第42話 キャンプとは言うが

「何か用意していくものはあるんだろうか?」


「キャンプって言ってもテントじゃなくて、コテージに宿泊するんですよ。だってほら、なつみさんを守るためには壁がある場所でなければ」


「お、おう」


 なんかもじもじするなつみさんだ。

 ふふふ、かわいいかわいい。


 今俺たちは、夕方までなつみさんの部屋でキャンプの計画を詰めているところだ。

 この辺りには気の利いたファミレスとか喫茶店なんか無い。

 駅前にはコンビニとスーパーしかない。

 デパートは一昨年潰れた。


 なので、いつものアイオーンモールに車で行くしか無いのだ。

 おお、悲しき田舎生活……。


 東京まで一本で行ける環境なのに、この文化格差はなんなんだ。

 まあいいや。


「そういうことで、着替えだけあればいいですよ。ご飯もあっちが材料用意してくれるんで、これを俺達で料理するわけで」


「なるほど。春希くんは料理できる?」


「煮る、焼く、までならいけますね。なつみさんは?」


「私は実はあまり料理したことがなくて。レンジで温めるくらい」


「じゃあ俺が教えますよ……」


 文字通り手取り足取りな!!

 実際そういうことになると思うけど。


『いいぞいいぞ。屋外で活動すると聞いて、友軍機から送られてきた戦場をイメージしたが、キャンプとは思ったより平和なものなのだな』


「ああ、平和だぞ! いや、平和を維持してみせる……」


「どうしたんだ春希くん? 何か問題でも起こりそうな顔をして」


「なつみさん、以前、彼女がいる男を専門に狙う女の話をしましたよね」


「ああ、したな。……ま、まさか……!!」


「そうです。俺となつみさんの仲を取り持ってくれた女がいるんですが、こいつは俺がなつみさんとくっついたところを狙っているんですよ! 俺の貞操が危ない!!」


「なんということだ! 春希くんは渡さないぞ!!」


 なつみさんが興奮して、テーブル越しに身を乗り出して俺の頭を抱きしめてきた。

 うおおおおお柔らかいものに頭が包まれてなんという極楽!!


「盛り上がってるわねえ。ジュースとお菓子持ってきたけど……あら!!」


 いかん、なつみママさんだ!!

 なつみさんが俺を抱きしめているところをバッチリ見られたぞ!


「あらあら、お邪魔だったわねー。ホホホ、ごゆっくり……。でも、パパが下にいるうちは気をつけた方がいいかもしれないわよー」


「マ、ママ!! 違うの! それにちゃんとノックしてー! ああんもう! 話を聞かずに出て行っちゃった!!」


 慌てて離れたなつみさんが手をバタバタさせる。

 大変かわいい。

 めちゃくちゃに顔が赤くなっており、シャツから覗く首筋も真っ赤だ。


 色白だから赤面するとほんとに分かりやすいなあ。


「俺は勘違いされてもいいんですよ! ただ、こう、キャンプで盛り上がってから色々頑張りましょう!」


「そ、そうだな。そうだね! キャンプで盛り上がろう!」


 なつみさん、気を取り直したな。


「春希くんを狙ってくる女がいるということは、今度は私が君を守る番だ。いっそ、君が何か初めてを奪われる前に私が全部もらってしまえば……」


 なんかぶつぶつ凄いこと言ってるぞ!

 俺としては願ったりかなったりなんですけどね。


「そこは夜に行きましょう。邪魔する者は多分いないんで。コテージに侵入されてなければ」


「されないようにしよう! それで、昼は?」


「カヌーで川下りがあってですね」


「いいなあ……。なんだかとても……リア充って感じがする」


「リア充ですよね。というか俺らは付き合ったんだからリア充じゃないですか」


「確かにそうだ!」


 ハッとするなつみさん。

 自分がリア充であるということに実感がないようだ。

 

「ハッ、つまり俺もリア充ということでは……!?」


『これほどまでに濃厚で充実した毎日を過ごしているハルキが、リア充とやらでなくてなんだというのだ』


「言われてみればそうだ。休まずに動き続けてるもんな……。本来はもっと夏期講習とかに行くべきなんだろうが……」


「うちに就職してしまえばいいんじゃない?」


「それは直接的に婿入りしろって言ってますよね?」


「あっ、確かにそうなっちゃう……」


 また赤くなった。

 なつみさんがこんな表情がコロコロ変わる人だなんて俺は知らなかったなあ。

 この人の意外な顔をまだまだ見られそうで楽しみだ。


「おほん。じゃあ気を取り直して」


 おっ、なつみさんの顔色が戻ったぞ。


「カヌー以外には何かあったりする?」


「キャンプなんか自然にいること自体がイベントですからね。カヌーで川下り以外だとハイキングくらいじゃないですか」


「なるほど。それで十分かもねえ……。でも、夏場のシーズンによくキャンプ場取れたね」


「ダミアンの力が大きかったですね! なんか謎のアクセス力で予約をねじ込みました」


『任せてくれ。いつも良質なメモリーエネルギーをもらっているからな。漏れ出るメモリーをわずかにいただくだけで、ダミアンはとても満たされているのだ』


 機嫌の良さそうなバスケットボールだ。

 地球を超越した超文明みたいなところの力を持つくせに、気さくなんだよなあ。


「なるほど……。春希くんは色々な方法を使って、私に楽しいことをたくさんプレゼントしてくれているんだな……」


「なつみさんの笑顔が見られるなら、それが最高の報酬ですよ!」


「春希くん……」


「なつみさん……」


 おっ、おっ、これは……これはーっ!!

 彼女がそっと目を閉じたので、俺は身を乗り出して……。


 祐天寺家の扉がバカンと開く音。


「ただいま」


 なつみパパの帰還だ!

 これを聞いて、なつみさんが我に返った。


「ま、まあ、焦らなくてもね。後でね。キャンプとか、無限に時間があるし……」


 もじもじし始めたぞ!

 そして俺も帰る時間だ。

 さらば、祐天寺家。


 今度はキャンプのために、なつみさんを迎えに来るよ!


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