第31話 映画の後のお楽しみ

 美味しいパスタの店を予約していたのだが、先輩は肉を食べるためにステーキランチを注文したのだった。

 向かいでペペロンチーノを食う俺。

 俺の食事の方が女子っぽいな?


 食事が終わり、デザートのシャーベットが運ばれてきて、これをパクパクと食べた。

 よし、これで胃は満たされただろう。

 先輩が。


 俺はポップコーンを食っていたからまあまあなんだが。


「ふう……迎田くん。ようやく話ができるな……」


「おっ、やりますか」


「やろう。やってやろう。映画の感想ってやつを言い合おうじゃないか」


「いいでしょう……。俺はですね、あの映画を全然調べずに見に来たことが大成功だったと思うんですよ」


「確かに。中身を知らなかったからこそ、私たちはこうして感動しているわけだからな。話の作りは王道だと思ったが、あくまで地道な研究と努力が実を結んでいく描写が本当に素晴らしくて……。私たちも物理部という物理に関係する集団だが、普段はネットサーフィンをしているだけで一体どんな努力をしていたのかという」


「俺らはまあ一般人ですからね……!! ほんと、あのストーリーは良かったですよねえ。ひねくれた魂を持つ俺にはグッと来ましたよ」


「私もだ。私も間違いなくひねくれているから分かる」


 うんうんと頷き合う。

 ダミアンはこの様子を見て、機嫌良さそうに目をピカピカ点滅させていた。

 もう、このロボットの考えてることが外見で分かるようになって来たな。


 ダミアンは徐々に人間的になってきたと言うか、いきなり感情的だったんで人間的というか。


「ダミアンはさっき感動したって聞いたけど、具体的にはどこがなんだ?」


『エイガでは君たち人間がメモリーエネルギーを発してモメたところがあっただろう。今現在、世界の各地で人間たちと交流しているダミアンの友軍から分かる情報によると、一部国家ではダミアンたちと戦闘状態になっているが、その状況でも人間は一枚板では無い。現場から離れた意思決定の場で、この状況をも自らの欲求を満たすための道具として活かそうとする人間たちが86名確認されている』


「うわあ」


 なんか語りだしたぞ。


『つまり人間たちは緊急事態にあっても争いを止めることはない。お互いの足を引っ張り合いながら沈むところまで沈んでいく。だがエイガは素晴らしい。誰もが前に進んでいく。彼らのメモリーはあの瞬間、間違いなく共鳴していたことだろう。ダミアンはあの前進し続ける姿に感動した。あるべき人間の姿だ』


「めっちゃ語るじゃん」


「ダミアンが一番入れ込んでるね」


 俺も先輩も、微笑ましくこのバスケットボールロボをぺたぺた撫でるのだった。


『エイガばかりではない。ハルキは今、清濁併せのむ様々な手法を使って目的へ向かって突き進んでいる。人間の美しい姿をダミアンは眼の前で見ることができている。毎日が感動だ』


「お楽しみ頂けて幸いかもしれない」


 ダミアンはそんな事を考えていたのか……。


 俺と先輩のテーブルから渋い男の声がするので、たまに通りかかる店の人が不思議そうな顔をする。

 バスケットボールがピカピカ光っているのを見て、何か遠距離と通信できる機能かなにかだと思ったんだろう。

 スルーしてくれている。ありがたい。


「先輩、俺たちも頑張らないとですね。ダミアンが応援してますよ」


「ああ、そうだな。頑張ろう。何を頑張るんだ……?」


「そりゃあ、直近で言うと明日の夜の夏祭り……」


「ああ、私が浴衣で……! まさか、浴衣を着ることになるなんて思ってもいなかったな……」


「楽しみにしてますから! 迎えに行きますから!」


「ああ、うん……うん。えっ、頑張るって夏祭りのこと? 何を頑張るの?」


 主に俺が頑張るんだろう。

 告白とかそういうのとか。

 濃厚な夏休みの日々の中で、先輩について色々明らかになったし。


 俺との関係、とてもよし。

 同じイベントで盛り上がれて、ちょっとやそっとのボディタッチでもお互い動じなくなってきた。

 いや、意識してタッチすると動じる。


 ご両親にも面通しよし。

 反応もバッチリだった。

 俺はあのBSSの日からずっと、後退のスイッチを切って生きているのだ。


 停滞すらしないぞ。

 お蔭で先輩との距離は急速に縮まったと思う。

 というか、なんか思った以上にこの人、めちゃくちゃ俺と相性が良かった。


 で、映画も同じものを見て感動できる。

 価値観同じなんじゃないかこの人……!?


 もう明日決めるしかないだろう。


「先輩が浴衣を頑張り、俺は夏祭りで何かこう、関係性についての重大なアクションを頑張ります」


「お、おお……き、期待してていいのかな? 何のことだか分からないような、分かってしまっているような……」


 言っちゃうのが先輩なんだよな。


「まあその、心の準備をしていただいて。俺も覚悟を決めて参りますので……」


「えっ、うそ、ほんと? ちょっと待って。今から緊張してきた。心臓がバクバク言ってるんだけど」


 先輩の口調が女の子っぽくなった!

 動揺してる動揺してる。

 だが、俺もその機会がついにやって来たということで、緊張してきた。


 映画の感想を言い合っていたのが、途端に無言になる俺たち。

 まるで隙を伺い合っているかのようだ。


「……今日はここまでにしますか!」


「あ、ああ、そうだな! あー、もう、絶対今夜眠れない」


 先輩がなんかぶつぶつ言っているではないか。


『いいぞいいぞハルキ! 今ハルキはどんどん前に向かって進んでいる! ハルキの足を引っ張るものはダミアンが排除しよう!』


 なんて心強いやつだ。

 よし、俺は今夜、いかした告白のセリフを考える……!!

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