第2章 第6話 何でここに妹が!

「おーい! クリス出ておいで~」


「…………」


「キュイ、キューイ!」


 何度か声をかけてみたのだが、ドアの向こうから聞こえるのはキュイの声だけ。

 せっかくクリスの大好物を用意したのだが、どうやら効果は無かった模様。


 結局、昨日は俺一人でさぬきうどんを三玉食べる羽目になったのだった。



 ◆



 翌日の朝―――


 いつもの朝食の時間が来ても、出てこないクリス。

 部屋をノックするが反応なし。


 そして、キュイだけは部屋から出てきたようで、さっきから玄関前の廊下を跳ね回っている。どうやら外で遊びたいようだ。


「キュイ、キューイ!」


「キュイ今日も元気で可愛いな」


「キュ~イ!」


 さすがに、俺は昨日の食べ過ぎで胃がもたれ気味である。


 元気に跳ねるキュイをセーフティースペースに出してやったあと、リビングでコーヒーを飲んでいると、ドアがゆっくり開いた。


「サトウ様……」


「おはよう、クリス。お腹空いただろう。実は昨日の話なんだけど」


「はうう……」


 クリスは、俺が元の世界に帰るときに一緒に連れていくことを約束するや、四枚切りトーストにアーモンドバターをたっぷりと塗って、おいしそうに頬張ったのだった。



 ◆



 俺たちが食材を仕入れる際は、基本的にいつもクリスが一緒である。

 この世界の人たちにとっての嗜好だけでなく、安全性や俺たちの夕食用メニューを購入するにあたり、クリスの意見が必要だからだ。


 最近クリスが【宅配ボックス】に魔石を入れるのを嫌がっているようだったのだが、なぜか今日はクリスの方が乗り気である。


「サトウ様、いつの間にこんなに魔石が溜まっていたのでしょう。そろそろ処分されてもいいのではないでしょうか」


 いや「こんなに」って……。


 俺が魔石を【宅配ボックス】に入れてレベルを上げようとする度、「新しい制服はどちらがいいのか選んでほしい」だの、「スカートの長さはどのくらいがいいか」だの、「サトウ様の好きな長さは、いくら何でも短すぎはしないか」だのと、話をそらし続けてきたのはクリスの方だと思うのだが。


 とにかく俺たちは、久しぶりに溜まった魔石を【宅配ボックス】に入れてみることにしたのだった。



 ――――――



「おっ! これは……!」


 ガスパウロから貰ったケルベロスのモノ以外、今ある全ての魔石を入れてみた。その結果、レベルが上がっただけではなく、ボーナス特典が付いていたのだ。


 セーフティースペースの右側の壁に新たに出来たドアを開けると、脱衣所があり、その奥に広々とした岩風呂が出来ていた。


 引き戸を開けるともうもうとした湯けむりが立ち込めている。


 何を隠そう、この度のボーナス特典は【天然温泉】。

 しかも「美人の湯」だそうだ。


 源泉かけ流しで水道代や燃料代は不要とのこと。どうやら排水はウチの風呂や洗面所と繋がっているようだ。


 ちなみに、今現在のステータスはこのようになっている。



【名前】:サトウ


【所属】:人族


【性別】:男


【レベル】:29


【スキル】:【言語理解】【麺料理】【挨拶あいさつ】


【間取り】:4LDK


【所持金】:150,000ギル


【その他】:【宅配ボックス】【聖域化】


【ボーナス特典】:【照明】【天然温泉】


【購入金額上限】:4,900円



「あ、あれ? サトウ様、ここをご覧ください!」


 クリスの指さす先【間取り】を見ると、4LDKになっている。

 どこか一部屋増えたようだが、一体どこが増えたのだろう?


 リビングやキッチンには変化はない。クリスの部屋も異常なし。


 俺が使っている和室も大丈夫。……ってもしや、この押し入れの中から光が洩れている。不審に思った俺が、引き戸をそろりと開けてみると……。



「キャーッ!」


「えっ、沙樹さきか? どうしてここに?!」


「何こっち見てるのよ! バカにい!」


 俺には何が何だかさっぱりわからないのだが、とにかく和室の押し入のふすまの向こうから、下着姿の実の妹が、こちらをにらみつけていたのだった。

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