第30話 本日の映画は

 当日になった。

 夏休み、本当に恐ろしい速度で過ぎていくな……。

 先輩との綿密な打ち合わせの後、今日見る映画は決まった。


 リバイバル上映で、ロケットを打ち上げる科学者チームの話だ。

 まあ物理部だしこれがいいだろ、ということで決まった。


 俺も先輩も、そこまで映画に期待はしていない。

 なんならよくある恋愛映画なんかでも良かったんだが、先輩が「ちょっとそれは恥ずかしい気がする」と仰ったので、硬派な映画にしたのだった。


 ま、ポップコーンでも食べながら映画を見て、飯を食いながら感想を言い合い、本番である明日の夏祭りに合わせる……。

 そんな気持ちだった。

 なので映画について予習も何もしていない!


 事故ったら事故ったで話題になるだろ、というくらいの感じだった。


 余裕を持って行ったので、ポップコーンもキングサイズをばっちり買えた。

 フードを買う時に「カップルセットで……」と言うのが何気に特別感を覚える……。

 すぐ横に先輩もいるのだが、ちょっともじもじして左右に動いているのが見える。

 大変かわいい。


 なお、チケットもペア割だ。

 これを見た先輩は、本日の始まり頃にやっぱりもじもじした。

 いいぞいいぞ、先輩のガードが下がっている。

 もともと相当装甲は薄かった気がするけど。


「では行こう。流石に混んで……混んでないな」


「恋愛映画や話題作じゃないですからね」


「だから狙い目と」


「ええ。俺ら、あんまり人混み得意じゃないでしょ」


「確かに……」


 夏の昼間、学生たちが暇しているであろう時なのに、割と空いているリバイバル上映。

 真ん中の席を取ってあるので、先輩と並んで座った。

 中央のドリンクホルダーに、カップルセットを設置する。


「一度このサイズのを食ってみたかったんですよね……。でもずっとシングルだったから」


「確かにこれは壮観だ。私はこんなにポップコーンを食べないので」


「ええ、俺が八割食います」


「頼もしい! 流石は男子だな。私はお腹をいっぱいにするなら炭水化物よりも肉がいい……」


「肉食系女子でしたか……」


「語弊を招くなあ」


 このプロポーションは肉から生み出されていたのか。


 そして映画は始まった。

 結論から言うと、リバイバル上映されるだけのことはあった。

 普通にめちゃくちゃ面白かった。


 いわゆる、知る人ぞ知る名作映画らしく、ロケット打ち上げに挑んだ男たちが、様々な困難に立ち向かってこれを解決し、失敗を経てついにロケットは打ち上がる……!

 そういうストーリーだった。


 映画を見ている間、ポップコーンが進む進む。

 よく、映画でポップコーンを取ろうとした手が相手と重なってしまい、ハッとなって手を引っ込めて互いを意識……みたいなシーンがあると思うんだけど。


 絶対に何度も何度も手が触れ合ったんだけど、映画が面白すぎて意識する暇がなかったよね。

 先輩も同じだったらしく、


「凄くいい映画だった。これもまた物理部の活動だな……」


 ちょっと目を潤ませてこういう事を言ってるので、全く手と手が触れ合ったことを気にしていなかったな。

 俺もです。


『エイガカンというところは心地よいメモリーに満ちているところだな。時折怒りのメモリーが刻まれているが』


「ちょっと前にやってたクソ映画と話題だったアレだろうな……」 


 細やかにメモリーを感知するダミアン。

 ちなみに彼も映画は鑑賞していた。

 本来なら三人で見てるはずなのだが、ダミアンを観客だとカウントするとこいつを探している人たちに見つかってしまう可能性もあるし、第一ロボットは大人なのか子どもなのか分からんからな。


『エイガというものはなかなか素晴らしかった。君たち人間はこんな歴史を重ねて宇宙を目指しているのだな……。窒素生命体でありながら宇宙を目指す努力に感動を覚える』


「ダミアンがストレートに褒めてくるじゃん。ダミアンたちは誰かに作られたわけじゃないのか?」


『ダミアンたちはダミアンたちだからな。始まりからそのように作られている。これまで幾つもの星系を渡ってきたが、窒素生命体が宇宙に出ることは敵わなかった。彼らはメモリーを暴走させ、争い合ったり文化的自壊を始めたりして宇宙へ飛び出すまでは持たないのだ』


「ほうほう、難しいことを言ってるな。じゃあ宇宙に出ようとしてる俺たち人間は大したものなのか」


『このまま正方向への発展を行っていけば宇宙へ出ることができるだろう。メモリーが邪魔をするならば君たちは正方向への発展の力を失い、停滞するだろう。それはダミアンたちが見てきた窒素生命体と同じ道を歩むことになる』


「ふんふん」


「ということは……ダミアンは珪素生物なのか?」


 先輩が頭の良さそうな質問をした。

 これに、ダミアンが『君たち人間にはそのように認識できるだろう。あるいは、ハルキが言うロボットというのもまたダミアンたちを表現する言葉としては正しい。それはそうと、ハルキとナツミからは別の話をしたいメモリーを感じる』


「そうだった! 先輩、映画の感想、感想!!」


「ああそうだ。一人で観る時にはできない、見てからすぐに感想を言い合うという楽しみ! 今からワクワクして仕方ない。私はさっきの映画の感想を君に伝えて、君の考え方もすぐに聞いてみたいんだ!」


「俺もですよ! じゃあその店の目星はもうつけてあるので。行きましょう!」


「君は本当に手際がいいな……!」


 野望のためなら全力ですよ、俺は!


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