第17話 さらば海よ!

 なんだかんだで夕方まで二人で遊びまくってしまった。


「飯も食わずに四時間ぶっ続けでしたね」


「ああ……疲れた……」


 シャワーで海水を洗い流し、着替えてから海の家で軽く焼きそばやラーメンなどを食べて……。

 帰宅だ。


 いや、充実した一日だった。

 夏休み初日だとは思えない……。


「ところで先輩」


「どうした?」


「どこらへんが部活動だったんですかね……」


「体を使って、泳ぎや海の仕組みなどを実感しただろう……。立派な物理部の活動だ」


「おお、物は言いよう……!!」


「長年の間、まともに活動しないまま物理部を維持してきた我々だ。生徒会の連中を煙に巻く話術は磨き抜いているさ」


「物理部なのか、話術部なのか……」


「次代を任せられる人物も見つかったことだし、私は安心している」


「俺ですか!」


「君以外に誰がいる? 今日はとても頼りになった……」


 ちょっとだけ傾いた太陽の下で、にっこり笑う先輩が大変かわいいのである。


「後日の予定を立てよう。自宅に到着するまではまだ時間があるだろう? ネタ出しをしてスマホに記録してだな……」


「やりましょうやりましょう。夏休みは遊びまくりだ!」


「部活動……あくまで部活動だ迎田くん……」


「はっ! 部活動でしたね……」


 二人でニヤリとするのだった。

 ダミアンは海水浴場で、たっぷりとメモリーエネルギーを蓄えてきたらしく、満足げにピカピカ輝いている。

 おっと、ここからはダミアンを探している連中がいるのだ。

 俺は彼はリュックの中に詰め込む。


 電車に揺られながら、さて、先輩と会議を……と思っていたら。

 俺たちは気絶するように爆睡してしまったのだった。


「しまった……想像以上にクタクタになっていた。こんなことでは後に待っているキャンプ計画も先が思いやられる……」


 先輩が反省をしている。

 俺は俺で、目覚めたら先輩の頭が俺の肩に乗っていたのでオッケーです!


「とりあえず明日は体力回復期間ということにして、明後日に会って話しましょうよ!」


「そうか……そうだな……! 君はやはり頭が切れるな」


「でしょうでしょう。ふへへへへ」


 先輩に褒められ、俺は調子に乗りつつ。

 こうして途中の駅で先輩は降りていったのだった。

 俺よりちょっとだけ都会に住んでるんだよな。


 俺はもっと田舎なのだ……。

 さて、次の駅で降りねばな……。

 

 そう思っていたら、電車の中を移動してくるやつがいる。

 昇降口に近い扉から出るつもりなんだろう。

 そいつはこの車両に入ってくると、「あっ、迎田春希!」と叫んだ。


「うおっ、なんだなんだ!!」


「あっはっは、これはもう運命だねー。迎田くん次で降りるんだっけ? 私と同じ駅?」


「う、うわーっ、ユタカ!!」


 俺の隣の席の、猫っぽい女がそこにはいたのだ。

 やたら腕がむき出しのキャミソールを着ている。


「むっ、潮の香り……。海に行ったね」


「やめろ、何も話してないのに詮索をスタートするな!」


「あっ、ああああっ! 首筋に! 首筋にキスマーク!!」


「は!? なんだよお前適当言ってるんじゃないぞ俺と先輩はそんな仲じゃ」


「やっぱり先輩と海に行ったんでしょ!? うひょー、やるじゃん!」


「ぐわあああ誘導尋問!!」


 ユタカの巧みな話術に、情報を引き出されてしまった。

 なんて恐ろしい女だ……。


「ちなみにほんとにキスマークあるからね? ほれ」


 ユタカがコンパクトみたいなので見せてくれる。

 そこには横に長い赤い跡が……。


「うわー、マジだ!」


 先輩が頭をあずけてきた時に、なんか寝ぼけてキスマーク付けたらしい。

 お、俺の馬鹿!

 なんで寝てたんだ!!


「迎田くん、自分を殴るのはやめよう! 決定的瞬間に寝てたってやつでしょそれ! うんうん、分かる分かるぅ」


「お前察しが良すぎてこええよ」


「伊達に他人の恋バナをひたすら追っかけてないからねえ」


 ユタカが猫のように笑った。

 そして、スマホを見せる。


「ま、ま、情報交換のためにアドレスをくれればいいから。ね?」


「なんでユタカと情報交換を……!?」


「そりゃあもう、ぐふふふふ、いい感じで仕上がっていく迎田くん……いや、春希を私のものにするために」


「や、やめろぉー」


 こええー!

 この女こええよ!


「実際はあれよ、私、友達とあちこち行ってるからデートスポットとか詳しいよ? 情報色々教えてあげるから。だから、破局したら面白おかしく教えてね」


「今から破局する前提で話すなよ!? だが、デートスポット情報は貴重だな……。もらっておこう……」


 母が語っていた、古代の恋愛シミュレーションゲーム、その親友キャラがこいつというわけか。

 やつからの誘惑を跳ね除けながら、様々な情報を引き出してくれよう。


「ほい、連絡先ゲット。ありがとう~。でさ、今日はもうお疲れでしょ? だから明日とか空いてるんじゃないかなーと思うんだけど」


「な、なぜそれが分かる」


 ユタカは俺にぐっと顔を近づけた。

 近い近い!

 なんか使ってるのか、いい香りがする。


「むっふっふ、女の勘……と言いたいけど、物理部の部長さんって明らかに文系女子でしょ? 一日海で遊んだら体力尽きちゃうじゃん。いかに若くて盛ってる男女とは言え、日を置くと思ったんだよねえ。まあ、私なら連日でもオッケーな体力があるけど!」


 むふーっと鼻息を吹き出すユタカ。

 こいつ、なんて洞察力だ。

 探偵か!?


 そして近くなると、露出度の多いキャミソールなんか着てるから、隙間から色々見えてしまうな……。

 あっ、胸元は薄いなあ。


「あっ、今あの先輩と私の胸比べただろ!? く、くそーっ!! 今日は撤退するから! じゃあまた明日! この駅に来て! 以上!」


 ちょうど、電車はユタカの家がある駅に停まったところだった。

 猫みたいな女が電車を降りて、俺に向かって手をブンブン振っている。


 後から彼女の友達らしいのが別の車両から降りて、きゃいきゃい騒ぎ出した。


「なんて女だ……。今、強制的に明日の約束をさせられたぞ……!! くそっ、まさかこれ、俺、モテ期か……!?」


『ハルキ、やはりあの人間もいいのではないか?』


「やめろ、誘惑を肯定するんじゃないダミアン……!! 二兎を追うものは一兎も得ずと言う言葉がこの星にはあってな……」


『ほう! 詳しい説明をしてくれ!』


 結局家につくまでの間、ことわざの話をダミアンに語って聞かせることになるのだった。


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