第32話 夏祭りに向けて

 なつみ先輩を自宅に送ってから、ご両親にペコペコ挨拶をし、そして帰宅。

 興奮冷めやらず、明日口にすべきセリフをひたすらノートに書き連ねる。


「ドラマチックなセリフ……いや、ここはやっぱり真っ直ぐな言葉の方がいいんじゃないのか? いやいや、なんかさり気ない感じで……」


 こういうのはスマホのメモ帳に入力するより、手を動かして紙に書いてる方が落ち着く気がする。

 書いた内容がひと目で全部見えるし、なんというか……。

 読み返すと色々問題点が見えてくる。


「別にマンガや小説を書いてるわけでもない俺がドラマチック? そんなもん、思いつかないよな……。なんたるアニメで聞いたことがあるセリフのままか」


 大きくバツのマークを付ける。


「真っ直ぐな言葉……一番これまでの俺らしいというか、なんというか……。よし、これは保留」


 ◯のマークを付けておく。


「さり気ない感じ……。そう言えば、俺はそれと見せない風に美来に接していた結果、全てを失ったのだったな。うむ、最悪の選択肢だ。バツだバツ!! 消えろ! 消え失せろ、さり気ない言葉よ! それはお前の自尊心を守りたいだけの逃げの言葉だ!! ツアーッ!!」


 俺は何重にもバツを書き連ねた。

 やはり、直接的な言葉!

 それしかない!!


 俺は天井に向かってうおおおおーっと咆哮した。

 そこへ、なんかピコーン!とスマホが反応する。

 これは……。


 大関ユタカ、という名前が目に入り、直後に彼女のトークが!


『いよいよ明日だね! 春希のことだから、きっと今頃告白の言葉を考えているんじゃないかな』


 こいつっ!!

 俺の行動を完全に読み切ってやがる!

 恐ろしい女だ。


 俺に先輩とダミアンがいなければ確実に落とされていたことであろう。

 恋愛経験が無いなんてこいつ、嘘だろう。

 というか、こいつの性癖にマッチする相手が今までいなかっただけなんじゃないか……?


 あの後、花咲にも進捗を確認したんだが……。


『ユタカちゃん、可愛いと思うんだがありゃあ俺の手には負えん』とか書いてきたからな。

 花咲のチャラ男パワーが通じない女だ。

 モンスターだよモンスター。


 しかもあいつは俺と歌の好みがバッチリ合うのだ。

 危険過ぎる。


「明日決めてやる。だが、お前が入り込む隙間など1ミクロンすら存在しない、と」


 すぐに返答を送ってやった。

 おっ、既読になった。


 ニヤリ、と笑う可愛いキャラのスタンプが送られてきた。

 ゾッとする。

 こいつ……全て分かった上で、先輩とくっついた俺を落とす気か!!


 ダミアンの力を借りねばならぬようだな……。

 だが、逆に言えば、先輩とくっつくまでの間、ユタカは俺を全力でバックアップする味方であったということだ。

 あいつは自分好みの男を育成していたのだな。


 重ね重ね、恐ろしい女だ……。


 俺が三国志のスタンプで、「げぇっ」と送っていると、ダミアンが階段をポコンポコン上がってきた。


『ハルキ! ハルキ母はハルキの健闘を祈っていたぞ! 明日が勝負の時と聞いて、朝からカツ丼を出すと言っていた』


「うおおっ、本気だな母さん!! 先輩への告白を成功させ、彼氏彼女の関係になり、パトロンたる母に紹介せねばならん……。あらゆる手を使って先輩との仲を深めていった成果を必ず実らせる!!」


 俺は燃え上がる!

 絶対に成功させるぞ!!

 夏祭りで雰囲気を盛り上げてからの告白……!


 そして、ご一泊!!

 恋人同士になった二人の一泊旅行、何も起こらぬはずなどなく……。


「うおおおお! ぬおおおおーっ!!」


 俺はベッドに倒れ込み、激しく暴れた。

 五分ほど暴れていると落ち着いてきた。

 体力が消費されたとも言う。


『やる気だなハルキ……!! ついにここまでやって来たのだ。ダミアンは嬉しい。わずか千八百時間の作戦行動で、彼女を得るという目標を達成しようとしている……!! ハルキ、君はダミアンが知る中でも上位に位置する戦士だ……!』


「ありがとうダミアン! 最後まで見届けてくれ! お前は最高の相棒にして、俺の半身のようなやつだ!」


 俺が手を差し出すと、バスケットボールロボからニューっと腕が伸びてきた。

 堅く握手を交わす。


「ぽかぽかしているな」


『体内に格納しているから、メモリーエンジンで常に温められているのだ』


「夏場はひんやりしている方がありがたいな」


 一階で、母が飯の完成を告げる。

 よし、降りるとしよう。

 リビングにはピザがどーんと乗っている。


 手作りだ。


「ストレス解消にピザ生地を……?」


「体を使うと、新しいネタが湧いてくるのよ!」


「こんな大きなピザをどうやって……?」


「ダミアンちゃんのお陰ね。彼ったら空中に生地を浮かべて、バリバリっと焼いてくれたの」


 つまり、ダミアンがどうにかしなかったら、母が無計画に作った巨大なピザ生地があるだけだったのだ。

 恐ろしい……。

 そしてダミアンには謎の機能が存在しているんだな。


「こんなことができたのか、ダミアン」


『うむ、侵略ユニットにとっての標準装備だ。マイクロウェーブ操作ユニット。これがあることで、ダミアンたちは単体でも宇宙の航行が可能なのだ』


「推進装置の応用だったのか」


 考えてみれば、俺はダミアンのことを何も知らないな。


 テレビでは、日の出町に出現したUFOは立ち去り、戦闘は発生しなかったと言っていた。

 そして、UFOが流していたポップスが妙にあちこちのテレビ番組で流れている。

 何が起こってるんだろうな。


 なお、某国同士の紛争は収まったらしい。

 収まった、というニュースだけで、その細かい話が何もされない。

 まあ、戦争が終わるっていうのはそんなものなのかもな。


 ピザは美味かった。

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