特別SS 愛のエプロンと瓦そば
「お兄ちゃん、部屋からこんなの出てきたんだけど」
「あ。これって……」
沙樹が持ってきたのは茶そばの乾麺。クリスに部屋を掃除してもらった時に見つけたらしい。
賞味期限は今月いっぱい。一袋しかないが、今晩の夕飯には十分な量である。
「沙樹、ギルドに瓦みたいなのあったよな。メスカルさんのとこに行って分けてもらえないかな」
「え~っ。そんなの何に使うの……って。あっ、そうか! お兄ちゃん私行ってくる。やったー‼ 私大好きなんだ♪」
「サトウ様、瓦が夕飯と何か関係があるのですか?」
「それは見てのお楽しみ」
「それじゃお兄ちゃん、行ってくるね!」
小首をかしげるクリスを残し、沙樹は玄関をあけて靴をトントンさせている。それにしてもこの沙樹の顔。何やらよからぬことを企んでいるような気がする。
「それじゃリーダー、愛のキッチンよろしくね♪」
「誰がリーダーだ‼」
「クリスちゃんには愛のエプロン渡しといたから」
「え……」
「はうう……」
よくよくクリスを見れば、何と……。沙樹の奴、何てことしやがる。
エプロンとは下着の上に付けるものじゃないぞ‼ こんな当たり前のことを噛んで含めるように説明する日が来ようとは……。
ともかく俺は、恥ずかしそうにもじもじしているクリスを着替えさせ、夕飯の支度に取り掛かったのだった。
「サトウ様。まずこれを茹でるのですね」
「いや先に具材をつくるんだ」
俺はフライパンで錦糸卵を手早く造りつつ、隣のコンロで牛肉の細切れを煮込んでいく。
「クリスは、大根おろしと紅葉おろしを頼むね」
「はいっ」
「あとレモンも切っといて」
錦糸卵と牛コマ煮込みが出来上がると、いよいよ茶蕎麦の出番だ。
初めて見る乾麺に興味津々のクリス。
鍋に一杯のお湯を沸かすと、乾麺の袋を開封した。
「緑のパスタなんですね。いい香りです~」
時間きっかり茹でた後、水洗いしてぬめりを取ったらざるにあげる。
フライパンに火をつけたとき、沙樹が帰ってきた。持って帰ってきた瓦は、日本のモノにそっくり。よく洗えば十分に仕えそうだ。
◆
「さあ出来たぞ」
「やったあ」
「あ、あのサトウ様、これは……?」
今回の料理は長州名物瓦そば。
熱した瓦の上に、焼いた茶そばを乗せ、その上にはこま切れ牛肉に輪切りレモン。その上には、大根おろしやもみじおろしが乗っている。
「はふっ。あつっ」
「もう、お兄ちゃん、がっつきすぎ」
「好きなんだからしょうがないだろうが」
「まあ妹の大好物を覚えていたから許してあげるか」
「私も初めてですが、大好きになりました~‼」
茹で焼きされた茶蕎麦は、カリっとジューシー。牛肉の甘い脂がたまらない。あったかいつけ汁に浸していただくともう箸が止まらない。
「お兄ちゃん最高だよ」
「ロディオ様、おいしすぎます~♪」
「萩に出張した俺に感謝するように」
「ええっこれ、お兄ちゃんのお土産だったっけ?!」
「何忘れてんだよ」
「許してにゃん☆」
「お、お前って奴は……」
「でもでも、おいしすぎまふ~♪」
兄としては、せっかくのお土産を忘れられていたことは悲しいが、クリスの笑顔に免じて許してやることにしたのだった。
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