第40話 プレデターを飼い慣らせ

 花咲を呼び、今後の方針について話した。

 地元の例の喫茶店である。


「なんかさ、ここ、めちゃくちゃ古そうだけどさ」


「おう」


 花咲が例の喫茶店を眺めてしみじみと呟く。


「俺らが中学の頃は無かったよな?」


「ああ。正確には俺達が中学二年になった時にできた。二年目だ」


「こんな古そうなのに!? あ、マジだ。壁はそういうふうに塗ってるだけじゃん!! ちょっとコインでこすったら下からピカピカの壁が出てきたぜ!」


「コインで削るなよーかわいそうだろ!」


 二人で喫茶店に入る。

 ちょっとだけ客が増えてるらしく、おっさんがカウンターで新聞を読みながらコーヒーを飲んでる。

 マスターはコーヒーカップを拭くのに飽きたらしく、水出しアイスコーヒーの機械に寄りかかって小説を読んでいた。

 それ、寄りかかっていいの!?


「おや、いらっしゃい」


 慌てて立ち上がってダンディな声を出す。

 あんたがダンディではないことをしっかり見てしまったぞ。


 さて、俺は先輩の真似をしてアイスコーヒー、花咲はコーラフロートを頼んだ。

 俺みたいな趣味をしてる男だな。


「よくアイスコーヒーなんか飲むよな? 苦くね?」


「ガムシロ入れまくるからセーフ」


「最初からコーラにすればいいじゃん」


「そうかも知れないが……最近付き合った女性がアイスコーヒーというかカフェイン入り飲料全般が好きでさ」


「おおー! ハル、お前ついに彼女作ったのか! 今度俺にも紹介しろよ!」


「花咲に紹介したらお前、ろくでもないことになるだろ!? 絶対にやらねえ。手を出したら俺が刺し違えてでもお前を倒す……」


「ハルは冗談言ってる気がしねえからなあ……。お前の目が黒いうちは手出ししないよ。逆を言えば、美来ちゃんは取っちまっても構わないんだろ?」


「ああ。あいつはマッシュルーム野郎の彼女になっちまったからな……。もう他人だ……」


 俺は遠い目をする。

 花咲は「よしよしよし! やるぞやるぞ!」なんて気合を入れている。


「ずっと狙ってたんだよな。ハルとやり合うと潰し合いになるだろ? 洒落にならねえじゃん。俺は別の女でも一応はいいわけだし」


「ああ。だけど美来が好きなんだろ?」


「そういうことよ。小学校の頃から好きだったからな。じゃ、俺が未来ちゃんをそのマッシュルーム野郎から取ればいいんだな?」


「頼むぞ……! もちろん、やつは抵抗してくるだろう。戦いになるとは思うけど、あいつは俺の脅しに屈して逃げた程度にはチキンだ」


「ハルは死物狂いになった自分の強さを自覚しろ」


「何を言ってるんだ花咲……」


 あまーくしたアイスコーヒーを飲む。


「で、ユタカと二股しても構わないんだが」


「勘弁してよ。あの娘は二股無理だって。エネルギッシュ過ぎる。俺が相手してた女子の中でもダントツでパワフルなんだよ。未来ちゃんと同時進行は無理だ」


「そうか……。マッシュは花咲に任せられても、ユタカは俺が対処しないといけないわけだな……」


 あのプレデターにどう対抗していくか。

 頭の痛い問題になりそうだ。


「とりあえずさ、そのマッシュってやつのこと教えてよ。敵のこと知っといた方が未来ちゃん落とすにもいいじゃん?」


「ああ。それに関してはダミアンに頼もうと思う。おいダミアン」


『ダミアンだ』


 バスケットボールロボが俺の膝の上に登ってきたので、花咲が仰天してひっくり返りかけた。


「うおおおっ! な、なんだそいつ……!!」


「俺の心強い相棒でな。彼のお陰で俺はなつみさんと付き合うことができたようなものだ。美来からのショッキングなNTR動画も切り抜けられた」


「なるほどな……。ハルにとっての大事なツレってことか。そんなやつの意見なら聞かなきゃいけないよな」


 花咲が居住まいを正した。

 こいつはなんだかんだで、男相手には筋を通す主義なのだ。

 女に対しては……。

 まあ、チャラい。


『マッシュルームのメモリーを共有しよう。今からメモリーを送り込む』


「なんだって!? うおおお、俺の中に存在しない記憶が流れ込んでくる……!!」


「ダミアンそんな事ができたのか」


『ある程度の量のメモリーなら、奪ったり付け足したりが可能だぞ。ただしやりすぎるとエネルギーが枯渇する。特にこの、メモリーエネルギーが極端に乏しいキッサテンでは自殺行為だ……』


 そうか、本当にメモリーがすっからかんなんだな、この喫茶店。

 ある意味すごい。


 花咲はしばらく、ダミアンからメモリー光線を食らってウグワーッと言っていたが、やがて目を見開いた。


「よく分かったぜ。さすがはハルの信頼するツレだな。マッシュルームがどれだけ難敵か理解できた」


 花咲曰く、マッシュルームはいわゆる今風のチャラ男らしい。

 花咲は一世代前のタイプなのだが、肌を焼いて体を鍛え、スポーティであることは女子を口説くためには王道なのだそうである。


「いいかハル。俺のスタイルはオールドスタイルじゃない。王道なんだ。スタンダード化してるんだよ。マッシュは現代に適応してるが、そいつは戦闘力を捨てなければならない。男同士のやり取りでは致命的だ」


「おお、勝機があるか花咲!」


「任せろ。未来ちゃんをあんな女を殴りそうなヤツに預けるわけにはいかねえ」


 花咲は女子を殴らないタイプなのか?

 ケロッとして、「しつけのためには殴るだろ」とか言いそうだぞ。

 いや、言うな。

 俺はこいつを幼い頃からよく知っている。


 この男、付き合いやすいがけっして善人ではないのだ……!!

 つまり、悪のマッシュには悪のチャラ男をぶつけて相殺する作戦にはもってこいということだ。


 頼むぞ花咲。

 俺は俺で、ユタカに対抗する手段を考える……!


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