第27話 新スキルは挨拶?!

「サトウ様、ごめんなさい。私ったら出すぎたことを!」


 ラビアンを見送った後、そう言って頭を下げるクリス。

 俺としてはクリスがさっき俺のことを「高潔なシャーマン」と言ってくれたことが意外だった。


 ひょっとして俺はクリスに軽蔑されているワケではないのかも?


「それよりさっきの魔石。どうもスライムじゃない気がするんだけど」


「ホントですね。……あっ!」


 クリスはそう言うと、レジカウンターに飾っていたケルベロスの魔石を持ってきた。


「サトウ様、色も大きさも違いますが、私には似ている気がするのです」


 俺にはさっぱり分からないが、クリスの見立てでは、ラビアンが持ってきた魔石はケルベロスの幼体かも知れないとのこと。


 もしこの魔石が仮にスライムのものなら1,500~2,000ギルの間だが、ケルベロスのものなら、幼体でもかなり高価なものらしい。



 ◆



 俺たちはその日の営業を終えると、早速例の魔石を【宅配ボックス】に入れることにした。

 ちなみに現在、冒険者からたまに買い取るスライムの魔石のおかげで、レベルは13になっている。


 そしてステータスを確認すると……。



 ――――――レベル21!



 少なくともスライムの魔石などではないようだ。

 クリスの言うケルベロスの幼体かどうかは分からないにせよ、ラビアンは『あおの洞窟』内でここまで来る道すがら、かなりの大物を仕留めたのだろう。


 レベル上昇に伴い、購入金額も増えた。

 この増え方にどのような規則性があるのかはわからないが、喜ばしいことに変わりはない。

 そしてレベルが20を超えたことで新たなスキルをもらえたのだが……。



「え? なんだこりゃ?」



挨拶あいさつ



 またしても、よくわからないスキルが出た。しかし【麺料理】といい、この【挨拶あいさつ】といい、一体何なんだ?!

 もう微妙な感じを通り越して、馬鹿にされているような気がするのだが……。


 いや、麺料理は役に立ってるけどね。


 どんなに疲れていても、夕飯の支度にキッチンに立つのが少しも苦じゃないし。しかも楽で楽しいし。おかげで今日の夕食も麺料理になりそうなのだけど。


 俺は早速、【挨拶あいさつ】をクリックしてみた。



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 挨拶あいさつがもたらす効果を、最大限まで引き上げます。


 これまで以上に人間関係が円滑になることでしょう。


 あの人の心の扉も開くかも?!



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「円滑になることでしょう」って、占いじゃあるまいし。しかも「あの人の心の扉も開くかも?!」。「かも?!」って何だ?!


 効果のほどは全く分からない謎なスキルだが、挨拶あいさつなんて社会人必須ひっすのスキルだぞ!

 現代の日本じゃ、どこの小中学校でも指導されてるくらい、基本中の基本のことなのだが。


 いや、そう言えば……。


 俺の周囲にも、いい大人にもかかわらず、挨拶あいさつしない人や、してもぼそぼそとした挨拶あいさつしか出来ない人は確かにいた。

 どうしてそんな人が、入社試験に合格して正社員として働いているのか謎だが。

 逆に誰でも簡単にできることなら、学校の先生たちもあんなに熱心に指導することもなかったはず。俺もどこまでできていたことやら。


 よくよく考えてみれば、挨拶あいさつがもたらす効果について気になるのだが、それにしても……。


 いやいや、どう考えても役に立たないカスなスキルだろう。さすがのクリスも俺の横で言葉を失っているし。


 ひょっとして、厨二心を満たすような、カッコいいスキルは、出す気がないのだろうか。



 こんなときこそ、きちんとした食事は必要だろう。がっかりしてどっと疲れたが、クリスの好物をつくることにした。



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【名前】:サトウ


【所属】:人族


【性別】:男


【レベル】:21


【スキル】:【言語理解】【麺料理】【挨拶あいさつ


【間取り】:3LDK


【所持金】:130,000ギル


【その他】:【宅配ボックス】【聖域化】


【ボーナス特典】:【照明】


【購入金額上限】:4,100円



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「クリス、今日も一日お疲れ様」


「はい。お疲れ様です」


「それでは……いただきます!」


「サトウ様、は、はうう……」


 俺たちは、相変らず気まずい雰囲気を引きずって食事を始めたのだが……。



「え? そうなのか?」


「そんな、サトウ様こそ!?」



「じ、じゃあクリスは俺のこと嫌ってたわけじゃないんだな」


「私の方こそ、てっきりサトウ様に嫌われたとばかり」


「なんだそうか。どうやら勘違いしていたみたいだな」


「はい、私も!」



 新スキル【挨拶あいさつ】のおかげだろうか。


 二人でパスタを食べながら、俺とクリスは、かつてのように心から笑い合うことが出来たのだった。




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第一章を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今後もカクヨムに続々と作品を出す予定です。作品&作者フォロー、感想、❤、☆☆☆様、よろしくお願いいたします~。

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