第2章 第24話 結婚式
ほぼ徹夜で元の世界を満喫後、始発に乗って家までたどり着いた俺。スーツを脱いで一息ついた所で、“ピンポーン”と玄関のインターフォンが鳴った。
「お兄ちゃん、おはよう」
朝七時前、俺の家に沙樹が上機嫌でやって来た。
アルバイトの面接は上手く行ったようで、明日から来て欲しいと言われたそうだ。
「お兄ちゃんの方はどうだった?」
「ばっちりさ。何せ十分に準備も根回しもしてきたからな。どちらかというとセレモニーに近かったかも。でもそんなことより……」
「はいはい。どうせクリスちゃんの方が大事なんでしょ」
「うん」
「ホントはっきり言っちゃって。でも、お兄ちゃん何だか最近変わったよね。我が兄ながら、男らしくなった気がする」
「ほんとか? 自分じゃよくわからないんだけど」
「だって、お兄ちゃんって、昔からこんなときいつも照れてはっきりしなかったでしょ。女の子のことを堂々と”好き”って言うなんて考えられないよ。……で、こっちの世界のことはどうするのよ」
「会社の方は辞表を出して、仕事は引き継いできた。元々チームで進めてきたことだから大丈夫だ」
「会社はともかく、いきなりお兄ちゃんがいなくなったら行方不明扱いじゃない?」
「そこは沙樹がこの部屋に引っ越してくれれば大丈夫……なんてな」
「何それ! バカ兄! また私のこと巻き込む気、満々じゃない! 将来、私が結婚でもしたらどうする気なのよ! さっき誉めて損した!」
「冗談だよ。いざとなったら行方不明として警察にでも届けてくれ」
「もう!」
「でも、お兄ちゃん。クリスちゃんからは本当に何も聞いてないの?」
「ああ。“大丈夫”って言葉だけだよ」
「それでホントに戻れる保証はあるのかなあ」
「クリスが言うんだから間違いないだろう。きっと理由があると思うんだ」
「そこまで信じてるんだ。わかったよ……。お兄ちゃんのことは、クリスちゃんに任せる。ちょっぴり焼けちゃうけどね」
沙樹はそう言うとクルリと俺に背を向けた。
「なんか、お前には世話になったよな」
「うん。お世話しました。何今更当たり前のこと言ってんのよ。……それから、お兄ちゃん」
「何だ?」
「クリスちゃんのこと、泣かせたら承知しないからね!」
「大丈夫だ! 任せとけって」
「じゃあ、これでお別れかもな」
「私も覚悟できてるんだ」
「大丈夫。心配ないよ」
「うん。お兄ちゃんはともかく、親友で将来の義理の姉のクリスちゃんのことは、信じないとね」
涙を拭ぬぐう沙樹に背を向け、俺は玄関のドアをあけたのだった。
◆
そして……。
“ガチャッ”
「……サトウ様!」
「クリス! ……って、おわっ!」
玄関をあけるなり、クリスが泣きじゃくりながら胸の中に飛び込んできた。
「詳しい説明もしなかったのに、私の言葉を信じて頂けるなんて。は、はうう……」
クリスは、俺がなぜ元の世界からこちらに帰ってくることができたのか教えられないという。
「正直、知りたいけど、クリスが言いにくいなら仕方ないよ」
「あ、あの……。幼いころから、私の願いは伝説のシャーマン様と一生幸せに結ばれることでした」
「俺なんてしがないサラリーマンなんだけどな」
「私にとっては、かけがえのない伝説のシャーマン様です!」
そう言って俺の体に必死にしがみつくクリス。
理屈はともかく、俺の腕の中にある、どこまでも柔らかで温かい存在こそが全てのように思える。
「クリス。もう離さない。俺はお前を絶対一生、幸せにするからな」
「は、はうう……。ありがとうございま……っつ」
俺はちょっと強引にクリスに口づけしたのだった。
◆
そして翌年―――。
「クリス……」
「はい」
俺の前には、純白のウエディングドレスのクリス。
(その格好でホントにいいのか……)
何でドレスの胸元に、「2-B 佐藤」と書かれた大きな布が縫い付けられているんだ?!
俺としては、ツッコミどころ満載の晴れ姿なのだが、当の本人は幸せそうなので、あえて指摘しないでおこう。
「汝らはいついかなるときも、相手を愛し、敬い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか」
「「誓います」」
「では、誓いの口付けを」
恥ずかし気に、手を差し出すクリス。俺はアースガリアの古式にのっとり、片膝をついて、クリスの右手の甲にキスをした。
「これより、スズキ=クリスは、サトウ=クリスとして、新たな道を歩まれんことを」
◆
「おめでとう! サトウさん!」
「クリスちゃんお幸せに~♪」
大陸一の歴史と格式を持つ王都の大聖堂にて、俺とクリスは結婚式を挙げた。
各国首脳が臨席する中、もちろんメスカルやロゼ、ガイル、ガスパウロに侯爵、さらには国王まで出席してくれた。
そして、冒険者たちの中に混じってラビアンの姿もあった。
ちなみに、ラビアンはそばめしに使うソースや薬味が大量に欲しいそうだ。
「あれ?」
結婚式の後の披露宴はつつがなくすすんでいたのだが、途中からバックヤードが何だか慌ただしくなってきた。俺は新郎として、自分の席に大人しく座っていれば事足りると思っていたのだが、どうも雲行きが怪しい。
「さあ、サトウさん、こちらへどうぞ」
メスカルに呼ばれるまま席を立って舞台のそでに移動したのだが……。
そこには、見事な厨房がしつらえられており、袋ラーメンが山のように積まれていたのだった。
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