよ! 文句ある!?」


「あ、はい。文句ないです」




 コース料理はおいしく、珍しくお酒を飲んだロッテ・リードマン女史と楽しいひと時を過ごした後、夜遅くなる前に解散した。


 とてもたのしかったです。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆











 *ロッテちゃん視点です。


「…………」


 がちゃり。

 見慣れた実家の扉を開ける。


「はぁ……あのボケ」


 折角新しい服を着て、珍しく化粧もしたのに1ミリも気付かねぇでやんのあのクソボケ!

 あいつのイメージを読み取って、クリスマスというのが「恋人たちのお祭り」と知って期待してたのに!!

 普通に「じゃあ、夜遅くなると危ないからここでお開きにしましょう」とか言いやがった!!

 アホかァ!!

 子供かお前は!!!


「あら、ねーちゃんどしたの?」


「げ」


 悪態を吐きながらリビングに入ると、大きい方の妹がソファに転がって本を読んでいた。

 正直このタイミングで会いたくはなかったのだが……。

 ばっちりキメキメでデートに行って、普通に解散になったとかバレたら何言われるか分かったもんじゃない。


「……んん?」


 ぬう、と身を起こし私に顔を近づける黒い髪と紅の瞳を持つ妹。


「な、なによ?」


「ねーちゃん、化粧してる?」


「わ、悪い!?」


「……男?」


「…………」


「へぇー? ほぉー? ふぅーん?」


「…………」


「あ、よく見たら服も可愛い! めちゃめちゃキメキメじゃん! ……ん? なのになんでこの時間に……あっ(察し)」


「ああああああああああああああああああ!!! うるさいわぼけえええええええええええええええええええええ!!!!」


 おしまい。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ◇Merry Christmas.


 ◇もうちょっと書こうと思ったけど力尽きた。

 全然推敲してないから誤字脱字は勘弁してね!

 最近酷い女キャラしか書いてないから、ちょっとかわいい感じのを書きたかったんや……。


 ◇オデ、サケ、ノム。ヒトリデ、ノム。ウマイ。

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