第9話 クラスメイトに勘付かれたか
「迎田くんってさ」
「ん?」
隣りの席のユタカが急に話しかけてきた。
今日も猫っぽい顔をしている。
「もしかして二年の先輩を狙っている……?」
「うっ、どこでそれを」
「やっぱり……! うんうん、私はいいと思うんだよねえ。恋って言うのはさ、やっぱ、破れたら次に行くものでしょ? いつまでも引きずってるなんて健全じゃないもの! で、どの先輩と? イケそう? 応援してるから」
「うわあ、グイグイ来る!」
そう言えばこいつ、他人の色恋沙汰が大好きなんだった。
いつも他の女子たちと、誰と誰が付き合っただの、誰と誰が別れただのって話しをしているもんな。
「そいうのはあまり言うものではない……。ほら、先輩にも悪いから」
「それもそうかも。でも、付き合うようになったら教えてね! 広めるから」
「教えねえよ! っていうか、なんで女子はそういう色恋の話が好きなの?」
「他人の恋愛って、最高の娯楽じゃん! 何日かはその話題で盛り上がれるしさ。くっついたならくっついたで有用な情報だし、駄目になったり破局したりしたらご飯が美味しいでしょ」
「ひ、ひでえ! 俺たちは娯楽コンテンツじゃないぞ!」
「古来から他人の色恋なんてそういうものなの。それに……友達のお姉さんは彼女持ちの男を専門に狙う人もいるし。そう言う人にとって、この情報は大事なんだよねえ」
「ひええっ、その人、なんで人間としての良心が無いことをできるんだ!?」
「なんでかなあ……。でも確かに、私も彼女持ちの男の方がちょっと魅力的に見えるかも知れない……。ま、恋愛経験は無いんですけど。最初の恋愛はやっぱりこれっていう人がいいよねえ」
じゃあまさかユタカ、俺が万一先輩とお付き合いできたら、お前、まさかお前。
女子こええー。
「ちなみに、なんでユタカは気付いたんだよ」
「迎田くんが背の高い女子と相合い傘してたのを見かけた子がいてね……。その日のうちの私の耳に届いたよ!!」
「くっそ、どこにでも他人の目ってのはあるな! っていうかユタカの情報網やばい」
怖い怖い……。
ちなみにこの、彼女持ち男子専門の女子については……。
放課後の部活にて。
「私の友達にもいるな」
などとなつみ先輩も恐ろしいことを言っており。
「その、私は全然理解できないんだが……。なんか? 彼女がいるっていうことが品質保証になるんだとか……。つまり、女に選ばれた男だっていう保証になるから狙うとか……。いや、全然意味がわからないけど」
「こええー」
やっぱり震え上がる俺なのだった。
それってつまり、俺が先輩と付き合えたらモテるようになるってこと!?
いや、彼女がいるんだからもうモテる必要ないじゃん。
誘惑の方から勝手に向こうからやってくるようになる、そういうことらしい。
『一見すると効率的な狩猟方法だ。唯一、絶対的な敵を作るという一点を除いてだが。社会形態が個体に対して複数がかしずくことを前提にしていれば成立するやり方だろう。で、ハルキの社会では成立するのか?』
「しない」
『では最悪なやり方だと言えるだろう』
「だよなあ」
「だよねえ」
俺となつみ先輩、頷くしかないのだった。
「ところで先輩、一昨日一緒の傘で帰ったのが見られていたみたいです。それでこんな話になって」
「ああ~。嫌ねえ、何を見ても恋愛にしか捉えない人たちは」
「ですよねー。俺たちはもっとこう、高尚な……」
「そうそう、あくまで部活動の一環で直射日光から身を守るべくああいう手段を取らざるを得なかっただけで……」
「ですよねえ恋愛感情なんてとても……」
「だよねえ恋愛感情なんてとても……」
『やめるのだ!! なんかお互いのメモリーエネルギーがよろしくない方向にねじねじとねじれて行っている! この話はお開き! 終わりだ終わり! ナツヤスミとやらが近いのだろう。前向きな相談をするがいい……』
ダミアン、お前ってやつは……!!
俺も先輩もちょっと尊敬の目をこのバスケットボールに向けるのだった。
「だけど……ふうん。男性に自分から行けば、例え彼女がいたとしても受けてもらえる可能性があるということか? それはつまり、相手に彼女がいなかったりすると……ふむふむ。いや、待つんだ。落ち着け祐天寺なつみ。まだそうなると決まったものではない……。例え相手が自分の好みだったとしても……」
なんかなつみ先輩がぶつぶつ言い始めた。
これは、夏の活動について思考を巡らせ始めているのではないか。
邪魔をしたら悪いな。
ダミアンは何か言いたげだったが、俺は余計なことを口走らせまいと、このバスケットボールロボを抱えて退散するのだった。
「ダミアン、俺たちは俺たちでネットサーフィンをするとしよう。海の計画は立てたが、他にもやらなきゃいけないことが色々あるだろう」
『うむ。ダミアンはハルキが寝ている間に、インターネットに接続して世界の有り様を学んでいる。デートとやらに行くのだろう?』
「部活動だ、あくまで部活動……」
『なぜ己の本心を騙そうとするのだ!』
「人間はな、建前で生きてるんだよ……! あと、自己保身だ……!! 向こうがそんな気じゃなかったらめちゃくちゃカッコ悪いし、俺が傷つくだろ」
『心配はいらないと思うのだがなあ……しかし、ダミアンはハルキの気持ちを尊重しよう。ハルキはダミアンの恩人だからな……』
お前が義理堅いロボットで本当に助かるよ。
『山という話をしていただろう。では、キャンプだ。キャンプに行くがいい』
「キャンプ!? 一泊ってことかよ。だがそれは、仮になつみ先輩が可能だとしても軍資金が……」
『問題ない。ダミアンはハルキママと交渉をし、ネタ集めに協力している。労働の対価として電子書籍売上の10%を受け取る契約を結んだ』
「いつの間に……!! というか母さんと取引するくらい仲良くなったのかお前」
『現地人がこれほど理解ある存在だとは思わなかった。それとも、ハルキとナツミとハルキママが特別なのか』
「俺たちが特別なんだよ」
何せ、外では物々しい格好の人たちが日々少しずつ増え、町のあちこちを調べ始めているんだから。
あれ、絶対ダミアンを探してるよな……。
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