第2章 第19話 【ハズレ】スキルと【無限廻廊】

「……どうです、サトウさん」


「こりゃすごいな」


 口数の少ないガイルが珍しく口を開くほど『あおの洞窟』の入り口はわずか数日で大変貌を遂げていた。


 確か以前は、小さな詰め所がひとつあるだけで人もまばらだったのだが、今や大きな看板が取り付けられ、大規模な基礎工事が始まっている。ギルド直営の宿ができるそうだ。


 そして、帰りの護衛はガイルひとりだけ。


 冒険者だけでなく、ギルドの職員や職人や商人など多くの人が頻繁に出入りするうち、入り口から十階層までの魔物は狩りつくされ、今はスライム以外に魔物は出ないそうだ。


 中に入ると通路の両側に手すりが設置され、格段に歩きやすくなっている。


 壁には注意書きや冒険者の心得なんてものが掲示されていた。しばらく進むと『あおあおの洞窟』で討伐された魔物の原寸大イラストなどがずらりと飾られており、その先には魔物と戦う冒険者の人形まであった。


「すごい迫力です~!」


「そ、そうだな」


 クリスはびっくりしているが、俺は、温泉旅行の帰りに寄った銀山跡を思い出してしまった。

 どう見ても冒険者ではない一般の人が多く行きかう光景は、何だか元の世界の観光地にいるみたいだ。


 そして『ベース』に着くと、そこは更に多くの人で溢れ返っていた。


 次々と建設されている宿泊施設の奥には、ギルド支部の建物が既に完成していた。ギルド本部の外観が石造りの重厚な造りなのに対して、こちらは漆喰の様なモノで白一色で塗り固められ、その規模はギルド本部以上の大きさである。


「さあ、どうぞ……」


 ガイルの案内で中に入ると、すぐにメスカルが来てくれた。


「おお、サトウさん、お帰り! 何でも王都じゃ大活躍だったそうじゃないか」


 いや~。正直、宴会してただけなのですが……。


「見てのとおり、ギルド支部の工事はすっかり終わってる。まあ、宿泊棟の建て増しや、ダンジョン内の整備はまだまだだがな。『洞窟亭』の宿泊の件も早速はじめて欲しいんだ」


「もちろんです」


「店の営業もなるべく早く頼むよ。職人や人夫が楽しみにしてるんだ。ささ、早く『洞窟亭』の工事の仕上がりを確認してくれないか」


 俺たちはメスカルに急かされるように『洞窟亭』に着くと、すっかり工事が終わり、セーフティースペース中が、きれいに掃き清められていた。温泉の浴槽や洗い場、脱衣所も同様である。


 ゲストハウスをのぞいてみると、すでにベットが運び込まれており、いつでも温泉宿として『洞窟亭』をリニューアルオープンできる準備が整っていた。


「ありがとうございます。明日から『洞窟亭』の営業を再開してギルド職員の受け入れを開始します。ところで相談なのですが……」


「お安いご用さ」


『洞窟亭』のスタッフは、調理担当の俺、ホール担当のクリスに助っ人の沙樹。清掃担当兼マスコットのキュイ。

 この慢性的な人手不足を補うため、俺はギルドから毎日『洞窟亭』へのアルバイトを派遣してもらう事にしたのだった。



 ◆



 俺たちは、手早く明日の開店準備を整えるとリビングに集合。ギルドから買い取ったたくさんの魔石を【宅配ボックス】に入れてみることにした。



 ――――――



「「「おお!」」」



 何と、レベルは一挙に97へ。

 それに伴い、新たなスキルも獲得。

 レベル50、60、70、80、90と五つのスキルのはずなのだが……。



【ハズレ】【ハズレ】【ハズレ】【ハズレ】。



 ただし最後の【ハズレ】は何故か青文字で表示されている。そして、最後は【ガチャ】。正直、意味がわからないのだが。

 中身を確認してみるとルーレットで、何らかの景品がもらえるらしい。


「お兄ちゃん、回してみようよ」


「サトウ様……」


 ディスプレイの画面には、“ガチャスタート”のボタンが出来ていた。


「よ、よし、押すぞ」



 ――――――。



「「「ああっ!」」」



 何と、【ガチャ】を使って新たに獲得したスキルはまたもや【ハズレ】。しかしこの【ハズレ】は、赤文字で点滅している。

 クリックして説明を見てみると、【ハズレ】は五枚から特典が貰えるらしい。〇のエンジェルかよ?!

 そして六枚揃った特典は、次の様なモノだった。



 ========================



 おめでとうございます。【ハズレ】スキルを六枚集めたあなたには、以下の商品が進呈されます。【宅配ボックス】よりお受け取りください。



【無限廻廊:片道】×2



 =========================



「な、何だと!」


 俺はてっきり【無限廻廊】のスキルを手に入れれば、この世界と元の世界を自由に行き来できるものと思っていた。

 もし【無限廻廊】を渡るのに一々切符が必要なのだとするのなら、俺と沙樹は元の世界に戻れたとしても、こちらには帰って来ることができない。


「よ、よかったですね! サトウ様も沙樹様も、これでお戻りになられることができるんですね」


「クリス……」


「クリスちゃん」


「そんな、私なら大丈夫です。『洞窟亭』の看板は、キュイと二人で守っていきますから」


「キュイ~」


 涙を必死にこらえたクリスの作り笑い。キュイの声も何だか悲し気に聞こえるのは気のせいなのだろうか。


「とにかく、レベルはまだ足りていないんだし、まだ先のことだ。元の世界のことは【無限廻廊】が繋がった後に考えよう」


「そ、そうよね。【無限廻廊】にしたって実際に見てないんだから、どんなものかもわかんないし」


「サトウ様、沙樹様……」


「とにかく、王都じゃ色々あって疲れただろう。今日はもう寝よう」



 ◆



 そして、いつもの様に俺とクリスは寝室に入り、二人の寝床の間をカーテンで仕切った。


「おやすみ、クリス」


「サトウ様、おやすみなさい」



 ところが、その夜更け。


 部屋の真ん中を仕切っていたカーテンが、静かに揺れたのだった。

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