決めろ夏祭り

第29話 八月の始まり

 しばらくは先輩とLUINEでやり取りする日々だった。

 家の仕事の手伝いが忙しかったそうである。


 夏休みになってから、なつみ先輩の解像度が上がってしまったな……。

 謎の怪しい部長さんではなく、ちょいちょい苦学生系だった。


 助けてあげたい……!

 ……でも苦学生であのプロポーション凄いな!

 いや、結構いいものは食べてるのかも知れない。


 俺はデートの計画と予定の話を先輩と詰めるべく、彼女の家に向かうことにした。

 仕事は午前中で一区切りつくらしいし。


『ウキウキしているな? ナツミに会いに行くのだな』


「そうだそうだ。昨日ダミアンに手伝ってもらってデートの予定を立てただろ」


『うむ。これをナツミに送るだけの方が効率的だが……。メモリーの動きは効率化と対極にある! 実際に会いに行くのは素晴らしい決断だと言えよう!!』


「いつも力強い助言、助かる。では行くぞダミアン! ところで最近はこの辺りでも、ダミアンを探してる連中がいなくなったよな」


 出かける前に、冷蔵庫の麦茶を飲んでいく。

 母がリビングでテレビを流しっぱなしにし、これをBGMにノートパソコンをパカパカ打ち込んでいたが……。


『東京都、日の出町に出現したUFOから、大型の人型機械が出現しました。彼らは日本のポップミュージックを歌いながら接触してきており……』


「凄いことになってるなあ……」


 CG合成された画面みたいだ。

 あんなでかいUFOやロボが出てくるのか?

 ニュースなのかバラエティなのか、見分けがつかんな。

 あとあの音楽、この間俺達がカラオケで合唱したやつじゃん。


 こうして俺は、先輩の家に。

 一回送ってから、彼女の家までの道のりをネットで調べて何度も行き来するシミュレーションしたのだ。

 一歩間違えたらストーカーだな……!!


 外に出ると、八月はやはり素晴らしい陽気だ。

 あまりに暑くて、外を歩いている人の数が少ない。

 不要不急の外出は避けろというやつだ。


 俺のこれは不要不急ではないので問題ない。

 先輩との時間は一分一秒が大切だからな。


 電車に揺られて、到着。 

 サッと向かったら、ちょうど事務所から先輩が出てきたところだった。


 長い髪を束ねてポニーテールにしていて、眼鏡は横に花がら付き。

 何本メガネ持ってるんだこの人。

 上着は仕事用なのか、半袖のシャツ。下から凄いものが布地を盛り上げているな。

 下は作業服だった。


 彼女はすぐに俺に気付いて、表情を輝かせたように見えた。


「迎田くん! 思ったよりも早いな! ちょうど昼食にするところなんだ。一緒に食べて行ってくれ!」


「うす! ごちそうになります!」


 いきなり先輩の家にお邪魔しちゃうのかあ。

 ニヤニヤしていると、なつみ先輩は事務所に声を掛けた。


「じゃあパパ……じゃない、お父さん、私、お昼してくるから! あ、彼はこの間お話した迎田春希くん! 私のかわいい後輩で……」


「おう」


 事務所の奥にでかい人がいるな……!

 俺をジロっと見た。

 会釈しておこう。


「こんちは!! はじめまして! 迎田春希です!」


「おう!」


 なんかちょっと返事が元気になった。 

 第一印象◯だな……!


『ハルキ、見事な初手だ! 大変ポジティブなメモリーエネルギーが流れてきているぞ。しかし、相変わらずいいところだ。重ねられた良質なエネルギーがあるな』


「あっ、迎田くんじゃん! おーっす! お嬢と今日はデートすんの? 違うの?」


 この間の浅木さんだ。

 先輩の会社の二人しかいない社員の一人で、俺となつみ先輩が完全にカップルになっていると思っているのだ。

 そうやって外堀を埋めていっていただけると嬉しい……!!


 先輩が「もーっ! 浅木さん!」とか言って恥ずかしがっててとてもかわいい。


 会社の二階が先輩の家だ。

 で、そこで先輩のお母さんがいて、「あらあらまあまあまあまあ! なつみが男の子を連れてくるなんて! 浅木くんが言ってたのは本当だったのね! じゃあ冷やし中華だけど食べてく? 男の子だからたっぷり食べるわよね?」なんて言いながら、鼻歌交じりに麺を大量に茹で始めた。


「マ……じゃなくて、お母さん! んもう……。ごめんね、気にしないでね」


「いやいや、大丈夫ですむしろ嬉しいです!」


「爽やかな子じゃない! いいわねえ……ママ、こういう子大好きだわ。パパもこういう子好きなのよね」


 よしよしよしよし!!

 テーブルの下でガッツポーズを決める俺なのだった。


 その後、冷やし中華をいただきながらこれまでデート……いや、部活動の話をした。

 先輩が最初に夏休みに色々やろうと企画したのだが、これを聞いて先輩のお母さんは「うんうん、やっぱり女がガツンと一発決めると男はどんどんアプローチしてくるようになるのよ。お父さんもそうだった」とか言うのだ。

 母親直伝だった……!?


 確かにあれで、俺の覚悟が決まったところはある。

 数々のデートの話題で、先輩母は大いに盛り上がった。

 先輩はたいへん恥ずかしそうに、真っ赤になって話を聞いているのだった。


 昼食が終わり、彼女は俺の手を引っ張って部屋まで連れて行く。

 な、なんという力強いリード!!


「あー、死ぬかと思った。恥ずかしすぎる……!!」


「お母様お喜びでしたね……!」


「まあねえ……。私はずっと奥手だったのが、意を決して動いたっていうのが嬉しかったんだと思うけど……それにしたって恥ずかしい! 泳げない話とか、ペンギンとモルモットのエサやりとか!」


「では今度は話題を選びます……! で、ですね。新しいデートの企画が」


「部活動!」


「部活動の計画がですね。送った通りの資料なんですけど、映画見て感想の話をして、で翌日の夏祭りに……」


「夏祭り……。ちょ、ちょうど叔母のお下がりの浴衣があるんだ」


「なんと……!?」


「叔母が幸せ太りをしてしまって着れなくなったので、背丈が同じくらいの私に……」


 先輩母は普通くらいのサイズだったけど、その妹さんはでかいらしい。

 なつみ先輩の背丈はご両親の遺伝だったのか……。


「じゃあ、決まりでいいですか」


「いいも何も。楽しみにしてるからね」


「任せてください!」


 ユタカに提供された情報だけではない。 

 映画チョイスにコース選び、ここが俺の腕の見せ所なのだ。


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