第2章 第18話 ご成婚パレード
誘拐騒ぎの翌日、何故か俺はガスパウロから強引にすすめられて、白狼族とエルフ族の結婚式に出席することになった。
会場である広いホールに足を踏み入れると、そこにはすでに多くの賓客で溢れていた。キョロキョロしているのもつかの間、俺は自分の席に案内されたのだが……。
「え、まさかここ?!」
信じられないことに、俺の席は新郎新婦の間。
何で俺が主役の二人より目立ってるのか訳が分からない。にもかかわらず、出席者の皆さんは特に気に留める風でもないのだから不思議だ。こっちは、ただただ居心地が悪いだけなのですが……。
結局俺は、白狼族やエルフ族の偉い人たちから、ひたすら酒を注がれ続けられるはめになってしまった。
「これはこれはシャーマン様、我らエルフを末永く守護していただけますよう、なにとぞ、なにとぞお頼み申し上げます」
エルフ族の最長老から震える手で酒を注がれたかと思うと、白狼族の現当主であるガスパウロの父親も、巨体を縮めて土下座されんばかりの勢いで俺の前までやってきた。
「いつも息子がお世話になっております。なにぶん世間知らずの未熟者故、さぞやシャーマン様にも失礼の段もありましょうが、平にご容赦ください。そしてこれからも我ら白狼族をはじめ獣人族の行く末、このおいぼれに代わって、よろしくお願いいたします」
「は、はあ……」
何だか頼まれてばかりなのだが、とにかくなみなみ注がれた酒を飲み干さなくてはならない。何しろ俺が席に座るや持たされたグラスは底が尖った三角錐の様な形をしていて、テーブルに置くことが出来ないのだ。
後で教えてもらったことなのだが、冠婚葬祭では注がれた酒は飲み干すことが友好の印とされているらしい。
これは通称『固めの杯』と呼ばれており、ときに正式な条約の締結以上の効力があるという。
そういうことはあらかじめ教えて欲しいものである。酒は嫌いではないが、ここまで飲まされるのはもはや罰ゲームにしか思えない。
しかも最後には国王自らがが恐縮しながらやって来て、俺のグラスになみなみと酒を注ぐものだから、流石の俺も限界が来てしまった。
「シャーマン様におかれましては、公爵をはじめ非礼の数々、お詫びのしようもございません。せめて酒をお受け頂きたく……え? あ! しゃ、シャーマン様、これは一体……」
「国王様のお気持ちは確かに頂戴いたしました。こちらこそ、せっかく注いで頂いたこの杯を、お返しする非礼をお許しください」
俺は国王の手をやんわりと包んで、グラスを国王に戻した。いささか失礼かとも思ったのだが、もうこれ以上飲めないので許してほしい。
すると、国王は俺から渡されたグラスを受け取ると、涙を流しながらゆっくりと飲み干したのだった。
何故かむせび泣く国王。
呆然とする俺。
しかもこの後、さらに不可解なことが起こった。
国王が酒を飲み干すや、この宴席に参列した王国関係者と思しき者たちが一斉に立ち上がり、俺に向かって深々と頭を垂れたのだ。
――――――
「二人とも、なんかその……とにかくすまないな」
「そんなことはありません。我らの結婚式にシャーマン様にご出席いただき、お礼の言葉もございません」
「どんなお祝いより嬉しいことですの~」
そう言って、ほほ笑む新婦の胸には特大の魔石が鎮座していた。おそらくガスパウロが『
◆
翌日。王都へ別れを告げ『
しかも、周囲を王国の近衛兵に守られている。何やら王室のパレードのよう。しかもいつの間にか沿道には王都の民衆で埋め尽くされている。
「きゃーっ! サトウ様~!」
「ほう、あれが噂のシャーマン様か」
「ああん、素敵~♡」
拍手や歓声が、二日酔いの頭に響く。正直勘弁して欲しいのですが……。
「サトウ様、王都は昨日の結婚式の話題で持ちきりですね」
「俺は特別席に座らされて、注がれた酒を飲んだだけだぞ」
「そんな、ご謙遜を。獣人と亜人との同盟の後ろ盾となられた上、国王様からの
「
クリスの言うことはいまいちピンと来ないが、あの後、酔いつぶれた俺は王宮に連れて行かれそうになったのを断って宿に送ってもらった。
こっちはゆっくり寝たいのに王国の偉い人たちが次々とやって来て迷惑したんだったっけ。
詳しいことはよく覚えてないが、きっぱり断っているので大丈夫だろう。
俺の横で嬉しそうににっこりほほ笑むクリスは、白の半袖体操服姿。胸には大きく“2-B 佐藤”と俺の個人情報が縫い付けられている。下はあずき色の長ジャージ。
クリスの体操服姿は可愛いのだが、なんだか俺の方が恥ずかしいのだが。
「シャーマン様って、見たところホントに言い伝えそのまんまだな」
「隣にお座りなのは、フィアンセの方かしら」
「あの服も異世界の最先端なんでしょうね。お可愛らしいわあ」
「あの胸のマークは異世界語か? さすがシャーマン様に嫁がれる方は違うぜ!」
「お二人とも、お幸せに~♪」
く、くう~っ。何だか自分が晒されている様な気かするのだが、本人が気に入っているので何も言えない。しかも、あまりにも可愛すぎて、まともにクリスのことを見れないのは相変わらずである。
後ろの席に乗った沙樹は、最初は、自分も結婚式に行きたかったなんて、ふてくされていたが、街の人たちの歓声に気を良くしてノリノリで笑顔を振りまいている。キュイも何だか嬉しそうだ。
「いや~、我が兄ながら凄い人気だわ」
「キュイ、キュイ~♪」
「あのなあ、繰り返すが俺は酒を飲んでただけなんだからな」
「……ていうか、何だかお兄ちゃんとクリスちゃんのご成婚パレードみたいだね」
「おい!」
「は、はうう……」
こうして『
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