第2章 第7話 俺の下宿に女子2人

「ど、どうぞ……お茶です。遠慮せず、召し上がってください」


「…………」


 俺とクリスは、ちゃぶ台を挟んで沙樹と向かい合っていた。


 しかし久々に会った我が妹は、せっかくクリスがれてくれたお茶にも口を付けず、こちらを睨んでいる。


「これって……一体どういうこと、なんだろうな……?」


「そんなこと、私にわかるわけないじゃん! っていうか、お兄ちゃんこそ何でこんな可愛い外国の女の人と一緒にいるのよ!」


 沙樹が言うには、自分の部屋で着替えていたら、いきなり俺が部屋の戸を開けたのだとか。


 もちろん俺は事情を話したのだが、全く納得できていない様子である。


「どういうことか、きちんと説明してよね!」


 “バン!”とちゃぶ台を叩く沙樹。


 きちんと説明して欲しいのは俺の方なのだが……。



 ◆



「……ふうん。つまり、お兄ちゃんは、ダンジョンにつながったこの部屋で女の人と楽しく同棲しているってわけね」


「ど、同棲?! はうう……」


「いや、同居だっての! ところで沙樹、俺が部屋の戸を開けたのは、いつだった?」


「いつって、お兄ちゃんが覗いてきたのは、さっきのことでしょ!」


「日時を詳しく教えてくれよ」


「バイトの面接の日だから2月29日だよ。時間は朝の7時だった」


「マジか!」


「何ワケのわかんないこと言ってんのよ!」


 この日時は、俺がこの世界に来る前と同じ。どうやら、俺の部屋は元の世界のあの日あの時と繋がっているのかも知れない。


「だからさ、俺も2月29日の朝に、玄関あけたらダンジョンだったんだよ!」


「何よそれ! ホントワケわかんない!」


「俺もワケわかんないんだけどさ、とにかく生活のために食堂やって生活しているんだよ」


「はあ? 食堂? しかも袋ラーメンが人気って正気なの? そんなことより、一体いつ元の世界に帰れるのよ!」


「それは俺にも分からないけど……。多分いつか帰れるかな?」


「多分って何よ、バカい!」


 結論を言えば、俺の和室の押し入れの引き戸が、妹の部屋の押し入れの引き戸に繋がってしまったということである。


 もしかして、沙樹の部屋から元の世界に帰れるのかと思いきや、部屋のドアはいつの間にか壁になっており、窓も部屋と同じく白い壁で固定されているような状態になっていた。


 俺は沙樹に、宅配ボックスやノートパソコンのステータス画面を見せて、洗いざらい全てを説明したのだった。



 ◆



「お兄ちゃん、これゲームやラノベによく出てくる奴だ」


 沙樹は、セーフティースペースで遊んでいたキュイや、洞窟亭の扉の外に広がるダンジョンを見てようやく現状を受け入れてくれたようだ。


 元々頭の回転が速くて察しのいい妹。一緒に暮らしていた頃は何かと振り回されることも多かったのだが、今回はそれが良かったのかも知れない。


 俺は兄として、ほっと胸をなでおろしていたのだが……。


「ふうん……このスライムも本物なんだ」


「キュイ、キューイ!」


 沙樹は、ぽよぽよと転がっているキュイを抱きかかえると、顔を上げて俺を見据えてきた。


「要するにお兄ちゃんが、元の世界に帰るためにレベルを上げていたら、無関係の私まで巻き込まれちゃったということだよね」


「そういうことになるかな」


「そういうことじゃないわよ! どうしてくれんの!」


「だから、困ってるのは俺も同じなんだって」


「はあ? 全然困っているようには見えないんですけど!  もう、こうなったら絶対に元の世界に戻ってやるんだから!」


「お、おい、沙樹どこ行くんだ?!」


 沙樹はどすどすと足音を立てながら玄関に上がると、そのまま俺の和室の中へ。そして、俺の荷物をどんどん廊下にほうり投げ出していったのだった。


「おい、沙樹! 俺の部屋で勝手に何してんだよ!」


「この和室を通らないと私の部屋から外に出れないじゃない! だからこの和室も私の部屋にする!」


「そんな、お前、勝手に……」


「何よ、私はバカにいのせいで、トラブルに巻き込まれたかわいそうな被害者なんだよ! これくらいする権利はあるでしょ!」


「じゃあ俺はリビングに布団を持って行って寝るのかよ」


「同棲している可愛い彼女さんがいるんだから、二人で使えばいいじゃない」


「いや、同棲っていうより同居なんだけど。……え、俺はこれからクリスと同室で暮らすのか?」


「当たり前でしょ!」


「それから、私も部屋が片付き次第、お店を手伝うから! お兄ちゃんの私物は全部廊下に出しとくから後で運んでね! あと“私の部屋”は絶対に立ち入り禁止だからね!」


 こうして、4LDKになったにもかかわらず、逆に狭くなった生活スペースで、新たな生活が始まったのだった。

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