特別SS その3 ハートのオムそば❤
「お兄ちゃん、そばめし四人前」
「こちらは三人前です」
「キュイキュイ~♪」
そばめしを期間限定で売り出すとたちまち人気商品になった。しかし客の前で調理していては、とてもじゃないが他の注文がまわらない。
いくら【麺料理】スキルを持つ俺でも、これ以上の注文はさばけない。
しばらくそばめしの販売はやめようかと思っていたのだが……。
あれ?
「おい沙樹、そばめしの具って、冷蔵庫に入れてくれたよな」
「何言ってんの。昨日夕飯で使っちゃったじゃない」
「そうだったっけ?」
「もう、しっかりしてよね。それよりそばめし三人前の注文、どうすんのよ!」
しかし、そばめし用の具は一人前分しかない。
やむなくお客さんにはブレンドラーメンで我慢してもらい、別の料理をサービスして許してもらうことにした。
「お客様、お詫びとしてこちらを召し上がってもらえませんか」
俺の出した料理はオムそば。
そばめしや焼きそばで出すには少ない具ながら、卵でくるんだことで物足りなさを補っていると思うのだが、果たしてどうだろうか……。
たまりかねた一人が早速はしをつけると、薄い卵の皮がぷりっと割れて、香ばしいソースの香りと共に、中から焼きそばがあふれ出てきた。
「こりゃたまらん」
「俺たち逆にラッキーだったな」
「これメニューにならないかな」
冒険者たちは、ブレンドラーメンを食べたばかりだというのに、あっという間にオムそばをペロリと平らげた。
ただし、この後メニューにして欲しいと懇願されて大変だったのだが……。
◆
「お兄ちゃん、ちょっと来てよ」
「何だ朝っぱらから」
翌日、沙樹とクリスが朝からキッチンで何やらしている。
朝食を作ってくれているようだが、何やらやたら騒がしい。
「もうお兄ちゃん、何時まで寝てるのよ。これクリスちゃんがお兄ちゃんへって作ったんだよ」
「あの。私、あまり自信が無くて……」
「ケチャップで何度も何度も書き直したんだよね~っ」
「はい」
「ぶっ……」
お皿の上には薄焼き卵にくまれたオムそば。周囲はケチャップで大きなハートマークで囲われている。
そしてオムそばの上には……ぎこちない文字で、恥ずかしいことが書かれてあったのだった。
「よかったね。お兄ちゃん」
「あの、沙樹様。私は一体なんと書いたのでしょうか?」
小首をかしげるクリスの耳元に沙樹は口を寄せた。
「実はね……」
「……えっ、え?! ええ~ッ‼」
「沙樹、お前何てこと教えてんだ‼」
「はうう~っ」
クリスは真っ赤な顔で部屋まで走っていくと、内側から鍵をかけてそのまま籠ってしまった。
◆
「お兄ちゃんと一緒なんて絶対嫌‼ ここ私の部屋なんだから出てってよ‼」
「お前のせいでこうなってんだろうが。しかも元々俺の部屋だぞ」
「イーだ‼」
「お、おい……。沙樹。いや、沙樹さん?」
「ベーっ‼」
「……」
この日、部屋から閉め出された俺は沙樹からも拒絶され、ひとりリビングで夜を明かすことになってしまったのだった。
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