第2章 第22話 レベル100!【無限廻廊】

「よお。また来たよ」


 最近、メスカルは頻繁に『洞窟亭』に来てくれる。ギルドマスターの仕事は大丈夫なのだろうか。当の本人は自分の一番大切な仕事は俺と会うことなんて真顔で言っているのだが。


 いつもなら部屋に上がってもらってお茶と煎餅でも出すところだが、珍しく飲みたいということなので、俺は冷蔵庫からプレミアムなビールと枝豆を出すことにした。


「ちょっと待っていてくださいね」


 そう言うと俺は枝豆をフライパンで軽く炒め塩を振る。やはりビールのお友にはこいつに限る。


「何だ? これはまた何とも変わった……いや、失礼。異世界のつまみかな? 豆のようだが……」


「とにかく食べてみてくださいよ。こいつがビールに合うんです」 


「くぅ~っ! 美味い! 豆の香ばしさと塩加減が絶妙だな。そして異世界のエールがこれまた最高に合うな!」


 これは、エールじゃなくてラガーですよと心の中でツッコミを入れつつ、俺も杯を重ねた。



「そういや、二人で飲むのは初めてでしたよね」


「そうだったかな」


「初めてメスカルさんたちと会ったのが昨日のことみたいに感じます」


「俺もそうさ。一介の冒険者だった俺がギルドマスターになり、伝説のシャーマン様とこうして飲むなんて、何だか夢を見ているみたいだ。それもこれも全てサトウさんのおかげだな」


「おだてたって、何も出ませんよ。ラーメンなら出しますが。……ところで、今月も魔石を仕入れたいんですが、いいものありますか」


「そうだと思ってとっておきのモノを持って来たぜ。実はラビアンが二十階層まで到達してな。これがゴールドドラゴンの魔石だよ」


 メスカルさんが取り出したのは、アースドラゴンのそれを一回り大きくしたような魔石。スキルで【査定】してみると、ゴールドドラゴンの魔石で間違いないのだが、値段は一億ギル。さすがにこれは買えない。


「値段は一千万ギルだ」


「え? 本当にいいんですか? 俺の【査定】スキルでは一億ギルなんですが……。」


 査定額の十分の一にあたる一千万ギルなら、今でもぎりぎり何とか買えそう。しかし、本当に九十パーセント引きなんかしていいのだろうか。


「ギルドでもある程度以上の高額品は、なかなか売れないんだよ。結局は展示品ばかりが増えちまう。サトウさんには魔石を定価の半額で譲る約束をしてるだろう」


 本来なら五千万の所を一千万。ざっと四千万の値引きだが、温泉をタダでひかせてもらったり、度々相談にのってもらったりしている以上、たまにはサービスしたいとのこと。


「そういうことなら、ありがたく買い取らせていただきますが。でも何だか申し訳ございません」


「いやいや、こちらこそサトウさんあってのダンジョンギルドなんだよ……実はラビアンがこれを一千万でウチに卸してくれたんだ。サトウさんに売るという約束でな」


「それはまたなぜ?」


「その代わりに、あいつはサトウさんから異世界の素材が欲しいんだと」


「一体何でしょうか?」


「今度、そばめしを食べに来るからそのとき直接話すってさ」


「いや、俺は……」


 そう言いかけて口を閉じた。

 この魔石があればレベルは上限の100まで行くだろう。そして【無限廻廊】が開いた場合、俺はこのままこの世界にはいないだろう。


「ラビアンはああ見えて一流の占い師でもあるんだ。来月にはこっちに寄れるから、サトウさんに相談することになるって言ってたぜ」


「…………」


「そうそう。久しぶりに食わせてくれないか。カップ麺だったかな」


「お安い御用です」


 俺は、奥から最初にメスカルに出したカップ麺を取り出し、お湯を注いだ。


「ズズズ……そういや、覚えているかい。俺たちが……ロゼやガイルと共に初めてここに来たときのこと」


「はい。今でもはっきりと。メスカルさんたちは『洞窟亭』の最初のお客様でしたから。そして、まさか二番目のお客さんになるなんて思いませんでしたが……ぷっ」


「おい、おい、その話は忘れてくれよ!」


「とにかく……もし何かあったら侯爵様にはギルドからよろしく言っておくから」


「え? 何か知ってるんですか」


「いや……まあ、ラビアンが言うんだから間違いないと思うが……とにかくご馳走様。こんなうまい酒は初めてだったぜ」


 メスカルはそう言うと、ニッと笑顔を浮かべてそそくさと帰って行ったのだった。



 ◆



 メスカルを見送り、店じまいをすると、俺はクリスと沙樹を呼んだ。


「実はメスカルさんからこれを買いとったんだ」


 俺はそう言うと二人の前に、ゴールドドラゴンの魔石を置く。


「綺麗な石ね~」


「サトウ様、これはもしや……でも、買うにはまだ資金が足りないと思うのですが……」


「訳あって一千万ギルで譲ってもらった。おそらくこれでレベルは上限まで上がるだろう。【無限廻廊】のスキルが発動するかも知れない」


 俺は早速、ゴールドドラゴンの魔石を【宅配ボックス】に入れてみた。


 クリスと沙樹の三人で食い入るようにノートパソコンのディスプレイを見つめると……。



 レベル100!



 ついに目標のレベル上限に到達。【無限廻廊】の文字が現れたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る