最終回その2 妹の就職先は?

“シャクッ” 


 もしゅもしゅもしゅ……。


「う~ん。甘~い♪」


 沙樹の休日の定番は、喫茶『プロバンス』のモーニング。ここの姫路アーモンドトーストがお気に入り。

 サクサクトーストに、香ばしくも甘いアーモンドバターのハーモニーがたまんない。これは全世界に伝えるべき味だと思う。


 トーストを一口食べるとコーヒーでお口直し。アーモンドバタートーストの甘さにコーヒーのほろ苦さがブレンドされて至福の味わいである。


「それにしても……」


 お兄ちゃんはクリスちゃんと上手くやっているのだろうか。

 ここ最近、急に男らしくなってきたけれど、自分の中では圧倒的に頼りないイメージが離れない。特に女の子のことになると、ホント情けないんだから。


 クリスちゃんのことを大切にしている気持ちはわかるけど、あれだけ好意を寄せられていて、何もしないなんて、我が兄ながらどうしたものか。

 そういう自分も、いまだ男の人とちゃんとお付き合いしたことが無いのは、絶対に秘密だ。


「さてと」


 モーニングを綺麗に平らげて小さく伸びをした。

 今日はいよいよ最終面接。

 とある大手企業の面接が午後に控えている。



「よし‼ 今日もカワイイ❤」


 鏡の中の笑顔もばっちり。メイクもノリがいいし、何だかいけそうな気分……でもないか……。いざとなると自分は本当にこれでよかったのかと、自信が持てない自分がいる。


「もう、うじうじしないで、スパッと決めちゃおう。お兄ちゃんじゃあるまいし」


 ジーンズとパーカーを脱いでリクルートスーツ手に取る。


 すると……。


 押し入れの引き戸がすっと開いた。


沙樹さき! お前、また来たのか?!」 


「それはこっちのセリフよ! これから就職試験の面接だってのに、何してくれんのよ!バカにい!」

「痛っ、お前、何スーツ投げてんだよ!」


「……ああ~っ‼ やっぱり外に出られないじゃん! 私、これから第一志望の最終面接なんだよ。どうしてくれるのよ!」

「いや、どうと言われても……」


「サトウ様、どうされましたか? ああっ、沙樹様……」

「キュキューイ」


 俺たちの騒ぎにクリスたちがやってきた。


「キュー♪」


 沙樹は飛び込んできたキューを受け止めると、スライム越しに白の上下が水色のそれに変わった。ただ兄としては、妹の下着などまったく嬉しくないのだが。


「どこ見てんのよ、ヘンタイ‼」

「誰がお前の水色のやつなんか見るか‼」

「あっ、やっぱ見てるじゃん、サイテー‼ どうせ私のいない間、クリスちゃんと変なことしてたんでしょ」

「へ、変なことって」

「はうう……」

「もうこうなったら、お兄ちゃんには責任取ってもらいますからね‼」

「責任って?」

「だから、私の就職先よ‼ まさか洞窟亭に就職しろって言うんじゃないでしょうね‼」


 エライ剣幕で俺に詰め寄る沙樹なのだが、何だかうれしそうに見えるのは、気のせいだろうか。


 ……ていうか、沙樹まず服を着て欲しいのですが。

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