第24話 リニューアル

「よお、サトウさん! 頼まれていた品、持って来たぜ」


「わあ、私の趣味にぴったりです! ありがとうございます~♪」


 この日の昼過ぎ、メスカルたちが注文していた品を運んできてくれた。

 今回は全面的にクリスの趣味で選んでもらった。俺ではこの世界の感覚に合うモノをチョイスできるか自信がなかったからということもある。


 荷車に乗っているのは、落ち着いた木目調のテーブルセットと日用品。

 どうやらダンジョンの狭い通路も無事通れたようだ。

 ずっと荷車をいていたガイルも汗をぬぐっていい笑顔をしている。



 メスカルたちのパーティーはすっかり『洞窟亭』の常連で、ありがたいことに自分たちだけでなくギルドの冒険者たちをよく連れて来てくれる。

 おかげで、ありがたいことに俺のリビングにあったテーブルセット一組だけでは不便で仕方なかったのだ。


「いつもありがとう! ご馳走するから何か食べていってよ。といっても、メニューは四種類しかないけどね」


「よしっ! 通はやっぱり、みそだよな。ガイルもそうだろ?」


「……とんこつ」


「え?!」


「私はしょうゆが一番好きっ! あ、でも今日はやっぱり塩の気分かも!」



 ◆



 レベルが10になってから一週間。

 一日当たりの購入金額が2,000円になったおかげで、安定した仕入れができるようになり、俺たちは満を持して『洞窟亭』のメニューを一新した。

 それまでの『日替わり軽食』だけだったのを、『袋ラーメン』(各種)に改めたのだ。

 リピーターを見越し、味は『しょうゆ』『塩』『みそ』『とんこつ』の四種類。トッピングに煮卵、モヤシ、ネギの具を加えることで、値段は全て一人前500ギル。

 取りすぎの様な気がするのだが、これ以上安くすれば、ダンジョンの外にある普通の食堂との釣り合いが取れないらしいから仕方ない。

 ちなみに水袋への補給は500ギルに値下げしているので許してほしい。



 ◆



「ほう、これが噂の店か」


「ここのスープパスタは王都のレストラン以上らしいぞ」


「まじか?!」


「まあ、よくあるんだよな、要するに旅先で食べるメシは、普段より美味しく感じられるってやつだろうさ」


 メスカルたちのおかげで『洞窟亭』には、毎日2~3組の冒険者パーティーが訪れてくれるようになった。

 そして、お客様の冒険者の皆さんの反応はというと……。


「なんて、いい香りなんだ!」


「おい、この水見ろよ」


「氷が入っている水なんて初めて見たぞ。しかもこんなに透き通っているなんて」


「こ、このガラスは柔らかいぞ」


「さすがにこれは別料金か?!」


「これが無料って」


「う、美味うまい!」


「……」


 初めて『洞窟亭』を訪れた客は、判で押したかのように皆、袋ラーメンの香りに興奮し、氷入りの水とその清浄さに驚く。


 そしてお替り用のペットボトルの新素材に驚嘆した後は、水がお替り用を含め無料のサービスということを告げられ絶句する。


 出来上がった袋ラーメンを口にすれば、その味に感動の声を上げるか、もしくは無言になるかという、お決まりの反応である。


「サトウ様」


「ああ」


 俺とクリスは新たな客が来るたびに、顔を見合わせて声を忍ばせ笑いあっている。


 お客様を笑うなんて、客商売をしている者として失礼なことこの上ないが、あくまで隠れてのことなので許して欲しい。

 最初は互いに視線を合わせられなかった俺たちも、最近、ようやく少しなら互いの顔を見ることができるようになってきつつあった。



 ◆



「サトウ様」


「何だクリス?」


 ロゼに頼んで買ってきてもらったクリスの仕事着=メイド服は、やたらスカートの丈が短かったりする。

 『洞窟亭』のメニューを一新したのを機に、クリスの制服も新しくしたものの、これではいくら何でも、色々と問題があるように思えるのだが。

 下手なことを言ってクリスに変に思われるのも嫌だし、しかしかといって、このままでは目のやり場に困ってしまう。


「どうしたんだ?」


「そんなに私のことを見つめられては……」


「あ。え?」


「は、はうう……」


 クリスは恥ずかしそうに身をよじると、接客中にもかかわらず、自分の部屋に帰っていってしまった。



「あ!」



 俺としたことが、うかつにも……。男のチラ見は女のガン見だったのだった。

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