第7話 いざ、海へ! 企画書作成

 俺の住む町は、まあまあな田舎だ。

 奇跡的に近くに高校があったんで、通っている。

 東京までは何時間か電車に揺られれば到着する……なんてのが冗談に思えるくらいの田舎だ。


 先輩もそうだ。この人は何駅か先の人だけど。

 つまり、在校生のほとんどは同じ地域の人間ってわけだ。

 定員割れしているから、よっぽどひどい点数を取らない限り入れる。


 なので……。

 そこまで頭が良い高校ではないというわけだ。

 ちなみに先輩は商業科。

 俺は普通科。


 大学への進学率は30%くらいだろうか。

 過半数の生徒は卒業後、大学に行かずに就職することになる。

 高校生活は、最後の自由時間とも言えるわけだ!


「気合を入れねばならないな……。海……泊まりがけがいいかな? 先輩と同じ部屋……」


『いいぞいいぞ! チャンスだハルキ! 抱け! そこで抱くんだ!』


「や、やめろ! まだ早い……時期尚早……!! もっとじっくりと関係性を深めて……」


『いつまでも準備をしているつもりか? 場合によっては敵が、驚くべき速度で侵攻してくることもある……。ミクを奪われたばかりだというのに悠長だな……! ハルキは達人になってから戦場に立つつもりか!』


「ぬおっ! た、確かに……! じゃあ、こう、泊まりと日帰りの2パターンを用意して……。ネットで調べたら、海水浴場はパラソルを貸してもらえるらしいからそれを一つだけ……。この間の日傘のような感じで」


『ミズギとやらを着てくるのだろう? ナツミは特別な装備をハルキに見せるのだ。どうするべきか? 褒めろ! 褒めるんだ! 讃えよ!』


「おう! 照れを捨てて……俺は褒める!! くっそ、頼りになるなあダミアン!」


『ははは、任せておけ! ダミアンは三つの星系を支配するヴァイアス歴戦の尖兵ゆえな!』


「そうかそうか。本番も頼むぞダミアン!」


『任せるがいい! だが、ダミアンは今や端末の身。実際に動いてナツミをものにするのはお前の仕事だぞハルキ! ダミアンはハルキを信じているからな!』


「おう! 俺も頑張る! もう逃げない……!! 多分」


 俺とダミアンは、お互いを称え合うのだった。

 そうと決まれば、俺もオシャレをキメねばなるまい。


「母さん! 水着を買いたいんだけど!」


 母はPCに向かって何かカチカチ打ち込んでいたが、俺の言葉を聞いて振り返った。


「中学の頃のを穿けばいいじゃない」


「あれはもう柄がダサいんだよ! もっとこう……おしゃれなトランクスタイプのを……」


 母の目がキラリと輝く。


「春希。もしかして……女子と行くの?」


「そ、そうだ……!!」


「美来ちゃん?」


「い、いや、物理部の先輩」


「年上の女子と!? あ、もしかして部で行く感じ?」


「そうだよ。部活の活動として行くんだ。ただ……実質俺と先輩の二人きりだけど」


「買いに行くわよ!! 準備しなさい春希!! ちょうど原稿に詰まっててテンション下がってたところだけど、めっちゃ元気になってきたわー!! 春希、ちゃんと付き合ったら私に紹介しなさいよね!? 小説のネタにするから!!」


「や、やめてくれーっ!!」


 母は小説家だ。

 出版社を通じてはちょっとしか本を出せてないが、根強いファンができていて、Mitsurinという世界的通販サイトの電子書籍読み放題に自作の小説を登録している。

 これが結構読まれていて、なかなかの儲けになっているんだとか。


「あら春希、そのバスケットボールは?」


「ちょっと理由があって、今こいつを手放せないんだ……」


「……訳ありね? 話さなくてもいいわ。母さん勝手に調べるから!」


「調べるなよ!」


 車に乗り込んだ後の会話だが、小説家というやつは……!

 向かった先は、地域唯一の超大型ショッピングモール、アイオーンだ。

 スーパー、アパレル、スポーツクラブに映画館。

 田舎のエンタメを全て請け負っている。


 俺はリュックにダミアンを詰め込み、車を降りた。


 なぜここでもダミアンを手放せないか?

 それは簡単だ。


 この地域に住んでいると、身近なデートスポットなんかここしかないからだ。

 美来と、あのマッシュルームが来ている可能性がある……!


「なんで春希はキョロキョロしてるの?」


「ちょっとな」


「もしかして……美来ちゃんに振られた?」


「うっ! だ、ダミアン!」


『任せろ! シュゴゴーッ!!』


 はあ、はあ、楽になった……!!

 巷のNTRを受けた男たちは、どうやって日々を生きているんだ。

 ダミアンがいなければ、俺は毎日即死しているぞ。


 こうして水着売り場にやって来た……。


『ハルキ! メモリーエネルギー反応だ!』


「まずい! 母さん、ちょっと待ってくれ!」


「あら、そのバスケットボール自己意志が……!? ううん、何も話さなくていいわ。お母さん妄想で設定を作るから」


 これだから小説家は!

 だが、母がめちゃくちゃ楽しそうで何よりだ。

 ダミアンを隠す必要が無くなったな……。


 しばらくして、ダミアンから『反応が遠ざかった!』と聞いてようやく水着売り場に向かうことができた。

 むう、遠目に見覚えのあるようなマッシュルーム頭……。

 隣にいるのは美来か。

 くそっ、どんな際どい水着を買ったんだ。

 けしからん、けしからんぞ。


 こうして俺は水着を選ぶことになったが、男の水着なんかそこまで種類もない。

 田舎の品揃えなんかそんなもんだ。


「春希、このブーメランパンツはどう? パツパツで春希の男らしさをアピールできるわよ」


「俺、そこまで肉体美に自信無いんだけど!」


 結局、無難なトランクスになった。

 たが、柄はハワイアンだ。

 カラフルだなあ……!!

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