第9話 ボーナス特典

「ところで、この世界でシャーマンってどういう存在なんだ?」


「もちろん、それはそれは偉大な存在です!」


「そんなに凄いのか」


「もちろんです!」


 俺の中ではシャーマンとは、あの世からこの世に霊魂など精神的なモノを呼び寄せる巫女といった認識である。

 ところが、クリスによると、この世界でシャーマンといえば、異世界から具体的な物を取り寄せることが出来る特別な存在なのだとか。


「正直、魔導士様や賢者様と比べても格が違います。それくらいシャーマン様とは偉大なのです!」


「そ、そうなんだ……」


「私もサトウ様にお会いするまでは、一生会えないとばかり……あっ、私ったら、なんて失礼なことを!」


「いや、俺はサラリーマンだから別に何とも思ってないよ。でも初対面の俺をどうしてシャーマンだと思ったんだ?」


「だって、サトウ様はシャーマン様のイメージそのままでしたから」


 シャーマンの外見は、どの文献においても黒の短いマントと黒のズボンを身に着けた、武器を持たない成人の未婚男性として描かれているのだとか。

 ちなみに、俺が身に着けているのは、黒の牛革ハーフコートに黒の厚手のジーンズ。


 その中身はしがない独身サラリーマンなのですが……。



 ◆



「そういや、クリスからもらった魔石を、宅配ボックスに入れてみようと思うんだが、一緒に見てくれないか」


「タクハイボックスですか?! 異世界のモノを召喚する魔道具ですね!」


 俺は押し入れの宅配ボックスを開けると、クリスから貰った魔石を入れて扉を閉める。


 いつものように「カチッ」と音がした後、再び扉を開くと魔石が三つとも無くなっていた。


 どうやら上手くいったようだ。


 そしてリビングのノートパソコンを開けてステータスを確認すると……。




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【名前】:サトウ


【所属】:人族


【性別】:男


【レベル】:2


【スキル】:【言語理解】


【間取り】:3LDK


【所持金】:13,000ギル


【その他】:【宅配ボックス】【聖域化】


【ボーナス特典】:【照明】




【購入金額上限】:200円




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 いくらか分からないが、ポイントとやらが溜まったのだろう。レベルが2に上がっていた。


 それに伴い【購入金額上限】が200円になった。相変わらず、買い物はできませんが。


 レベルは10上がるごとに【スキル】が与えられるそうだが、それとは別にレベルが上がればランダムに【ボーナス特典】が与えられることがあるという。今回は運よくいただけたらしい。


 俺は早速【照明】をクリックしてみた。




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『ただ今を持ちまして、セーフティースペースに照明の設置されました。照明にかかる電気料金は、今までの基本料金に含んで引き落としさせていただきます』




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 玄関の外を覗いてみると、セーフティースペースは相変わらず暗闇のままだったのだが、廊下の靴箱の上の辺りに見慣れぬスイッチが出来ていた。


 スイッチを押すと、それまで真っ暗だった空間が、柔らかな光で包まれた。


 一瞬にしてあたかも落ち着いたカフェのような空間に変わったのだった。


「は、はううう……。素敵です~」


 クリスはうっとりとした表情で両手の指を組むと俺を見上げて口を開いた。


「私、サトウ様のお役に立って、少しでも長くお傍に置いていただけるよう頑張ります!」


「王都へは本当に帰らなくてもいいのか?」


「帰ったところで、私は失業の身。あんな高品質のポーションが出回っている以上、もう冒険者の仕事は出来ないと思います。それよりサトウ様、このまま私を雇ってはいただけないでしょうか?」


「いや、雇うって言われてもな……」


「ここで、お店を開くのはどうでしょうか。きっと皆さん大助かりで繁盛間違いなしです!」


 クリスは両手をきゅっと握りしめながら、俺の顔を覗っている。

 大きな瞳がウルウルしていて……か、可愛い。



 ―――って、そうじゃなくて!




「サトウ様……」


「う、うん……が、頑張ろうな」


「はいっ! 私にシャーマン様のお手伝いをさせてください」


 色白な顔をうっすらと上気させているクリス。


 俺を眩まぶしそうに見つめてくれているように感じるのは、多分気のせいだろう。しょせん、俺なんて女の子からしたら「いい人」止まりなのだから。


 そういや、何年か前確か友人の結婚式の二次会がレンガ倉庫を改装したレストランで、こんな内装だったことを思い出した。


(俺は、ついこの間までサラリーマン生活をしていたんだな)


 日本で普通に生活していた頃が、なんだかずいぶん前に思えるのだった。

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