第43話 やって来ました決戦の地

 夏休みになってから、電車に乗ってばかりいる気がする。

 いやあ、母から軍資金をもらっていて本当に良かった。


 なつみさんと合流。

 本日の彼女は、半袖のシャツに短パン。

 おお、むき出しの手足が眩しい……。


「ちなみになつみさん、ハイキングは袖や裾が長いほうが……」


「えっ、そうだったの!?」


 愕然とするなつみさんなのだった。

 アウトドアの経験が無いらしいから仕方ないね。


『こうは言っていてもハルキのメモリーが大きく乱れている。ナツミの狙いは的確だぞ』


「や、やめろダミアン!」


「ふむふむ……」


 なんかなつみさんが頷きながら俺をチラチラ見ているのだが。

 こ、これは彼女も運命の夜を意識しているということ!?

 いけるか!?


 俺はリュックの中に用意してある、極薄超感覚0.01mmのことを考える。

 お前の出番、あるかも知れん!

 いや、きっと出番になる!!


 そして俺は一皮むけて大人になるのだっ!!

 俺の元気さんは……よし、落ち着いているな。

 昨夜落ち着かせた甲斐があったというものだ。


 ちなみに元気さんの源は常に三回分がチャージされてるとか聞くから、今夜にはまたフルチャージされてしまうことであろう……。

 使うチャンス、来てくれ……!

 いや、招き寄せる!!


「鼻息が荒いぞ春希くん。乗り物酔いした? 酔い止め飲む? カヌーで酔うかもと思って持ってきたけど……」


「ありがとう! でも俺の三半規管は極めて頑丈なんで大丈夫です……!!」


 なつみさんの優しさを感じる。

 こんな最高の女性は全て俺の手でゲットしなくては……。

 そう言えばキスもまだだったので、まずはそこに到達する!


 俺は頭の中で、本日の計画を緻密に立てるのだった。

 で、今日の目的地であるキャンプ場は今までで一番遠いところにある。

 大都会である千葉駅に到着したところで乗り換えて、山奥へ……。


 ここまで複雑なルートをたどって向かうのだ。

 俺が最も恐れる女、ユタカは追ってこれまい。


 ……いや、待て。

 そもそも俺はキャンプ一泊計画をユタカに話していた気がする……。

 あいつに場所を分かられている可能性があるな。


 まずいぞ。

 気を抜くと誘惑が襲ってくる気がする。


 なつみさんとの関係を進展させることと、ユタカの誘惑を撃退すること。

 この2つを同時進行でやっていかねばな……。


「また難しい顔してる。……ま、まさか君を寝取りにやってくるという女か!! くっ、絶対に許さない……。春希くんは私のものだ……!!」


「うおおお、なつみさんの愛を感じる!!」


『いいぞいいぞ!』


 俺達が賑やかに騒いでいるのだが、夏場のキャンプ場へ向かう電車は家族連れとかカップルが多い。

 みんな微笑ましいものを見る目を向けてくれるのだ。

 そうか……!

 ここにいるみんなが辿った道なんだな……!!


 あったけえあったけえ。

 ちなみに俺達が行くキャンプ場だが、夏場はソロキャンプの受け入れを止めるんだそうだ。


 カップルと家族がめちゃくちゃくるからな。

 精神衛生上もその方がいいだろう……。

 懸命な判断だ。


 ちなみにダミアンの渋いボイスが響いたら、みんな一様に首を傾げたぞ。

 さて、キャンプ場に到着。

 ここからお迎えのバスに乗るのだ。


「おっ、美来のPickPock動画が上がってる。どれどれ……。うおお、美来を取り合ってマッシュと花咲の対決が!! 美来がすげえテンション上がってるじゃん。男が自分を求めて決闘する系のはあれか。女子にとっては最高の娯楽なのか……?」


「そうかも知れない……。私も君が茸田くんから守ってくれた時、かなりこう、きゅんと来た。もう夜のお祭りまでずっと胸がうずうずしてだな……」


「ほほー!!」


 つまりなつみさんのテンションは、ずっとマックスだったことになる。

 告白待ちだったんだなー!

 俺が告白するぞ告白するぞってあからさまにしていたんで、ずっと待ってくれていたらしい。


 この人、なんなら自分からアタックするのもやむなしという人だもんな。

 バスに乗り込み、俺たちは前の方の席で並ぶ。


 ……おや?

 さっきの父娘連れ、娘の方がどこかで見たことあるような……。

 いや、あんな大人しい感じのヒラヒラしたワンピースの女子は知らんな……。


『ユタカのメモリーを感じる』


「えっ、ほんと!?」


『気のせいかも知れない……。ハルキは常にたくさんのメモリーを発しながら存在しているからな。これほど陽のメモリーにみちみちている人間は、友軍機が観察している対象の中でも少ない』


「おっ、そうかそうか。なんか特別感があるな……」


 俺はすっかり気分が良くなってしまった。

 そしてバスはどんどん走り……。

 キャンプ場へ到着だ!


 ついに来た!!

 ちょっと小高い丘の上にあり、なるほど、コテージが幾つも並んでいる。

 そこから下っていくと川があって、ここでカヌーを楽しめるらしい。


 丘の上にあるのは、雨で川が増水しても安全にするためだろう。

 バーベキューなどは川べりでもできるが、それには有料のバーベキューセットをレンタルしないといけないのだ。


 俺となつみさんはコテージ外の調理場で二人でバーベキューだ……。

 完璧。


「ついに到着してしまった。なんだか胸がずっとドキドキしてるよ……。楽しみだけど、緊張するな……!」


 なつみさん、その緊張はあれですか。

 受け入れOKということでいいんですか……!!


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