第2章 第8話 初夜
「いらっしゃいませ~♪ ようこそ『洞窟亭』へ♡」
「おっ、新入りさんかい?」
「店も繁盛してるから、クリスちゃんひとりじゃ大変だもんなあ」
「なんだかこう……新鮮な魅力が
「ほんと、可愛いね! 名前なんて言うの?」
「そんなあ~。男の人に話しかけられて恥ずかしいです~♪ 実は私……」
「えええ~っ! 沙樹ちゃんって、シャーマン様の妹さんなの~?!」
「それじゃ俺たちなんか手出しできないじゃん」
「高嶺の花だあ~」
「そんなあ~。私なんてぇ~♪」
沙樹のやつ、両手を胸の前で交差しつつ、はにかみながら体をくねらせてやがる。まいっちんぐポーズなんて、つけてんじゃねえ‼
この世界では珍しいショートカットも、冒険者たちからエキゾチックな魅力のひとつとして映っているのかも知れないのだが、それにしても、お前って奴は……。
気になって玄関から店内の様子を覗いたのだが、俺の前とは180度違う沙樹の態度に思わず絶句してしまった。
「お、おい、沙樹! いくら何でも
「もう、いいから、お兄ちゃんは黙ってて! 店内は聖域化されて安全って教えてくれたのお兄ちゃんじゃない!」
「いや、でもな……」
「沙樹ちゃ~ん、ラーメン追加」
「は~い♪」
たまらず注意したものの、沙樹は俺の言葉など、どこ吹く風という態度である。
いきなり異世界に来たというのにこの順応力。
我が妹ながら恐ろしい奴である。
◆
「ちょっと、お兄ちゃん! このメイド服、スカートの丈が短いし、胸も苦しかったんですけど!」
『洞窟亭』の営業が終わって表の看板をしまうと、沙樹はいつもの調子に戻っていた。
「す、すいません。私のサイズが……」
「ちょっと待った! クリスはそんなことで謝らなくていいよ! ていうか、沙樹は自分の服着たらいいだろ」
「それじゃ、せっかく異世界に来てるのに雰囲気が出ないじゃん!」
「は、はうう……」
隣ではいつものように俺の中学時代のジャージに着替えたクリスが小さくなっている。
何だか本当に色々と申し訳ない。
「文句があるなら、明日からは沙樹は自分の服を着てろ!」
「い〜だ! バカ
こ、こいつは……。
言うにことかいて、好き放題しやがって~!
「いくら何でももうちょっと待て! 今、仕事が終わったばかりなんだからな!」
「お兄ちゃんは、スキルのおかげで疲れてないんでしょ。私、和風パスタがいい。明太子のクリームパスタ作ってよ」
「お前って奴は……」
いきなり現れてやりたい放題の沙樹に比べ、気の毒なことにクリスは遠慮しているような気がする。
「わかった。すぐに作ってやるから、クリスやキュイと一緒に温泉にでも入って来いよ」
「お願いね。クリスちゃん、キュイ行こう」
「は、はい」
「キュイ、キュイ~!」
それにしても、仕事が終わった後、俺の方から
「和風明太子パスタか」
そういや何度か沙樹にも作ってやったことがある。
異世界の雰囲気の出ないメニューではあるが、これは俺の得意料理にして材料さえあれば、ものの十分足らずで出来る最速料理でもある。
憎まれ口をたたきながらも、沙樹なりに俺のことも考えてくれたのかも。
多少腹も立つが、ここは我慢して存分に腕を振るってやることにしたのだった。
◆
「さすがお兄ちゃん! やるじゃん!」
「サトウ様、美味しいです~♪」
「そうかそうか! 二人とも俺の自慢料理の前にひれ伏すがよいぞ!」
「今度私にも作り方を教えてくださいまし~」
「もちろんだとも」
「私は、教えてもらう気ないからね。食べたいときは、お兄ちゃんに作ってもらうから」
「お、お前ってやつは……」
実は、この和風明太子パスタは、明太子に白だしとマヨネーズを入れてよくかき混ぜ、茹でたパスタと和えただけ。
お皿に綺麗に盛り付けて上から刻みのりを振りかけているので、見栄えはいいが、俺のレシピの中でも最も手間いらずの部類に入る。
沙樹とクリスは二人ともパスタをお替りすると、二人で仲良く洗い物をしてくれたのだった。
◆
そして、その夜――――――。
「それじゃあ、お兄ちゃんにクリスちゃん、お休みなさい。お幸せに~♪」
「俺はいいけどクリスに悪いだろうが!」
「そんなことないですっ!」
「え?」
「はううう……」
結局、俺たちは部屋の真ん中にロープを設置。そこにシーツを掛けることで部屋を二分した。何かの映画でこんなシーンがあったことを思い出したのだ。
ベットはそのままクリスが使い、俺は布団を敷いて寝ることにした。部屋を追い出されたことは腹が立つが、クリスは沙樹と一緒に温泉に入ってから明るくなったような気がする。
「クリス、電気消すよ」
「はい……」
――――――
「いきなりウチの妹が迷惑かけてゴメンな」
「いいえ、そんな」
「困ったことがあったらすぐに相談してくれな」
「ありがとうございます。それよりサトウ様……」
「ん?」
「サトウ様は、いい妹様をお持ちなのですね」
「えっ? どこが?」
「沙樹様は、サトウ様のことを思いやられてます」
「本当か? 二人で何か話したのか?」
「うふふ……。それは秘密です。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
「あっ、最後に……私、大切なお友達が出来たんです」
「…………」
「サトウ様ありがとうございます」
「…………」
しばらくしてクリスは暗闇の中、俺に近づくと、何事かささやいたのだった。
◆
一方、ギルド本部は沸きに沸いていた。
一階のホールでは、全ギルド職員とその場に居合わせた冒険者を前に、ギルドマスターのハーネスが壇上に立った。
脇には、副ギルド長に就任したばかりのメスカルや、晴れて上級職員となったガイルやロゼの姿もある。
「みんな知ってのとおり、ギルドは『
「うおおお〜っ!」
「カンパーイ!」
この日、ギルドマスターの演説に合わせて、冒険者に対しエールの無料試飲会が行われていたのだ。
ホールに入りきれないほどの冒険者たちはエールをあおり、気の早いものはその場から『
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