第8話 先輩とSNSで繋がろう

 日々、ダミアンを抱えて登校する。

 美来と毎日遭遇するわけだし、なんなら彼女は近所に住んでいるので土日だろうと遭遇する可能性がある。

 だが!

 何かある度にダミアンに湧き上がる思い出を吸い取ってもらっているのだ。


「だいぶ楽になって来たな……」


『そろそろハルキのメモリーネルギーが少なくなってきたぞ。いかん、これはいかんぞハルキ! 新たなメモリーエネルギーを発生させるのだ』


「それをお前が吸うのか」


『いや、この星はメモリーに満ち溢れている。ハルキが得た新たな幸福なメモリーをダミアンが吸うことはない……。ハルキ、幸せになれ……』


「ダミアン! お前ってやつは……!! 分かった。俺はこれから逃げることじゃなく、幸せになることだけを考える。だとすると……やっぱりなつみ先輩だろうな」


『であろうな。あちらから近づいて来てくれている。必ずや多くのメモリーを作り上げるのだぞ、ハルキ。ちなみにユタカという人間でもいい』


「ユタカか……いやいやいや、女子に目移りするなんてそんな失礼な。俺はなつみ先輩一筋で行く! だって向こうから誘ってくれたし」


『そうだな! では密に連絡を取るのだ! 作戦行動は情報の共有度合いによって、成功失敗が左右されるものだ』


「ああ! ええと、なつみ先輩……ああっ……!! 俺は! なつみ先輩の! SNSもメアドも電話番号も知らない!!」


『なんだと!! 聞きに行け!! 今すぐに!!』


「分かった。今日の放課後、物理部で聞く……!!」


 ちょうど企画書を提出しに行くつもりだったのだ。

 企画書が無くても顔を出すけどな。

 先日、夏休みに色々遊びに行こう……もとい、外で部活をしに行こうと誘われてから、俺はなつみ先輩目当てで物理部に通っているのだ。毎日来るのだとの指示も受けている!

 既に惰性などではない。


 俺は決意とともに、部室の扉を開ける……。

 部屋の奥では、上級生だと言うのにいつも俺より早く来ている、なつみ先輩の姿。


 暗い部屋の中でネットサーフィンしている。

 おお、黒縁メガネに画面の光が反射して、なんとも怪しい……。


「暗い! 暗いですって先輩!」


「おおー、迎田くん! 待っていたよー。いやあ、暗いほうが涼しい気がしない? しないか。しないよねー」


 あっ、ちょっと自分で言ってて自信が無くなってきている。


「あー、言われてみればそうかもですねえ。薬とかよく冷暗所に保管してっていいますからねー」


「だ、だろう!? ま、まあ、思いつきでやってみたんだけど……控えます、はい」


『受けを狙ったのだろうが思ったよりも受けなくて反省したようだな。そういうメモリーが見える』


「やめて! ダミアンやめて!! みなまで解説しないでくれ!」


 なつみ先輩がぶんぶん手を振り回した。

 うーむ!

 かわいい。


『ハルキ! 目的を忘れるな! 目先の可愛さで満足してはいかんぞ! 未来にこそバラ色のメモリーはある!!』


「お、おう! そうだった! ダミアンはちょくちょく大切なことに気付かせてくれるな……」


 俺はリュックを下ろすと、ダミアンをその辺りの机に設置した。

 そして底の方から……。


「これ、海水浴……いや! 海での部活動の企画書です!! おすすめの海の家と、レンタルできる道具と、値段も調べました! あとはこっちが日帰りプランで、こっちは、い、い、一泊プラン……」


「い、い、一泊!?」


 なつみ先輩の椅子がガタンと音を立てた。

 あっぶな! 危うく倒れるところだ。

 俺は咄嗟に先輩を支えた。


「ふおおおお……あ、あ、危なかった」


 なつみ先輩が俺にしがみついている。


「そして……焦った。い、い、一泊はさすがに、まずいだろう……。未成年同士のこういうね、付き合ってるわけでもない男女がね……」


「あ、ま、まあそうっすね」


『退くなハルキ! 押せ! 押せーッ!!』


「うるさいよ!? 突撃ばっかりだとよくないでしょ!!」


 ダミアン、基本的に攻撃一辺倒なんだよな……。


「お、推されまくると私の心臓が持たない……! こう見えても比較的気が小さいんだ……!!」


 ですよね!


「じゃあ、その、日帰りのこのプランで……」


「ああ、健全な男女のデートプラン……いやいやいや、海の部活動として素晴らしい企画だと思う。これで行こう……。そして、ダミアンはメモリーを感知できるのだろう? メモリーの細かい内容も分かるのか?」


『解析が可能だ。ただし、多くのメモリーが蓄積している場所は、混ざり合っているために解析が困難になる』


「じゃあ、分かる範囲でいいから。せっかく部活動という名目で行くんだし、海水浴場についても調べながら遊ぼう……」


「いいですね! 目的がないと、こう、何を話したらいいか分からなくなりますし」


「ああ。いらんことを話さなくてよくなるしね」


 俺と先輩は頷きあった。


『もう心が通じているのではないか? 抱け!』


 変なツッコミを入れるなダミアン!


「それで先輩。せっかく企画を立てましたし、この他にも色々やる予定でしょう?」


「ああ。夏を遊び尽くす……いや、部活動で有意義に過ごす!!」


「そのために、連絡先を交換しましょう! その、これ。PickPockを……あ、いや、RUINEでもいいです」


「じゃあ、RUINEから……。動画だと何を喋っていいか分からなくなるので」


 ということで!

 なつみ先輩とチャットトークアプリ、RUINEで繋がったのだ。

 電話もできるしな。


『まだるっこしく進むのではなく、ここは押せ押せで抱きしめてしまった方がいいのではないか?』


 ダミアン!

 ショートカットしようとするのはやめるんだ!

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