第22話 白狼族の若 その3

 俺とクリスは、ガスパウロ一行を見送った後、早速ロックバードの魔石を宅配ボックスに入れて、レベルを確認してみた。


 ごくり……。



 レベル10!


 しかも宅配ボックスの注文は、一日1,000円までかと思いきや、一挙に2,000円。そして、お待ちかねのスキルもゲットすることができた。


 なになに……。


 ……って、え? 



 スキルを貰えたのは嬉しいのだが、俺のスキルは【麺料理】。こんなことを言うのは申し訳ない気もするが、正直微妙。

 どうせならカッコいい魔法……もっとこう何というか、厨二っぽいモノが欲しかったのは内緒だ。


 ちなみにこのスキル。効果を確認すると、麺料理をしている間は、体力の消耗を抑えられるとのこと。


 ちなみに他の料理の場合は効果が無いらしい。味に関しては特に記載がないことから、美味しく作れるという訳ではなさそうだ。


 どういう基準でスキルが決定されるのかは分からないが、スキルの取得には俺の普段の行動が反映されているのかも知れない。そういえば最近、袋ラーメンばかり作っていたし。


 もっとも「料理」というより「調理」なのだが。



 ◆



「サトウ様、これで大量に仕入れることが出来ますね」


「そうだな。クリスが欲しいモノも少し買えるかも」


「いえ、そんな……」


「遠慮しなくていいよ」


「は、はうう……」


 注文画面を見つめる俺に寄り添うクリス。俺の肘に先ほどから柔らかいものがあたっている。

 思わず全神経が右ひじに集中してしまったが、クリスから変に思われたら嫌なので、俺はクリスのから顔をそむけるくらいしかできないでいる。

 どうも、ロゼとの一件以降、日増しにクリスとの距離が物理的に縮まっているように思うのは気のせいだろうか。


 結局俺は、若様一行に備えて袋ラーメン5食入り(しょう油味)3個に加え、塩味とみそ味の袋ラーメンもそれぞれ3個ずつ注文することにした。

 付け合わせに卵ともやしもカートに入れる。白狼族の皆さんが満足してくれるといいのだが。


 せっかく注文価格が増えたのだが、自分たちの夕食は冷蔵庫の残り物で済まし、今日は仕入れを増やすことにしたのだった。


 ◆


「店主殿、約束通り来たぞ! また美味いメシを食わせてくれ!」


 外の通路がほんのり暗くなってきたころ、ガスパウロ達がどかどかと入ってきた。   

 見事アースドラゴンを狩ることが出来たという。


「今日の若の勇猛ぶり、我ら一族に代々語り続けられることになりましょうな」


「そうですわ。アースドラゴンの単独での討伐者として、若様の御名は遠く異国の地まで鳴り響くことでしょう」


「それこそが、わしの狙いよ。アースドラゴンの魔石と共にアイツが他国に嫁げば、我らのことを軽んじることもあるまい」


「成る程、魔石に武勇伝をのせて姫様の嫁入り道具となさるとは」


「さすがは若ですわ!」


「お前ら、わしをおだてたところで何も出てこんぞ……って、熱っ!」


「「いい加減、学習してくださいませ!」」


 どうやらクリスが気をきかせて出した湯のみに、またもやガスパウロが不用意に口を付けたようである。



 ――――――



「袋ラーメンお待ちどうさまです」


「……ごくり」


 俺が大なべを出すと、今まで武勇伝で盛り上がっていたテーブルが急に静かになった。

 今回の袋ラーメンは初の塩味。そして茹で卵ともやしの具入りである。


「お替りも準備しておりますが、いかがいたしましょうか」


「もちろん頼む。今から用意しておいてくれ」



 ――――――



 ガスパウロたちは、お替りを完食しても、まだ何か物足りない様子である。

 もう一度袋ラーメンを出してもいいのだが、いくら何でもこれ以上袋ラーメンを食べさせるのもどうかと思う。


「今日はスパイスを使った別の料理もお出しできそうなのですが、いかがですか」


「さすがは店主、気が利くな! 早速頂こう!」


「承知いたしました」


 ロックバードの魔石を頂いた以上、皆さんには満足して帰って頂きたい。俺はカレーライスを振る舞うことにした。


 実はあらかじめ、レトルトカレーのパッケージを見ながら、クリスに獣人族にNGな食材は無いのか聞いてみたのだが、何も問題は無いそうだ。


 ほぼすべての獣人族の食性は人族と同じ。そして獣人族に食事について尋ねるのはタブーらしい。


「実は、こんな噂を聞いたことがあります」


 クリスが言うには、かつて王都の宴席で一触即発の事態があったとか。


「王都側からさる獣人族に対して料理の食材に、玉ねぎ、にんにく、ぶどうなどを使ってもいいかどうか聞かれたそうなのですが」


「それが何か問題でもあるのか?」


 俺としては、アレルギーや信仰上の問題もあるのだろうし、丁寧な対応だと思ったのだが、どうやら違うようだ。


「獣人族の皆様は、自分たちが犬扱いされたと思われたようで、帝国との間で戦争になる手前でした。若き獣人族の次期棟梁がその剛腕で、事を収められたということです」


「…………」


 人族の安易な気遣いは、獣人族に対して心をえぐる。


 犬に対するような配慮など、獣人族からすれば、屈辱以外の何物でもなかっただろう。こんな心配をされるくらいなら、食中毒で死んだほうがマシなのだとか。


 ここは【言語理解】のスキルを信じることとしよう。


 クリスをはじめメスカルたちに大好評だったカレーライス。白狼族の皆さんにも喜んでもらえるといいのだが……。




「これはまた刺激的な香りですな」


「まさか、ダンジョンでこのようなお食事を頂けるなんて思わなかったですわ~」


 生まれて初めてカレーを食べたのだから驚くのも無理はない。皆さん夢中でカレーを頬張っている。


「店主! このような高級料理、王都でも食べたこと無いぞ」


 瞬く間に完食し、三人とも満足した様子で腹をさすっている。あれだけ食べたのだから無理もない。


「店長、大満足だ。何かお礼をしたいのだが」


「めっそうもないです」


「ケルベロスの魔石をこれへ」


 初めて見るケルベロスの魔石は、こぶし大の大きさ。赤黒く鈍い光を放っている。とにかく高価なものに違いない。


「我らはこれから引き上げる」


「暗いのに大丈夫ですか」


「なに、我らは夜目が利くからな。店主も元気でな。ここで店をしてくれるのは本当にありがたい。里の者にも伝えておこう」


 若様はそういうと、軽やかな足取りで『洞窟亭』をあとにしたのだった。

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