侵略ロボは天に還るか
第39話 攻勢を退けよ
両親に進捗を報告すると、母が超ハイテンションになって快哉を叫び、帰ってきていた父も珍しく満面に笑顔になった。
「そうか……。春希ももうそんな年なんだな……。俺の知らない間に大人になって」
「去年からずっと美来とのことも言ってた気がするんだが」
「お父さん自分の常識が揺らがない人だから、決定打が来るまで認めてくれないんだよね」
ほんとにね!
俺が正式に告白し、なつみさんと恋人同士になったからこそ父の現実はついに改変されたということだ。
まるでフラグが立たないと会話可能にならないゲームキャラみたいだな。
母親、きっとこの人と接していてどんどんフラグを立てるのが楽しくて最終的に結婚しただろ。
まあ気持ちは分かる。
父はニュースを見ながら、「へえ、停戦したんだって。良かったなあ。だけど宇宙人とか馬鹿にしてる事を言ってるな。ニュースはいつからバラエティ化したんだ」とかぼやいている。
そしてアルコール度数の低めなサワーなどを呑んでいるのである。
「じゃあ俺、気持ちを落ち着けて寝るので」
「おやすみ~! 私とお父さんはこれから酒盛りだよー! 明日休みだし!」
ああそうか、今日は土曜日だったのか。
父は休日出勤していたらしい。
両親は今宵、俺の告白成功を酒の肴に大いに盛り上がるんだろう。
ちょっと恥ずかしいが、まあいいんじゃないか。
さて、風呂に入り、先輩のことを思い出す。
今日の彼女はめちゃくちゃ可愛かった。
そして綺麗だった。
絶対に手放さないぞ。
そして守り切るのだ。
さて、俺が今後気をつけるべきなところは……。
『関係性が完成した以上、気をつけるべきはハルキの方だろうな』
「そうなるか」
『この惑星に侵入した他ユニットにも、ハルキのような理解者を得て人間の生態を観察している者がいる。彼の報告によると、人間は価値が保証された人間にこそ多く集まるようだ。先々の事を予測して未知数の相手に投資する者は極めて少ない』
「なるほど……。そいつがつまり、ユタカみたいに品質保証された相手にしかアプローチしないやつというわけだな……」
『そうなる。これは人間の本質的な特性の一つだろう。逆に、男である場合は先日のハナサキのようにある程度の価値が担保されている相手に片っ端からアプローチする個体も出てくる。アプローチによって発生するリスクを、回数を重ねることで低減させるスタイルだ。あれは強いぞ』
「花咲のあれも意味があったんだな。そして今後、俺は花咲に頼らねばならんシーンが増えそうだ。ユタカとの接触には必ず花咲の同行を願うとしよう。逆に、あいつをなつみさんに会わせてはいけない。危険なプレデターは然るべき時に解き放ち、常に手綱を握らねばならないのだ」
『的確な判断だ! ハルキがさらに経験を積んだなら、我らが軍に迎え入れたいくらいだ』
就職先決まっちゃうか?
いや、謎の侵略ロボのところに就職はちょっとどうなんだろう。
そんな風に、あまりリラックスしない風呂でゆっくり過ごしたのである。
「あっ、先輩からLUINE来てるじゃん!! おやすみ、また遊びに行こうだってさ! そうだな、俺たちはもう部活動なんて偽装を口にしなくて良くなったんだ! これからは堂々と大手を振ってデートだぜ! 日本一有名な遊園地行こう! ……いや、今の軍資金だとちょうどキャンプでカラになるな……。バイトが必要だ」
新しい問題が次から次に湧いてくる。
だが、これはとても楽しい問題だった。
何をやっても前進することが明らかになってる問題だもんな。
「おやすみ、なつみさん、と。これはあれか? お休みのチュウでも送ったほうが……?」
ここで俺、ハッと気づく。
キャンプでより進展した仲になることを構想していたが、よくよく考えると俺となつみさん、手を繋いだだけでまだキスまで進んでないじゃないか。
これは……次にたどり着くべき場所はキスだ。
キスするしかない。
「いかにしてなつみさんとキスをするか……。ロマンチックなデートが課題だな。いや、次のキャンプでキスまで行ってもいいだろう。だが、キャンプ場でもユタカの襲撃やマッシュがやって来ることを警戒せねばな……」
なつみさんにはマッシュの魔の手が。
俺にはユタカの誘惑が来ると考えていいのではないか。
「格というものを分からせてやった気はするが、マッシュのような小物はそれを屈辱に感じて再び襲ってくる気もする」
何しろ今朝のことである。
そろそろマッシュルームに対処せねばならないのではないか。
「ダミアン、なつみ先輩のことだけを選択肢てメモリーを吸い取ることはできるか?」
『ちょっと難しいな。メモリーがぶつ切りになるとマッシュルームは機能不全を起こす可能性が高い』
「なるほど……。じゃあダメだな。幾ら邪悪なマッシュルームとは言え、廃人にするのはやり過ぎだ」
『ハルキ、君の持っているモラルは素晴らしい。ダミアンの力を欲望任せに使おうと思えば幾らでもできただろう。そして、もしも君がそうしたならば人間はダミアンたちからメモリーの価値なしと判断される。君は今そうしているだけで、人間たちを救っているのだ』
「なんかスケールのでかいことを言い始めたなあ。大げさすぎだろ……」
そんなことより、いかにしてなつみさんを守り、そしてなつみさんの唇を奪うかだ。
「美来に絡めて、花咲をマッシュにぶつけるか……!? いいな。それもいけそうだ。花咲に話を通しておくか……」
『ハルキ、君のモラルが揺らいでいるぞ。時折君は冷徹な戦略家になる……!』
ダミアンからの俺への評価が揺らいでるなあ……!
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