第26話 デート結果報告回

 楽しい部活動……いや、もうこれはデートだろ!

 俺たちは、デートを終えた!


 これによって、俺と先輩の中は一歩も二歩も、大きく進展したことであろう!


 先輩を家まで送る。

 おお、自動車の整備工場……!!


「あ、お帰りなさいお嬢さん!」


 外で作業をしてたガタイのいい兄ちゃんが気付いて声を掛けてきた。


「ああ。ただいま、浅木さん。父さんは? まだ仕事? 分かった」


「社長令嬢だったか……」


「いやいや、そんな大したものじゃない! うちの工場ももう苦しいんだ。だから私も、経理の手伝いとかやっているし」


 なんか先輩が慌てている。

 そうか、結構苦労しているのかも知れない……。


 浅木と言うなの兄ちゃんは、俺を頭から爪先までジロジロ見た。


「お嬢さん、ついに彼氏を?」


「ちっ、ち、違っ、まだそんな関係じゃないんだ!」


「ははあ、そういうことですか。いやあ、いいことです。青春だなあ! 俺も高校の頃に今の嫁と会いましたからね。おい若人! お嬢さんをきっちりとエスコートするんだぞ!」


「うっす!」


 なんか気持ちの良い兄ちゃんだったので、俺も威勢よく返事をしておいた。

 そして浅木さんは仕事に戻っていく。


「あの人は?」


「社員の人……。社員って言っても、浅木さんと深沢のじいさんの二人しかいないんだけど」


 ごく小さい会社らしい。

 それと、先輩の一家でやっているのだ。

 経済的には芳しくないとか……。


 なるほど、それで卒業後は会社を手伝って働くわけか。

 高校が最後のモラトリアムだって言ってたわけが分かった。


「それじゃあ、迎田くん。送ってくれてありがとう! また何か計画を立てて、夏休みを満喫しようじゃないか」


「ええ、もちろんです! 俺もツテをフル活用して次のイベントを考えておきますよ!」


「楽しみにしているよ。私が計画を立てると、涼しくて静かな博物館とかになるからね……」


「博物館は年中いけますからね」


 話をする俺たちを、浅木さんが影からそーっと見ている。

 この人も他人の色恋が好きなタイプだな!?


『あのアサキという男からは親しみのあるメモリーを感じる。敵ではないぞ』


「俺もそう思うよ。先輩の家族みたいな人なんだなあ」


 ちょっとほっこりしながら、先輩とサヨナラしたのだった。

 さて、電車の中でユタカに本日の報告だ。


「お蔭で助かった。今度奢る。だが奢るだけだからな、と」


 送信終了。

 一瞬で既読がついた。

 あいつ、暇してたな!?


『迎田くんと先輩がより親密になったってこと? じゃあ迎田くんのいい男レベルが上っていることだろうねえ……。男は熟成したところをいただくに限る』


 邪悪!!

 美来も大概あいつ、やべえやつだなと思ってきている俺だが、ユタカもやばいなー。

 絶対に二人きりになってはいかん。


「お前のように恐ろしい女と二度と二人きりで会うことはない、と」


 俺は決別の気持ちを込めて返答しておいた。

 そうすると……。


『耳寄りなデートスポット情報があるんだけどねえ……』


「なん……だと……!? と」


 アニメのキャラクターが、ドッと受けてるスタンプが送られてきた。


『迎田くんノリがいいから好きだわあ。大丈夫、こんどは私の友達も一緒だし』


 女が二人……!?

 それはつまり、ユタカのフィールドに引き込まれることを意味しているのではないか。


「あまりにも俺の分が悪い。ちょっと待て。俺も友人と呼べるかどうかくらいの薄い関係のやつを召喚する、と」


 OKのスタンプが送られてきた。

 俺はすぐに、友人に連絡を入れた。


 そう、俺にだって男の友達はいるのだ。

 花咲という男なのだが……。

 隣のクラスになってからちょっと疎遠になってるんだよな。


 だが、LUINEのアドレスは持ってる。


「おい花咲、女が二人来るからお前も来い、と」


 俺が入力すると、すぐに既読になった。

 こいつ、暇だったな……!?


『久しぶりだと思ったらハルキから誘ってくるとはなあ! つまりダブルデートってこと? マ? 行くわ行くわ行くわ!』


 話が早い!!

 常に彼女を欲しがっている男である。

 俺の中学の頃の友人なのだが、高校に入ってクラスも変わり、あまりやりとりをしない。


 それでもこんな時、ある意味で頼れる男なのだ。

 お前、ユタカから俺を守る盾になってくれ……。


 そして俺はユタカから有用な情報だけを仕入れるのだ。

 実際、今回の平和記念公園からの動物園コンボはかなり良かった。

 間違いなく先輩との仲が進んだ。


 そこまでやり取りしたところで自宅がある駅だ。

 ダミアンを抱えて降りることになる。


『ハルキのメモリーが乱れているぞ。疲労しているな』


「ああ……。夏休みを無駄なく過ごし、素早く先輩との仲を進展させるために、俺に休んでいる暇など無いからな」


『なんという勤勉さだ。我が友軍にもハルキの学び続ける姿勢を伝えることにしよう』


 またダミアンがピカピカ光りだした。


『ついでにドウブツエンという場所で得たメモリーを伝える。人間ばかりではなく、動物にも接触を行うべきだ。友軍は行動範囲を広げよ……行動範囲を広げよ……!』


「ダミアンは仲間思いだなあ」


 こいつにも、花咲みたいな友達がいるんだろう。


「持つべきものは友達だからな。ついさっきまで存在を忘れてたけど」


 こうして俺は、デートを終えて帰宅するのだった。

 だが、次にやるべきことはまだまだあるのだ。


 全ては、一泊キャンプのため。

 先輩から一泊してもいいという言質を取るために、デートを重ねて実績を作っていくのだ……!!


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