第24話 「悪魔」の一撃。
ガァァァァァァァァァァッ!!!
俺の言葉を聞いた瞬間、
余程自分のスピードに自信があるのだろう。
人間には反応出来まいという慢心が感じられる。
つい先程、奇襲をあっさりと躱されてしまった事は忘れてしまったようだ。
見た目は人狼の名の通り狼に似ているが、ただの獣よりは知性があると聞いている。
人の間に潜み、人を喰い殺す化け物だ。
ある程度はあって当然か。
知恵と力を併せ持つ獣、なるほど厄介だ。
伝承では満月になるとその力を増すらしいし、実際踏み込んでくる速度は大したものだ。
普通の人間ならば反応する事さえ出来ず、あの鋭い爪で首を斬り飛ばされる事だろう。
だが。
残念ながら俺は普通の人間じゃないんだよなあ。
人狼の爪を使った斬撃が首を狩る軌道を描いて振るわれる
その軌道を予測し上体を軽く逸らし躱す
あっさりとその爪は空を切り
俺はそのまま一歩踏み込み人狼の顎を狙い左の拳を繰り出す
その一撃に気付いた人狼も身を捻り直撃を避けようとする
が、
甘い
この左はフェイントだ
「ふッ」
本命は右の掌底
短い吐息とともに繰り出された一撃
ギチチ……───
俺の筋肉が弓の様に引き絞られすぐに解き放たれる
ドンッ
肉と骨を叩く低い音
「ゴッ!?」
狙い違わず十全な威力を発揮し、その巨体が軽く宙に浮く
引き戻した左でその無防備な脇腹に鉤突き
右鎖骨に肘打ち
左肩に手刀
ギュチッ
右腕を引き絞る
「はッ!」
最後に狙うは魔力を込めた正拳
踏み込み
コンパクトな動きで
最短距離を
真っ直ぐ
撃ち抜く
ガァァァァァァァァァァァァァァァッ!
人狼が吠える
ブチブチブチ!
無理な動きをした人狼の筋肉がひきちぎれる音がする。
キュボッ
繰り出された俺の拳に触れた人狼の毛が焼き切れる。
残念ながら最後の正拳は、無理矢理身をよじった人狼に躱されてしまったようだ。
獣の勘か、なりふり構わぬ動きだった。
恐らく無理をした筋肉に、かなりの痛みとダメージを伴ったはずだ。
普通ならその後は戦闘など出来ぬ程だろうが、なるほど人狼の
なかなか良い勘してる。
これが決まれば終わりだったのだが。
まぁいい、次で決める。
舌打ちし、次の攻撃に移る。
俺が最後に繰り出した一撃は、浸透勁と魔術を組み合わせた全く新しい技である。
ブーメランは使わない。
全くのゼロから生み出した技術で、俺は「魔撃」と呼んでいる。
勿論、ゲームにはこんな技は無かった。
そもそも「アルカナ・サ・ガ」は普通のRPGで、アクションゲームではないからな。
技術介入の余地など存在しない。
編み出した切っ掛けは、前世で読んだ漫画や小説だ。
ほら、敵の内部から炸裂する系の技だよ、よくあるだろ?
実用化には苦労したが、それに見合った威力で満足している。
当たったら身体の内部から魔術が発動するので、魔術抵抗を貫通して十全な威力が出る。
魔物もそうだが、人間も多少なりとも魔術抵抗力はあるからな。
どんな魔術でも多少は軽減されたりして、威力がバラけてしまうのだ。
先程の拳に載せたのは「
爆炎をまき散らす、破壊に長けた魔術だ。
俺が狙ったのは、それを敵の内部で放つ事。
血と肉を持つ相手なら、小さくとも体内で爆炎が発生すれば生命維持が困難になる為、文字通り必殺の一撃。
派手さが無いので仲間には不評だったが、敵には酷く恐れられた技術だ。
真似をしようとする奴も多かったが、制御に失敗すると自分の手足を失う事になるから、俺以外に戦闘での使用に耐えうる練度になった者は居ない。
グルルルルッ!
俺との超接近戦は分が悪いと感じたのか、人狼はうめき声を上げながら後ろに飛び退ろうとする。
咄嗟に後ろに逃げようとするのは本能的な動きなのかもしれんが、甘い。
自分の有利な距離で戦おうとするのを、俺がみすみす見逃すと思うのか?
ダンッ!
大地を穿つ程の強烈な踏み込み。
奴が飛び退った分、俺は踏み込み懐に潜り込む。
眼前には奴の腹。
見上げれば顎。
身体の構造上、この位置ならば攻撃が難しいだろう?
少なくとも腰の入った一撃は不可能だ。
殺し合いは、相手が嫌がることを率先してやるものだよ。
命がかかっているのだ、必要ならばなんでもやろう。
「ッ!」
人狼が息を飲む音が聞こえる。
反射的に身を引こうとするが、そんな猶予は与えない。
奴の毛皮に鼻先が触れるような距離。
此度は回避など、させない。
この距離から放つのはワンインチパンチ、いわゆる「寸勁」。
もちろん載せるのは
赤い魔力の燐光が僅かに舞い散る。
小さな魔法陣が多重展開され、敵の魔術抵抗を穿つ。
『
「───……終わりだ、
ドンッ
腹の底に響くような鈍い音。
「ガッ!?」
悲鳴。
人狼の中に、臓腑を焼く爆炎の花が狂い咲いた。
ボトボトボト……───
人狼の臓物が辺りに散らばる。
眼前に転がるは、上下に別たれた人狼。
上半身から腸が飛び出しているのが見えた。
「うぇぇ……」
「うへぇ……」
後ろから二人の呻き声が聞こえる。
ちらりと見てみれば、シトリーの足元にも小腸らしき臓物が転がっており非常に嫌そうな顔をしている。
まぁ、少々グロくはある。
戦場では珍しくない光景だから、俺はそのへんの感覚がすっかり麻痺しちまってんな。
メアリーの方に視線を向けると、なんだか青い顔をしている。
そうか、彼女とはさっきやり合ったんだったな。
展開もよく似ていたし、一歩間違えば自分がこうなっていたと気付いたのだろう。
そうだぞ、喧嘩は相手をみてから売ろうな?
視線を地に伏した人狼へ戻す。
奴は白目を剥いてビクビクと身体を痙攣させている。
手ごたえはあったが、残心取ったまま油断なく構える。
魔物も人も、仕留めたと思っても数秒は動いたりする。
戦場でもそれが生死を分けることもままあったのだ。
肉の焦げる嫌な臭いが辺りに漂う。
見ていると痙攣も止まり動く気配もない。
……こんなものか?
正直、少々拍子抜けだ。
人狼は恐ろしい物だと俺達は教わっている。
目の前に転がるこいつは名前こそ人狼だが、フォルムがやや狼に似ていると言うだけで全く別のバケモノだ。
毛皮の間に鱗のような皮膚を持つ、普通の人間ならば嫌悪感を覚えるような存在だ。
最初に俺が人狼の話を聞いた時は、前世でもあった子供を怖がらせる御伽噺の一種かと思っていた。
しかし、少しでも出現の兆候があれば教会騎士団に連絡するように周知徹底されていると聞いて俺は考えを改めざるを得なかった。
まぁ、魔術があって魔物がいるのだ、人狼くらいいても不思議ではない。
彼らが恐れられているのには理由がある。
それは彼らが人と人の間に潜むということだ。
殺人事件が起きた場合、前世と同じように都市の治安を守る警察のような組織が調査にあたるのだが、下手人が見つからない場合がある。
そのとき、街の人間はこう思うのだ。
『もしかしたら人狼がこの辺りに潜んでいるのかもしれない』と。
そして小さな疑惑だったそれは時間と共に育ち、大きくなり、不和の種になる。
人狼が居ないにも関わらず人狼狩りが行われ、無実の人間が殺される事件に枚挙にいとまがない。
居ても居なくても疑心暗鬼を産み、人を喰らう忌まわしき化け物。
それが人狼という化け物だ。
まぁ、一般人からすると恐ろしいのかもしれないけど……。
ピクリとも動かなくなった人狼を観察する。
……満月の夜にはより強力になると聞いたが、強化されてこの程度か?
確かにスピードは目を見張るものがあった。
それでも強力な魔物かと言われると少し首を捻りたくなる。
「……おじさん、
やや遠巻きにして観戦していたメアリーが声を掛けてくる。
立ち直ったらしい。
切り替えが早いのは良い事だ。
「それなりに手ごたえはあったが、こいつがどれくらいしぶといかが分からん。しぶとい奴はマジでしぶといからな……。今までやり合って一番ヤバかった魔物は首だけになっても一昼夜暴れ回ってたぞ」
「えぇ……?」
しぶといにもほどがある。
首を落としても食いついてきたからな、あいつ。
なんで首だけで動けるんだよ。
その魔物の名前?
「いやぁ、さすがにこれは死んだでしょ、動かないし! パパは強いですね!! さすがシトリーのパパ!」
シトリーがキャアキャアと喜びの声を上げながら飛び跳ねる。
年相応のはしゃぎっぷりではあるが、警戒心うっすいなあ……。
まだ終わったかどうかは分からんのだぞ?
やれやれ、これが終わったら心得を叩き込まねばな。
『にゃる・しゅたん にゃる・がしゃんな にゃる・しゅたん にゃる・がしゃんな』
……?
なにか、今……?
シュルルッ
蛇が動く時のような擦過音。
「んきゃッ!?」
悲鳴。
「足に何か……───」
シトリーの声。
見ると肉色の細長い何かが、彼女の細い足首に絡みついていた。
「にゃああああああああああああああ!?」
「きゃああああああああああ!?」
シトリーとメアリーの悲鳴が響き渡る。
アレは……人狼の腸か!?
ヌメヌメと月明かりを照り返すピンク色の臓器。
B級ホラー映画のように辺りに散らばった臓物が蠢いている!
コイツ、そんな事できたのか!?
いや、どうやったら内臓単体で動かすことができるんだよ……?
内臓に筋肉なんてないから動かす事なんて……いや、俺の常識で考えるな!
奴は人狼、マジモンのバケモノだ!
彼女の足に巻き付いた腸が淡く光った。
……魔力光?
何らかの魔術か?
いや、なんとなくシトリーから何かが吸いだされたような感じが……これは、まさか!?
「メアリー! 切断しろッ!」
「えぇ!? 無理ィ! 私の剣折ったのおじさんじゃん!」
メアリーが叫ぶ。
そうだったわ。
俺がぽっきりやっちゃって、新しいの渡してなかったわ!
やっちまったぜ☆
畜生、上手く行かねえなぁ!
倒れていた人狼が上半身だけで跳ね起き、喜びの咆哮を上げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇前半戦終了。戦闘シーンムズカシイネ!
あんまりごちゃごちゃ書くとアレだけど、キンキンキン!だとちょっとねえ。
◇『
日本語からルーン文字に変換できるページを見つけてしまった……。
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