第33話 昼は力を溜める……が!
夜は勝負の時。
つまり、昼は俺が力を溜める時間なのだ。
何をすればいいか?
そう、筋トレだね。
腕立て腹筋スクワット。
ランニングに出ようとして、アホみたいな暑さだったんで断念した。
「またバタバタしてると思ってたら上で運動してたの? 若いと力が有り余ってていいわねえ……」
『ハルキ母、実は今宵が勝負の時でな』
「あっ、夏祭りって今夜だったっけ!? あら! あらあらあらあらまあー!!」
「めっちゃテンション高いじゃん」
「お母さんとしては息子の彼女ができるかどうかの勝負が今夜って聞いて、テンション上がらないはずないでしょうー! 絶対、絶対うちに連れてきてよ!?」
「わ、分かった……!!」
「これ、軍資金」
「ま、また息子のポケットに一万円ねじ込む!!」
「贈与はこういう少額なら税金かからないから!」
生々しい話やめろ!
だが、母が俺に大いなる期待を掛けていることはよく分かった。
俺の学力については何も言ってこないこの人が、ここまで口出ししてくるのはなかなかない。
「お母さん的には人生の重要度とか充実度、本当にここが大事だからね……!!」
「実感が籠もってる」
「母さんね、専門学生の時に合コン行ったら奥手な父さんがいて、こいつ行けるんじゃね?って思ってアタックして落としたからね。それまで交際経験無かったからね」
「凄い行動力だなあ!」
「ここでチャンスを逃したら一生一人だと思ったからね……。決めるのよ、絶対に!! ちなみにその合コンの時に『ろくな男がいないわね。私、キープしてる男がいるからこれが終わったらそっち行くから』みたいにお高く止まってた子は今、この婚活サイトで歴戦の婚活戦士やってるわね」
「最後にホラーをぶつけてくるなよ!! しかし親がかつて通った道か……。分かった、頑張るぞ」
二階に戻り、ふと気づく。
父親、棚ぼたじゃねえのか……!?
『人間は面白いな。ハルキ母のメモリーからも様々なイメージがダミアンに流れてきたぞ。人間にドラマあり……うむうむ』
頷いているダミアン。
こいつ、バスケットボールみたいだから上下屈伸になるんだけどな。
俺はベッドに寝転んでゴロゴロしていたが、先輩に連絡を取っておこうと思い至って起き上がった。
そこへ、ピコーン! とLUINEの通知が!
お、先輩じゃん。
『茸田くんが来た』
短文だ。
それだけだ。
だが、それだけにちゃんとした文章を打てる余裕がない先輩の危機を感じ取る。
こいつは……最重要NTRイベントの気配だぜ!!
「ぬおおおおお!!」
飛び起きる俺。
あのマッシュが!!
先輩の家に!!
よりによって今日来るとはな!
「行くぞダミアン!」
『どうしたんだハルキ、突然不倶戴天の敵を見つけ出した戦士の目になって』
「俺の嗅覚が告げてるんだ。NTRの気配だ!! ダミアン! お前が侵略ロボだって言うなら、俺を先輩の家まで超高速で飛ばせないか!?」
『できる。できるが生身であるハルキの肉体にはダメージがあるぞ。それにダミアンは十二時間の休眠状態になってしまう』
「構わん。俺がダミアンが目覚めるまで一人で頑張ってやる! だが、今のこの距離の問題だけはどうにもならない。頼む!!」
『了解だ! ハルキの願いを叶えよう! ワームホール展開、超次元コクーン起動』
眼の前に、俺の半分くらいのサイズの穴が空いた。
で、俺の全身を虹色に輝く繭みたいなものが包み込む。
『発進!』
「うおおおお!! 待っていてくれなつみ先輩!!」
大体の恋愛ものは!
ここで邪魔が入ってきてややこしい展開になったりするものなのだ!
だが、俺はそれを許さん!
ダミアンの掛け声と同時に、俺が射出された。
ワームホールとやらに突っ込む。
うおおっ、空気がない!
俺は息を止め……!
次の瞬間、周囲が明るくなった。
パアン! と音がして俺を包んでいた繭が弾ける。
シャボン玉みたいだったな。
そして全身がきしむ。
なるほど、ダメージ!
眼の前には、唖然とするマッシュ。
背後には先輩。
マッシュは手を伸ばしていたのだが、それが俺の肩に当たる形になったようだ。
「な、な、なんだ……!?」
「おはようございます、マッシュ先輩」
俺は立ち上がると、ニヤリと笑った。
なつみ先輩がやっと気を取り直したようで、声を掛けてきた。
「迎田くん! い、今どうやって……!?」
「ちょっと愛のためにワープしてきました!! 俺は、フラグはへし折ることにしてるんで!!」
マッシュは俺に気圧されたように、後退った。
「ちょ……ちょっと待ってくれ。今、何も無いところから現れたよな? なんだ? 何があったんだ!? というか、なんなんだお前。お前は関係ないだろ! 俺は今、祐天寺さんとちょっとした相談をだな……」
周囲は人気のない雑木林だ。
こんなところで相談だと……?
下心が見えているぜ……!!
「関係ないのはお前だろうが! 俺は先輩のLUINEを見てここまで来たんだ! 手出しはさせねえぞ。やるって言うなら、相手になる」
「本気か? 俺さ、ボクシングやってたんだけど」
「俺はなんぼでも殴られてやるが、指を何本かと目玉とか持ってく覚悟で対抗するぞ!!」
俺は低く身構える。
ボクシングは確か下段技無かったよな……!?
「ぐう……!!」
マッシュが目を見開いた。
なんかドッと汗が吹き出したのが分かる。
体格がある程度近い男同士の喧嘩だと、格闘技経験にちょっとくらいの差があっても、覚悟ガンギマリな方が勝つのだ。
つまり俺だ。
「やってられるかよ……! ちょっと手を出そうとしただけで、こんな人を殺す目をしたやつが飛び出してくるなんて……! くそっ!!」
なんか捨て台詞を残して、マッシュが去っていった。
ふう、心を折ってやったぜ……。
「先輩、大丈夫でしたか? ダミアンの謎パワーをぶっつけ本番で使って助けに来ましたよ」
振り返ったら、なつみ先輩は口をぱくぱくさせていた。
なんか手には、さっきLUINEを打ったスマホが握られている。
「わ、悪い予感がして、思わずLUINEをしたんだけど」
「ええ。俺は詳しいんです。ああいうのはNTRフラグなんです。友達にチャラ男がいるから、何がヤバいのか分かるんですよ。ちょっと命を担保にして助けに来ました。ぐふう」
ここで、生身でワームホールを突破したダメージが出てきて、俺はぶっ倒れた。
安心してしまったんだろうな……。
「迎田くん! 迎田くーん!?」
ということで。
次に目覚めたら、先輩の家の事務室だったりするのだった。
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