第38話 新たな戦いが始まる

 花火が終わるとともに、屋台も終わりになる。

 あまり遅い時間まで残っているとミクダリ様に連れて行かれるという伝承もあるので、俺たちは帰宅することにした。

 連れて行かれるってなんだ。本当に祀ってるのは神様なのか。


「て、手を繋いでいかないか?」


「いいですね、やりましょう!!」


 なつみさんからのイカした提案により、駅までの道を手を繋いで移動した。

 おお、なんというリア充ムーブだろうか!


 否!

 俺は今、まさにリア充なのだ!!


 蒸し暑い夏に、手を繋いでいると正直暑い。

 だが、この暑さは大変心地よい暑さだった。


 俺一人ではたどり着けなかった暑さである。

 ダミアンが背中を押してくれて、さらになつみさんが自分から歩み寄ってくれた。

 彼女のが二人きりでの部活動の提案をしてくれなかったら、今日の俺たちの姿は無かったことであろう。


 何もかも繋がっているのだ……。


『ふうー、もうメモリーは当分吸収しなくていい……。はち切れそうだ』


 ダミアンがお腹いっぱいになっている。

 沢山の人達のメモリーを、ほんのちょっぴりずつ頂いていたらしい。

 だがその数も数だ。

 ダミアンのバスケットボールボディはメモリーでパンパンであろう。


 電車の中は、大量のリア充で満ちていた。

 田舎の電車だから本数が少ない。

 だから同じ電車に、夏祭りのリア充たちが大量になだれ込むことになるのだ。


 今までは大変ウザく感じていただろう。

 去年は美来との将来の姿を見ている気がして、笑っていられた。

 今年はなつみさんと、リア充の仲間入りをして穏やかな心でいられる。


 俺は日々成長しているのだ……。


「電車の中、涼しい~」


「ですねえー。俺もう、汗びっしょりで」


「私も……。浴衣がぺったり張り付いちゃってる。あー、もう早く帯をほどきたい! でも浴衣の下は下着の線が出ないタイプの際どい下着だから」


「なんですって」


『ウグワーッ! 満腹だと言うのにハルキのメモリーが跳ね上がる!』


 すまんなダミアン。

 だが男には聞き捨てならん言葉というものがあるのだ。


 下着の線が出ない下着!?

 それはつまり……。


「ひ、紐みたいな下着をつけているんだ」


 先輩が正直に応えてくれて、俺の元気さんがめちゃくちゃ元気になった。

 甚兵衛というのはゆったりしているから、元気さんを隠してくれて本当にいいな!!


「先輩……何気に露出度の大きな衣類を身につけることが多いですよね? 海とか……」


「お、叔母のお下がりなんだ! 叔母がとにかく派手好きで……露出好きで……。でも結婚して露出しなくなったのでそれが全部、背丈が同じくらいの私に来たんだ」


 あまり使ってないし、品質の良いものだということで大切に使わせてもらっているらしい。

 なつみさんには大変にあっているので、結構なことではないだろうか。

 いつか見せて欲しい……。


 例えば今度のキャンプの時とか!

 そうだ!

 キャンプだよ!


「なつみさん、今度なんですけど」


「あっはい! あの、一泊の……」


「どうです」


「つ、付き合ってもいない男女が一泊なんてふしだらな……。だけど、私たちはもう付き合ってしまった。これはつまり、一泊してもいいということでは……?」


「そういうことになってしまいますね……!! 実は退路を断つためにもう予約してあるんですが」


「もう!?」


 なつみさんが繋いでない方の手をせわしなく動かした。


「に、逃げる理由がない。うん、私も女だ。二言はない」


「女性は結構二言がある印象ですけど」


「私はない! だから割と友達からも浮いていたりする……」


「ははは。……えっ!? では、こう、めくるめく一泊キャンプ旅行にお付き合いいただけると!!」


「変な枕詞つけない! お付き合いするので、ちゃんとこう、怖くないようにリードをすること」


「はっ、必死にやり方を調べて頑張ります!!」


「そうなる保証は無いでしょ!? 早い早い早い! 気が早すぎる……!」


「えっ、じゃあなつみさん的にはもうちょっとゆっくり進んだほうが……?」


「そう。いきなりそういう関係になると、常にそういう選択肢が入ってくるようになるでしょ。ネットで調べたら男子とはそういうものだと書いてあったんだ。売り渋るつもりはないんだが……、もっとこう、若さの情熱に流されてしまうのではなく熟慮を重ねて……」


「カッとなったらすみません!! 今から謝っておきます!」


「欲望に負ける前提!!」


 俺は自分の欲求に勝てる気がしない。

 なので、できる限りの準備はしていこうと思う。


 まず!

 俺の元気さんのサイズを性格に把握し、これをカバーできるサイズのゴムをだな……。


「ついた」


 なつみさんが呟いたので、未来予想図を描く作業は中断となった。

 彼女を家まで送っていく。


 ご両親が出てきて、俺たちの様子と距離感を見て、うんうんと頷く。

 なつみ父、ちょっと複雑そうだったな。

 娘に彼氏ができたんだもんなあ。


 この人を前にするとあれだな!

 一泊旅行で下手になつみさんに手を出すのはあれだな!

 身の危険だな!


 きちんと責任を取りますと念書を書いてからにしようか……。

 俺はちょっと逃げに入る感じのことを考えてしまうのだった。


 攻め攻めで来たが、そろそろ守りに入ってもいいんじゃないか。

 ここからは関係を維持していくことになるわけだしな……。


 俺はそんなことを考えながら、祐天寺家にお休みなさいを告げて帰宅することにした。

 少しして、ユタカからLUINEに連絡があったことに気付いた。

 これは……花火が終わってすぐのことだな。


『告白した? イケたでしょ! おめでとう、新カップル成立!』


「ありがとう、これで俺もリア充の仲間入りだよ、と」


 電車の中で返答を送る。

 すると……。

 目を輝かせるアニメキャラのスタンプが送られてきた。


『機は熟した!! じゃあ、狙うね! 絶対に落とす!』


「やべえ!! こいつ本気だったのか!!」


 俺の背筋が一気に寒くなった。

 ここから新しい戦いが……防衛戦が始まってしまうぞ……!!



 

 

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