第28話 二つのスキル

 この度もらった俺のスキル【挨拶あいさつ】。

 どう考えても、カスなスキルだと思っていたが、どうやらとんでもないチートスキルかも知れない。


 実は、今まで『洞窟亭』を訪れる冒険者の皆様は、セーフティースペース(聖域化)のおかげで、ガラの悪い客はあまりいなかったが、中にはこんな感じの客もいたのだ。


「いらっしゃいませ」


「おう、店主! ここの名物は袋ラーメンらしいな。とにかく早く出してくれや」


 まあ、ガラが悪いというより、親しみも込めた態度ではあるのだが、そんな客も今ではこのように……。


「いらっしゃいませ」


「こんにちは、店主さん。名物の袋ラーメンをお願いできますでしょうか。あ、別に急ぎませんので、お気遣いなさいませんように」


 そして極めつけは、メスカルたち。


 ある日の昼下がりのこと。

 注文していた日用品や家具を買い付けてくれたメスカルたちは、いつものように『洞窟亭』に来てくれたのだが。


 “カラン、コロン……”


「やあ、メスカルたちか。今日もありがとうな!」


 俺はいつもの調子で笑顔で声をかけた。


 しかし……。


「こちらこそいつもお世話になっております」


「サトウ様、ご機嫌、うるわしゅうございます」


「…………」(ペコリ)


「え? おいおい、どうしたんだよ。お礼に袋ラーメンでも食べてってよ」


「そ、そんなもったいないお言葉」


「シャーマン様、恐れ多いことです」


「…………」(ペコリ)


 結局この日は、注文していた商品を受け取った後、せめてものお礼として、恐縮して固辞する三人に、それぞれ袋ラーメンを何とか食べてもらった。

 そして俺は当分の間、メスカルたちに挨拶あいさつすることをひかえようと心に決めたのだった。



 ◆



 一方、【麺料理】のスキルは、地味ながら安定の効力を発揮してくれている。


 この日も、一日の仕事を終え、くたくたな体でキッチンに立ったものの、麺料理を作るうちに自然と疲れが取れるのだから不思議だ。


 この日の夕食は、さぬきうどん。


 『洞窟亭』の開業当初は、いざというときに備えて夕飯をわざと多めに作ることもあった。

 しかし、今となってはそんな必要もなく、食品ロスの点からもありがたい限りである。


「サトウ様、今日は一体、どのようなお料理なのでしょう」


「まあまあ。楽しみにしててよ」


「はい、サトウ様!」


 ワクワクした視線を寄越してくるクリスに、ドヤ顔の俺。


 今日の夕食は、茹でたうどんに卵を加えて麺つゆで味付けした釜玉ぶっかけうどん。

 あっという間に、俺の自信作が完成した。まあ、麺は二玉で構わないだろう。


「まさか、卵を生のままでいただくのですか?」


「そうだよ。【宅配ボックス】の卵は俺が異世界で生で食べていたものと同じだからね。クリスは心配か?」


「いいえ!サトウ様のお言葉に間違いはございませんから!」


 なんだか俺が褒められているみたいだが、日本の養鶏業者の皆様のおかげです。いつもありがとうございます!


「これは俺が、遠い昔(学生時代)。異世界(日本)で、修行(バイト)して身につけた料理なんだ。『洞窟亭』のメニューには出せないが、クリスには是非味わって欲しい……と、いうか、何というか……」


「そ、そんな凄いお料理を、私のために……。は、はうう……」


「い、いやそんな大そうなモノじゃないから、そ、そんなに気にしないでね!」


 鶴亀製麺の本店でバイトしたことのある俺の渾身の一杯を目にして、ここまで感激してくれると、逆に申し訳ない。


 だって、冷凍うどんを茹でて麺つゆをかけた上に、生卵を落としただけなのだが……。


「サトウ様、弾力のあるウドンに、このサクサクがたまりません~♪」


 あれだけ感激していた生卵にも触れて欲しかったが、クリスは、トッピングに振りかけた天かすがことの外お気に入りのようだ。



 そして……



「あ、あのサトウ様、おかわりってありますか」


 恥ずかしそうにおずおずと丼を差し出すクリス。


 今までお替りすることなんてあまりなかったのに、こんな日に限って~。


「もちろん! ただし今から作るから、少し待っていてくれな」


「は、はうう……」


 疲れた体にもかかわらず、俺は平気な顔でクリスから丼を受け取る。


 これぞ、スキル【麺料理】の真骨頂。


「サトウ様、美味しいです〜♪」


 やはりこのスキルも俺にとっては特上のチートスキルのようだ。

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