第37話 こんな告白で良かったのか!?

 うーん。

 俺も先輩も無言である。


 階段に腰掛けて、もぐもぐと屋台飯を食いながら告白し、屋台飯を食いながらOKされてしまったが……。

 これが……これがダミアンに誓った告白の姿か……?


「いやいや、結果良ければ全てよし……」


 俺は自分に言い聞かせた。

 先輩もしばらく、牛肉串をもぐもぐしながら考えていたようだ。


「迎田くん……。い、いや。春希くん」


「あっはい! なつみ先輩……いや、なつみさん!」


「なつみさん……」


 おっおっ、明かりに照らされて、先輩の頬が真っ赤になっているのが分かるぞ。

 名前呼びに慣れていないと見える。

 大変可愛い。


「あ、あのね。やっぱりさっきの告白、あれはちょっとナシ……」


「ええええええっ!?」


 ぜ、絶望ーっ!!


「いやいや、そういうわけじゃなくて! あのね、答えはOKです! もうもう、お付き合いしちゃう! 私も君のこと好きになってるし、告白されてとても嬉しかったし、絶対今夜は眠れないし、でも、でもね、その告白が牛串食べながら受けるのは無いと思うの……!」


 わたわたしながら、いつも先輩と違う女の子女の子した口調なのだ。

 これが彼女の素なんだろう。

 おお、もしかして俺だけが彼女の素を知っていたり……?


 大変嬉しい。

 それに、言いたいことはつまり、告白のシチュエーションのやり直しを求めるというもので……。


「じゃあ腹ごしらえしたら、ちょっといい感じのところを探しましょうか……」


「うん、そうしようそうしよう」


 手にした屋台飯をもりもりと平らげて、俺たちは階段から立ち上がった。

 おお、ハンカチに先輩のお尻の形がついている……。


 そっと大切にリュックにしまう。


『むおお』


「うおお!?」


 リュックから洋画の吹き替え声優のような渋い声が聞こえたんだが。

 あ、ダミアン!

 もしや目覚めたのか!!


『ぐおおお……全軍侵攻開始……当惑星でのメモリー監視はその価値なしと判断しメモリーバッテリー化処理の決行を……』


 なんかブツブツ言ってるな。


「おいダミアン。ダミアン!」


 ぺちぺちぺちぺち叩いた。


「ダミアンが元気になったのか? ダミアーン!」


 なつみさんも寄ってきて、ダミアンをぺちぺち叩いた。


『ウグワーッ』


 ダミアンがいつもの悲鳴をあげる。


『はっ! ハ、ハルキ! ダミアンは目覚めたのか。ということはワームホール形成から既に12時間が経過したということか……?』


「いや、10時間くらいだ。思ったより早かったぞ」


『なんと! まるで上質なメモリーエネルギーの奔流の只中にいたかのような回復速度だ。何かあったのか? むむっ、ナツミもいるではないか。その装備は普段とは大きく異なる……メモリーのゆらぎがあり、ハルキにも同じゆらぎが……同じゆらぎ!?』


 ダミアンがリュックからスポポーンと飛び出した。

 そして俺たちの足元を、コロコロ回る。


『やったのかハルキ! ついにやり遂げたのかハルキー!!』


「ああ、そうだ。これからもう一回やり直しをするが、告白をして先輩と彼氏彼女の関係になったぞ!!」


『おおおーっ!!』


 ぴょんぴょん跳ね回るダミアン。

 大いに喜んでもらえて本当に嬉しい。

 とりあえず、自ら動き回るバスケットボールがいると怪しまれるので、俺はこいつを抱えた。


 階段を上がっていく。

 ミクダリ様のお社がこの先にはある。

 ここはちょうど、これから打ち上がる花火が見やすいスポットになる。


 境内にはそれらしいカップルがたくさんいる。

 みんなそれぞれ譲り合って場所を取っているようだな。

 俺たちはちょっと出遅れたので、境内の隅っこくらいに陣取ることになった。


「では、花火が打ち上がったあたりで告白を……」


「ああ。それで行こう」


『既に二人のメモリーは通い合っているのに、また同じ儀式を行うのか? それはこの惑星のならわしなのだろうか』


「そんなものだ……」


「うう、ごめんね」


「なつみさんが可愛いのでOKです」


「うううう、面と向かって可愛いと言われるのはかなり……恥ずかしい……」


 あまりに可愛くて笑っちゃうな。

 ニコニコする俺たちの横で、ヒューッと何かが打ち上がっていく音がした。


 何か?

 知れたことである。

 花火だ。


 パーンッ! と音がして花火が弾け、少ししてからドドドド、と低音がやって来た。


『砲撃か!?』


「花火だよ。見てみろ。この星では、おめでたいことがあるとああやって色とりどりに弾ける花火っていうのを打ち上げて祝うんだ」


『なるほど、確かにあれにはそこまでの破壊力はない。そして威力が無いものをあれほど広げ、色とりどりにする意味は見栄え以外にはあるまいしな。戦闘に使うものと考えればムダだ。だが、あのムダは……良いものだな』


 ダミアンの目がピカピカと輝いた。


『友軍に告げる。ハルキとナツミのメモリーは同調した。メモリー監視任務において、価値アリと判断。当機、ダミアン01が通達する。全機、視覚を共有せよ』


 俺たちの背後で、スマホを見ていた男が「うわあ」とか叫んでいる。


「戦争だって! 宇宙人と戦争が始まったらしい!」


「ええ……!? それってつまり、どうなるの……!?」


「あ、え? 宇宙人がいきなり攻撃を止めたって。どういうことだ……?」


 花火だって言うのにスマホか!

 感心しないなあ。


 打ち上がる花火が、俺と先輩とダミアンを照らし出す。


 俺はこのバスケットボールロボを小脇に抱えてから、なつみさんに向き直った。


「なつみさん、改めて言います」


「は、はい!」


「俺の恋人になってください!!」


「はい……喜んで……!!」


 なつみさんはそれだけ答えると、俺をぎゅーっと抱きしめてきた。

 うおおーっ!!

 頭を抱きかかえられるような姿勢になって、全身をなつみさんの匂いが包み込む。


 俺もどうにか手を伸ばし、彼女を抱き返した。


『全機に告ぐ。感覚の共有を選択せよ。メモリーの同調を体感せよ。ダミアン01、任務を今遂行せり。抱いた! 抱いた! 抱いたー!』


 花火の音にもかき消されぬダミアンの声だったが、まあ今回は許してやろう。


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