第36話 今だ行け、俺よ
夏祭りは凄まじい賑わいだ。
それは当然だと思う。
この辺りには他に娯楽が無いからな。
他の町の商店街の人々も、今日はここで屋台や出店をやる。
昔はテキ屋が多かったらしいが、今じゃゼロだ。
周辺の町の商店街の一団が、それぞれの縄張りで店を出して祭りの賑わいに一役を買っている。
たくさんの見せが立ち並び、目移りしてしまいそうだ……!!
「先輩、どうします? どこから行きます? 迷うようなら俺がイカ焼きからスタートを決めますけど」
「いきなりお腹にドシンと来るのはどうだろうな。私は帯を緩めてお腹に物を入れる技を体得しているが……軽いものからやっていこう。ここはクレバーに立ち回るぞ、迎田くん!!」
「了解です! これもまた部活動なんですね!」
「あ、そ、そうだぞ!」
もしや童心に帰ってめちゃくちゃ楽しんでいただけか……!?
かわいい。
ダミアンが起きていたら、何かしら身も蓋もないツッコミをしていたことだろう。
だが、俺は決めたのだ。
こいつが起きる前に勝負を決めねばならない。
そのために、機会を伺い、非常にロマンチックな場所を探して……。
「あっ先輩、ヨーヨー掬いが……」
「やるぞ、迎田くん! 物理部の理論的思考によってヨーヨーなど簡単に釣り上げられるのだというところを証明してやろう!」
「あっはい! 浴衣なのに先輩走るの早いですねえ」
だが、眼の前で浴衣美人がぱたぱた走り回るのは、これはこれでいいものだ。
眼福眼福……。
そして二人でヨーヨー掬いに挑み、大変脆いポイにぶうぶう言いながらどうにか一個だけゲットしたのだった。
先輩は嬉しそうに、ヨーヨー……その実、水入りゴム風船を指にぶら下げてポンポン叩いている。
夏祭り……。
ちょっと背伸びしている女子高生も童心に返ってしまうな……。
大変よい。
金魚すくいは生き物を飼うキャパシティが辛いということで見送り。
二人で型抜きをやり、俺が思いもよらぬ型抜きの才能を見せて、不可能と言われた型をクリア。
見事大型景品のモデルカーを得た。
モデルカー……!?
これから告白しようってのにこんなでかいもんぶら下げて歩くのか!?
「いやあ、兄ちゃん流石だぜ。このモデルカーはな、昭和モデルの復刻版で二万くらいするやつなんだ。パッケージが壊れて売れなくなってよ。だがディスカウントに流すのもなんだかなと思って景品にしててな……」
どうやら型抜き屋は一つとなりの町の模型屋の親父だったらしい。
そんな愛着あるモデルカーならもらっておかねばなるまい。
ダミアンもさぞや喜ぶことだろう。
「大事にします」
「大事にしてくれ」
ということで、大きな荷物を持って歩き回ることになったのだった。
「君は凄いな、迎田くん……!!」
「いえ、俺なんか型抜きが上手くてNTRセンサーが発達してるだけのただの若造ですよ……!」
「ううん。君はとても凄い男に見える。もっと謙遜しないで誇るべきだ。それに、その方が私も嬉しいし」
むむっ!!
先輩からデレの気配を感じる。
これは……。
チャンスなのでは……!?
「先輩、食べ物を買いましょう。そして腰を落ち着けて食いましょう」
俺はモデルカーをダミアンの入ったリュックに押し込むと、先輩の手を引いて出店を回る。
りんご飴、牛肉串、ラムネ、フランクフルト、お好み焼きを購入。
「串に刺さったものが多いな……。私の手が串で埋まってしまった」
「面積を取らないので……。ああ、畜生、人の姿がなさそうなところにはカップルが漏れなく陣取ってやがる!!」
出店の影とか、裏道とか、石段脇とか。
ロマンチックでそれっぽい場所は全部! 全部他の奴らに取られているではないか!
なんということだ!
これではロマンあふれる告白などできようはずもない。
いや、こんなに食べ物を買って告白をするつもりか俺は?
どこかに腰を落ち着けて食べましょうという体で、先輩を人混みから連れ出したのだが……。
「階段に座っている人たちがいるな。私たちも座ろう」
「そうしますか……」
俺たちはあまりロマンチックなことにはなれないらしい。
まあいいか。
俺たちらしい気がする……。
俺はリュックをドスンと地面に置き、そこからサッとハンカチを取り出し敷いた。
「先輩どうぞ!!」
「あっ、ありがとう。なんだかこう、映像作品に出てくる光景みたいだな……。階段にハンカチを敷いてもらって座るなんて」
「こういうこともあるかと思って用意してきたんですよ。こういう工夫は男らしくないかと思ったんですが、備えておくものですね……」
「いやいや、とっても男らしいよ。こうやってもらうの、なんか大事にされている感が凄くて嬉しいかも」
なんていい笑顔をするんだ先輩。
つまり、俺の保険は間違ってなかったってことだな……。
いいじゃないか、保険。
イマイチ決まらないのが俺らしいのかも知れない。
では、いつ、どこで告白する……!?
横では先輩が牛肉串をもりもり食べ始めた。
流石だ。
躊躇なく肉から行く。
「先輩肉好きですよね」
「ふぉあ」
なんかもぐもぐしながら答えてきた。
食べてからでいいですよ!
「いやあ、美味しそうに肉を食べる先輩、俺は好きだなあ」
なんかぶつぶつ言いながら、俺はお好み焼きをガツガツ食べた。
おや?
隣の咀嚼音が止まったような。
「…………!!」
無言の圧を感じる。
ふと横を見たら、先輩が赤い顔して俺をみていた。
「す、す、好きって……」
「あ、それは」
言葉の綾で……と言おうとして、俺は我に返った。
言葉の綾じゃねえじゃん!!
それを言おうとして、今日は夏祭りに来たんじゃないか!
俺はお好み焼きをむしゃむしゃ食い、コーラを飲んで無理やり飲み下してから口元を拭くのももどかしく、先輩に向き直った。
「そうです!! 俺は先輩が好きです!! 彼女になってください先輩!!」
「ふぁあっ」
待ち時間の間に、また牛肉串を頬張っていた先輩が、不思議な声をあげた。
彼女ももぐもぐと口の中のものを噛む。
牛肉だけあって、なかなか飲み下せない。
先輩、仕草だけでコクコクと頷いてみせた。
これはつまり……。
「オーケーということですね」
押せ!
ネガティブな解釈をするな、俺よ!!
ようやく牛肉を飲み下した先輩は、「は、はい! 清く正しいお付き合いをしていきましょう」と、なんか堅いお返事をしてくるのだった。
我が本懐……叶えたり……!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます