第2章 第10話 【ハズレ】スキルと新メニュー‼

 スキル【ハズレ】。


 もしかしたら、敵の攻撃が外れるのか、それとも罠を外すことができるのか……。などと一瞬思ったのだが、単なるハズレらしい。


 レベルを上げる際、特に何かしたわけでない場合、稀に現れるのだという。

 レアなスキルには違いないが、本当の意味ではずれである。



 そしてもうひとつのスキルは、【査定】(弱)。定番の鑑定じゃなく、査定って……。

 だけど【ハズレ】の後だけに、少しかっこよく見えるから不思議だ。スライムの魔石の買い取りのおかげかも知れない。

 ひとつにつき、一万ギルまでの魔石及びダンジョン産のアイテムが査定できるようだ。


 試しに今日冒険者から1,000ギルで買い取った三個のスライムの魔石を見てみると、俺の視界に値段が現れた。


 それぞれ330G、340G、280G。


 Gは恐らくギルのことだろう。合計は950ギルだから、良心的な買い取り額である。


 レベルが上がる間、俺の取った行動がスキルとして反映されるのだとしたら、ラーメンつくってたまに接客する以外は、魔石の買取くらいしかしてこなかったから、【ハズレ】と【査定】でも文句は言えない。


「でも、サトウ様、ボーナス特典がありますよ!」


 クリスが指さす画面の先には【天然温泉】×2、そして【ゲストルーム】と記されている。


 セーフティースペースに出てみると、カウンターの奥に、新たなドアが出来ていた。


 開けると、二十畳程のフローリングの部屋に二段ベッドが二つ。布団やシーツまくらなどの寝具まである。しかも、テーブルや椅子に加え応接セットも付いていた。


 これは、宿屋の経営も出来るのでは?


 そして温泉の方なのだが、これまであった入り口の横に新たな温泉が出来ていた。


 こちらは【美人の湯】とは泉質が違うようで、硫黄のようなにおいがわずかに漂っている。


 中を開けると脱衣所やトイレといったレイアウトは同じだが、湯船は石造りの内風呂が三つ並んでいて、それぞれの浴槽は温度がぬる湯、温湯、冷泉となっており、切り傷や打撲、それにケガの後遺症などに効果がありそう。


 俺はこの新たな温泉を【勇者の湯】と名付けることにしたのだった。


「お兄ちゃん、せっかくだから温泉旅館開いちゃおうよ!」


「しかしだな。ギルドの支部が出来るってことで、お客はますます増えるぞ?」


「そこを何とかするのが、腕の見せどころじゃない!」


「あ、あの……こうするのはいかがですか?」


 クリスが言うには『洞窟亭』の労力を減らせば、その分、入浴や宿泊に労力が割けるのではないかというもの。


 具体的には、テーブルごとに同じメニューを注文してもらうという。

 そして調理した鍋をそのまま出し、お客さんはテーブルに置いている取り皿で自由に取ってもらう。


 確かにこれが可能なら、調理にしろ接客にしろ大幅な労力の削減になる。


 今まで、パーティー全員で同じメニューを注文した時など、臨時的にしたことはあったが、大丈夫なのだろうか。


「お客様には不自由を掛ける代わりに増量します。一人前500ギルの袋ラーメンを四人前で五袋分出すのはいかがでしょう。何しろ『洞窟亭』のお客様は四人組が一番多いですし、三人組の方も少し物足りなさそうですから」


 クリスが言うように四人前をひとつの単位とするならば、調理だけでなく接客においてもかなりの労力の削減になる。五人組のお客には六袋分出してもいいのかも知れない。


「でも、クリスちゃん、それじゃ麺がのびちゃわない?」


「う~ん。そこは、一袋か二袋分を替え玉として別皿で出してもいいよな」


「……なるほど、お兄ちゃんイケそうだよ。さすがはクリスちゃん。“内助の功”だね!」


「ナイジョノコウですか?」


 きょとんとした顔で小首を傾げるクリスの耳元で沙樹がささやいた。


「クリスちゃん、その意味はね…………」


「は、はうう……」


 俺たちはクリスの案を受け入れ、翌日から試してみることにした。



 ◆



「クリスちゃん、なんかこの前来たときと、勝手が違うよな」


「俺たち別々のモノを頼んじゃだめ?」


 最初の何組かはしょう油や塩といった同じメニューを注文してくれ、それぞれ量も多いと喜んでくれたのだが、やはり不満を漏らすお客様も出て来た。


 そのようなときにはそれまで通り個別に丼で出していたのだが……。


「今日あっさりと塩味の気分なんだ」


「そうなのか? 俺はいつでもしょう油一筋だぜ」


「ならば、別々の丼で出しましょうか。ひとつの鍋でお出しした場合ですと、増量したものをお出しできるのですが」


「何! 沙樹ちゃん本当か? なら四人前で、塩3に、しょう油2ってのもいけるのか?」


「味の保証は出来かねますが、大丈夫かと」


「じゃあ、それで頼む!」



「お兄ちゃん、こんな注文、大丈夫なの?」


「まあ、カレーでも別々のメーカーのルーをブレンドしたりするしなあ」


「でもこれって、ハヤシライスとカレーのルー合わせるようなもんだよ」


「まあ、お客様が望んでいるんだから試してみよう。別にお腹をこわしたりしないだろうし」


「サトウ様のつくられたお料理なら、きっと大丈夫かと思います」


 こうして俺たちは、内心ドキドキしながらも、ブレンドラーメンを出してみたのだった。



「おお、こりゃなかなか美味い!」


「お前、取りすぎだぞ!」


「沙樹ちゃん、クリスちゃん、これ最初からメニューに入れるよう、サトウさんに言っといてくれよ!」


「次来たときは、とんこつしょう油を試してみようぜ!」


 何と何だったのは忘れたが、俺も学生時代、二種類の味の袋ラーメンを混ぜてみて意外と美味しかったことを覚えている。

 最初は心配だったが、ブレンドラーメンが、この世界の冒険者たちにも好評なようで、良かった。


 この日は、問題なく営業を終えたのだが、まさか翌日こんなことになるとは……。



 ◆



「お兄ちゃん、とんこつにみそと塩がいいってお客さんが言うんだけど、いいの?」


「サトウ様、お客様が四種類をすべてブレンドして欲しいとおっしゃるのですが」


「何だって~! と、とにかくその二組には、言われたモノ作るけど、これ各テーブルと店の一番目立つところに貼ってくれ!」



『ラーメンのブレンドは二種類に限らせていただきます:店主』



 こうして、多少のごたごたはあったものの、温泉旅館開業に向け、店はようやく軌道に乗りはじめたのだった。

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