第10話 終業式の日と軍資金

 あっという間に終業式はやって来た。

 美来とはやっぱり遭遇するが、かなりダメージは少なくなってきたようだ。


「なんだか、あたしと会っても平然としてる……。それはそれでちょっと面白くないんだけど」


「恐ろしいことを言う女だな……」


 美来がなんだか不満げなのだ。

 理解ができない。

 ダミアンに語らせればまた、何かそれっぽいことを教えてくれるとは思うんだが……。


 あまり人前にダミアンを出すわけにはいかないな。

 俺とうちの家族と、なつみ先輩だけの秘密でいい。


 恋というものは孤独なものだ。

 一人で悶々と悩み、NTRしたら脳を破壊されて一人のたうち回る。


 そこに!

 一体のバスケットボールロボがいるだけで、どれだけ気持ちが軽くなることか!!

 俺はまだまだダミアンを必要としているのだ。


『シュウギョウシキとやらが終われば、いよいよナツヤスミか。勝負の時だなハルキ。毎日が野望へと近づくための一歩となる。弛まず行くのだぞ……! ダミアンも全力で応援する』


「なんて頼もしいやつだ! 俺とお前の二人三脚で彼女をゲットしよう!」


 自分の席で、小声で盛り上がるのである。

 ユタカはギリギリまで自分の席に戻ってこないので、こういう事が可能なのだ。


 終業式では、エアコンの効いた体育館で校長のだるい話を聞いた。

 長かった。

 カンペもなしにダラダラと楽しそうにずっと話せるの、才能だよな……。


 戻ってくると、先に教室に来ていたユタカが、席の下に安置していたダミアンを持ち上げてしげしげと眺めている。


「う、うわー! 俺のダミアンが!!」


「うっわ!? いきなり大声出さないでよ、びっくりしたあ! 迎田くん、バスケットボールに名前つけてるの? いや、これバスケットボールと言うか、謎の軽い金属じゃない? まるでそういうロボットみたいな……」


「うおおっ、ダミアン、ちょっとだけ吸え!!」


『シュゴゴッ』


「うぐわーっ」


 ユタカがダミアンを取り落とし、へなへなと席に座り込んだ。


「あ……あれ? 私、なんでここにいるんだっけ?」


「終業式が終わって、真っ先にユタカが走って戻ってきたんだよ。ほら、みんなも来た」


「そうだっけ……。終業式? あれ? それって明日じゃなかったっけ。今日……?」


 ダミアンがメモリーエネルギーを吸うというところからヒントを得て、他人の思い出も吸い取れるんじゃないかと思ったが……。

 塩梅を間違えると結構な範囲の記憶が消えちゃうな……。

 これは危険だ。

 封印しよう。


 すまんな、ユタカ……!!

 ダミアンを怪しまれたら、いつこいつを回収に何者かがやってくるか分からない。

 そしてユタカはとても口が軽いのだ……!!


「ユタカ。帰りにジュース奢ってやるよ……」


「えっ、マジ!? 迎田くん、なんか優しいなあ……。あっ、もしかして私を狙ってたり!? いやいやいや! 私はジュース程度で懐柔される安い女じゃないよーっ!!」


 一人で盛り上がっている。

 だが、記憶がぶっ飛んだ話はどこかに行ってしまったようだ。

 下校時に俺はユタカに、コーラを奢った。


「それじゃあ迎田くん、また夏休み明けに! その頃には例の先輩と付き合ってそう? 付き合ったら教えてね、アタックするから!」


「やめろーっ」


 とんでもない女だな。


『ダミアンはあえて強めにメモリーエネルギーを吸ったのだ。だが、ユタカという人間はもしかするとハルキの彼女になる可能性もある人間』


「いやいや、ねーよ、無い」


『ハルキは照れ屋だな。大丈夫だ。強めではあるが手加減しておいた』


 話を聞いてくれえ。

 このロボット、とにかく俺と誰かをくっつけたがる。


「お前にユタカとくっつけられないよう、俺はなつみ先輩を全力で狙うことにするよ」


『そうか! ハルキがやる気になってくれて嬉しいぞ!』


 こうしてダミアンをリュックに隠しながら帰宅する。

 家では母が、ニヤニヤしながら待っていた。

 なんだなんだ、気持ち悪い笑い方して。


「春希~。ダミアンちゃんのお陰でね、小説めっちゃダウンロードされたの」


「なんと!?」


「これで今月の売上は今までで最高額になるわよ。ちょこちょこっと金額を計算したけど……三桁万円見えてくるわね……」


「そんなに!!」


「これ、ダミアンちゃんの取り分ね。また頼むわよ。あー、あんまり儲かるようだったら法人化しないといけないなー」


 めちゃくちゃテンションが高い母が、台所へ向かっていった。

 やる気に満ちているようだから、今日の夕食はめちゃくちゃに品数が多いに違いない。


 そして俺が手渡されたお金は……。


「九万円もある……」


 これだけあれば、贅沢しなければ夏休み遊び回るに足る軍資金となるだろう。

 それも全て、ダミアンが母の小説のネタ出しに大いに協力したからだ。


「ダミアン、ありがとう。こいつは大事に使わせてもらうぜ……!!」


『うむ! ダミアンはハルキがナツミとより仲良くなるために金を稼いだのだ! それがナツミを彼女にするために使われるならば本望!! 素晴らしいメモリーエネルギーをダミアンに感じさせてくれ!』


「約束する!!」


 明日からは夏休み。

 初日から海水浴……もとい、海での部活動を行う予定なのだ。

 なつみ先輩も親戚からもらったという際どい水着を披露してくれるそうだし……。


「アツい夏になりそうだぜ……!!」

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