特別SS 風呂上がりのナマチューはこれで決まり♪②
「ジェイクさん、カキピーは気に入ってくれましたか。自分もナマチューと一緒にやるのが好きなんですよ」
サトウ様は、そう言いながら一口大に切った肉を何かの汁に漬け込んで揉んでいる。
「い、いえ、こちらこそ、お、美味しかったです」
自分の体がカチコチになっているのがわかる。国賓級の大物と立ち話なんて、聞いてないぞ。
「これ、ジェイクさんが獲ってくれたロックバードの肉なんです。この前まかないで揚げてみたら美味しかったんですよ。せっかくですから、ジェイクさんにも食べてもらおうと思いまして」
「あ、あ、はあ……」
「作り方ご覧になりたいのでしたら、どうぞ遠慮なく」
サトウ様はそう言うと、肉に衣をつけて油の海に沈めた。
”ジュッ、ジュジュジュ~……”
サトウ様が肉を入れると、鍋の中では衣がぱっと広がった。
小気味良い音とともに、漬け込んだタレの香ばしい匂いが厨房に広がる。
“ごくり……”
鍋の中では次々と衣の華が開き、サトウ様はひとつひとつ丁寧にひきあげていく。
まるで、花を摘んでいるかのようだ。
「とり天、揚がったよ」
「お兄ちゃんのとり天、絶品なんです! さあ、席についてください」
目の前には、トリテンとナマチュー。
皿に盛られたトリテンを見ると、横に白いソースが添えられている。
フォークも用意されているが、ここは常連として割り箸に手を伸ばす。
トリテンをひとつ摘まんでゆっくりと嚙み締めた。
“サクッ”
軽い。
”じゅわっ”
小気味いい歯ざわりの後、肉汁があふれたかと思うと、口いっぱいに肉のうま味が広がった。
そして時間差でひろがる香ばしい香り。
「美味っ! 熱っ! あ! い、いやすいません。美味しいです」
「大丈夫ですか? 気を遣わないでくださいね」
「そ、そんなことないです。本当に美味しいです」
軽い衣の中に閉じ込められたあふれる肉汁。その予想外の多さに思わず声を上げてしまった。それにしてもこの『トリテン』という料理、なんて危険なんだ。こんなのを食べさせられたら、他のトリ系の料理なんて食えなくなるかも。
気を取り直して、ナマチューのジョッキに口を付ける。
……こ、これは‼
ついさっきまで、ナマチューとカキピーこそ至高だと信じていたのに、その思いがガラガラと崩れていった。
そ、そうか? そうなのか?! やはり、ナマチューとトリテンだ。
「とり天にはタルタルが合いますよ」
タルタル……? 初めて聞くが、この横の白いソースのことだろうか。
それにしても、こんな粘り気があるソースなんて初めてだ。たくさんの具材が刻まれているのだろう。かすかに黄みがかっているのは卵だろう。緑の野菜やオニオンらしきモノのみじん切りがも入っている。
試しにタルタルだけを少し食べてみた。
「酸っぱ……いや、甘い?」
「でしょ~♪ 淡路の玉ねぎを空気でさらしたんですよ。ねーお兄ちゃん♪」
アワジ? 何だか知らないが、異世界の地名だろうか。
それはともかく口の中にさわやかな酸味と甘みが広がった。これをトリテンに付ければどうなるのだろうか。
「はむっ」
サクサクのトリテンにタルタルを付け口に運ぶ。
タルタルを付けてもサクッとした衣の歯触りは残っており、その後押し寄せる肉汁のうま味がに酸味と甘みが加わった。何とも複雑ではあるが極上の味である。
「美味~いっ‼」
「ナマチュー空いたのでグラスも替えますね~♪」
気付けばホールにいたはずのクリスちゃんがやってきた。いつの間にか閉店時間を過ぎたようだ。
「長居してしまってすいません」
「いえいえ。それよりカキピーを気に入ってくれたジェイクさんに、サトウ様がとっておきのを作られましたよ」
クリスちゃんはそう言うと、自分の前に小皿を置いた。
「カキピーテンです。どうぞ」
「こ、これは……」
何と、トリテンが砕いたカキピーの衣をまとっている。これまた一生のうちに二度と食べられないだろう品だ。
“ごくり……”
思わず、生唾を飲み込んでカキピーテンをつまむと、ゆっくりと口に含んだ。
のだが……。
「ぶっ……」
「ジェイクさん大丈夫ですか?」
「すいません、失礼しました。あまりの美味しさについ……」
カリカリサクサクの衣。そしてピリ辛に包まれた肉は、ひと噛みごとに肉汁があふれ、ロックバードの旨味が香ばしい香りと共に口の中いっぱいに広がってくる。
そして、ナマチュー。
カキピーだけでも合うのに、これはもう無敵。
互いが互いの良さを引き出している。
触感、旨味、辛味、香り。これらの相性が……完璧だ。
「あ、あのサトウ様。今更ながらですが……」
引退の件は先延ばししたっていい。
ジェイクは『洞窟亭』からのクエストがある限り、ロックバードを狩り続ける決意を固めたのだった。
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