第18話 玄関あけたらサトウのごはん

 料理の値段は、日替わり軽食一人前400ギル。持ち帰り用の水は、標準的な水袋(およそ4リットル入り)を、満杯に満たして600ギル。


 これは、クリスの言う適正価格の三分の一程度なのだが、俺はそれでも申し訳ない気持ちになって、メスカルたちにサービスすることにした。


 何しろ記念すべき最初のお客様だということに加え、仲良くなって他の冒険者たちに宣伝してもらいたいという気持ちもある。


「え、これも付いているのか……安すぎるだろ!」


「……甘じょっぱくて、その上香ばしいです~♪」


「……!」


 俺は、実家から大量に送られた、『さ〇うの切餅』をオーブントースターで焼き、砂糖醤油をつけて振る舞うことにした。クリスにも好評だったし、この味は異世界でも十分通用するはず。


「サトウさん、この『キリモチ』ってのも絶品だが、いくら何でもこれもサービスなんて割に合わないだろう」


「そんなことないですよ。それよりウチの店を冒険者のみなさんに紹介していただければ助かります」


「お安い御用だ。任せとけって。……ところでロゼ」


 メスカルは餅を頬張ると、ロゼに声をかけた。


「う、うん……」


 ロゼは真っ赤な顔をしながら慌てて立ち上がると、俺に向かってペコリと頭を下げた。


「ううう……ごめんなさいサトウさん。こんな異世界の料理を出せる人は、シャーマン様に間違いないです。疑ってすみませんでした」


「いや、俺は大丈夫だから気にしないでね」


 俺は心の中で、「サラリーマンなのですが……」とツッコミつつ、ロゼに笑顔を向けた。


「まあ、サトウ様がああ言っておられるのです。今日の所は許してあげることにしましょう」


「は? 何よ、給仕のくせに偉そうに。あなたには関係のないことなんですけど~」


「な、何ですって!」


「ふん!」


「ロゼ、いい加減しないか!」


「だって……」


「クリスもそんな言い方したら、ロゼが怒るのも無理ないよ」


「ですが、ですが! サトウ様は普通にシャーマンをされておられますのに!」


 というか、俺は普通にサラリーマンをしていただけなのですが……。


「とにかく、色々と世話になった。これはお礼とお詫びだよ」


「メスカルそれは……」


「……」


 口を開きかけたロゼを、ガイルがそっと制した。


「これは一体?」


「俺たちも、タダで逃げ回っていた訳じゃねえってことよ」


 メスカルが取り出したのは、アースドラゴンの鱗。


 追いかけられながらも、スキを見て拾ってきたという。


「困ったことがあるなら、何でも言ってくれな!」


「ありがとうございます! お元気で!」



 ◆



 三人を見送るとすぐ、俺とクリスは、宅配ボックスにメスカルたちから貰ったドラゴンの鱗らしきものを入れてみた。


「「…………」」


 恐る恐るパソコン画面で確認すると、レベルが一気に5まで上がっていた。相当数のポイントが付いたはずだから、かなり高額な品なのだろう。


 これにより、一日当たりの使用金額が500円=500ギルとなり、宅配ボックスでの商品の購入が可能となった。


 食品のページを見ると、ありがたいことに、大手食品メーカーのものだけでなく、割安のPBプライベートブランド商品も充実している。


 食パン1斤(四枚切り)100円、卵1パック300円、カップラーメン……。


 いやいや、カップラーメンよりは絶対にこっちだな。


 袋ラーメン(しょうゆ味:5袋入り)200円。


 確か、行きつけのスーパーでは同じものが、198円で売られていた記憶がある。


 いわゆるPB商品なのだろう。


 何かこの前見たときと比べて若干値上がりしているような気がするのだが。


「クリス、これでいいかな」


「はい、サトウ様。といっても私には初めてのモノばかりでよくわからないのですが」


 そう言いながらも、力強く頷うなづくクリス。俺は袋ラーメン(しょうゆ味)の五袋パックを2つに食パンを選ぶと、商品にチェックを入れ、購入ボタンをクリック。


 そして、ドキドキしながら宅配ボックスを開くと……。



 注文の品が無事入っていた!



「わあ! 凄いです! 異世界から召喚されるところを、初めて見せていただきました! さすがシャーマン様です!」


 顔を紅潮させて飛び跳ねるクリス。召喚というより購入なのですが。


 そしてメスカルたちからの売り上げ銀貨三枚も宅配ボックスへ投入。首尾よく3,000ギルとして預けることが出来だ。



 ◆



「ドン、ドン、ドン!」


「うるさいなあ」


「お客様でしょうか」


「だといいけど……」


 次の日、俺とクリスは朝から、開店前の『洞窟亭』のドアを激しくノックする音で叩き起こされた。


「す、すまんな。また来たよ」


 寝ぼけ眼の俺とクリスの前に現れたのは、ドロドロに汚れたメスカルたちだった。

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