🚪玄関あけたら2秒でダンジョン‼~体操服の北欧系美少女と袋ラーメンでレベルUPを目指します‼~

七生(なお)。

第1話 玄関あけたら夜だった!


「おい、このにおいは……ヤバいんじゃないか」

「ああ、間違いねえ」

「あの噂は本当だったのか」

「お、お前ら行くぞ」

「マジかよ」


 大陸最大のダンジョンとして名高い『あおの洞窟』の十階層。その奥深くから、場違いな香りがかすかに漂っている。


「でもよ、あの噂信じてもいいのか」

「そりゃ、ギルマスのお墨付きなんだから本当なんだろうさ。もっとも、こんな香りをかがされちゃあ、俺は誰が何と言おうが食いに行くけどな」

「金は足りるのかよ」

「聞いた話だと大丈夫だと思うぜ。何しろここのマスターは、そこらの奴と違って器が大きいって評判だからな」


 やがて、冒険者たちは『洞窟亭』と看板が掲げられた店? のドアをゆっくりと開けると、たちまち豊潤な香りが広がった。


「いらっしゃいませ」

「お兄ちゃん、四名様ご来店されたよ~♪」

「キュイキュイ~♪」


「ようこそ『洞窟亭』へ‼ 当店自慢の袋ラーメンを腹いっぱい食べて行ってください」


 奥から黒髪黒目の店主らしき男が顔を覗かせて、人のよさそうな笑顔を浮かべたのだった。

 




「ずずず……ごくっ。……ふう~っ。美味い」


 部屋に広がるしょうゆ油出汁だしの香り。

まずはスープに口を付けてから、やや硬めの麺をすする。俺のいつもの作法である。


 そしてこの美味さの理由は作り方にある。

 お湯に麺を入れた後はしばらく触らず我慢しなければならないのだ。

 2分ほどそのまま煮て、はじめて箸を入れるのだ。もちろん調味料を入れるのは火を止めてから。

 大抵の者はお湯にラーメンを入れるとあわただしくひっくり返したり箸を入れたりする。適当に作っている人が多く、実に嘆かわしいかぎりである。


「んぐ、んぐ、んぐ、んぐ……ぷはあ~♪」


 俺は、朝食代わりの袋ラーメンを最後の一滴まで飲み干すと、手早くスーツに袖を通した。そしていつものように玄関のドアを開けたのだが……。



 (え?)



 ―――玄関あけたら夜だった。



 腕時計の指す時刻は七時ちょうど。慌ててスマホを取り出してみたが、圏外となっている。


 とりあえず部屋に戻って、買ったばかりのテレビをつけるが、電源は入っても電波は入らない。



(一体どうなっているんだ?)



 外の様子を確認しようと、カーテンを開けてみたのだが……。



 ―――何も見えない。



 それどころか、窓の外は、部屋と同じ白い壁だった。


 窓はどんなに頑張っても開かない。固くて開かないというより、窓枠が外の壁に固定されてしまっているような感じだ。


 俺は、混乱しながらも、玄関に出てスマホの明かりで外を照らしてみたのだが……。


(う、うそだろ……)


 恐る恐るスマホの明かりで照らすと、玄関先は床も壁も石で覆われた四角い部屋になっていた。広さはざっと、二十畳以上はありそうだ。


(一体何がどうなっているんだ……)



 ◆


 スマホを片手にあちこち移動し、電波がつながる場所を探したのだが、無駄だった。電源は入るので、一応ノートパソコンも立ち上げたが、ネットにはつながらない。時計を見ると、完全に遅刻。どうして今日に限ってなんだ!


 社内では人畜無害の「いいひと」として、軽んじられがちな俺に、新規プロジェクトのリーダーとして白羽の矢が立ったのだ。

 俺は初めて人からちゃんと認めてもらえたような気がして、何か月もかけてプレゼンの準備をした。そりゃもう、夢中で頑張った。何日か徹夜もした。


 これまでどちらかと言えばのんびりと生きてきた俺にとって、間違いなく人生で一番頑張った数か月だった。


 会社の上層部からの了承はすでに取っており、あとは、正式な場で披露するだけ。そしていよいよ今日がその日だったのだ。


 朝から気合を入れるために、大好きな袋ラーメンで気合を入れたというのに……。  

 なのに、一体、何が起こっているんだ~~~っ! 


 ――――――


 とにかくスマホの明かりを手にもう一度、玄関から外に出てみた。

 どうやらこの石造りの部屋にはドアも隙間もないようだ。


「おーい! 誰か、誰かいませんか!」


 ……


「た、助けてくれー!」


 …………


 大声で叫んでみたのだが、どこからも返事はなく、静まり返っている。


 ―――――


 部屋に戻ってから一時間以上、スマホを掲げて部屋中歩き回ってみたのだが、圏外のままだった。外には出られず、電波も入らない。

 仕方なくリビングに戻り、椅子に腰かけてしばし呆然としていたのだが……。


「あ、あれ?」


 ふと気付くと、リビングのテーブルの上に出したノートパソコンの画面に、一通のメールが届いていた。


 俺の目に飛び込んできたメールの中身は、とんでもないものだった。

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