俺と友人キャラと情報収集

第18話 あくまで情報収集だ

 俺が日焼けして帰ってきたので、母がやたらとニヤニヤしながら進捗を聞いてきた。

 答えるのも気恥ずかしくて嫌なのだが、


「スポンサーに進捗を伝えるのはビジネスマナーの基本よ」


「それを言われると弱い……」


 なにせ、大学進学率30%のうちの高校で、我が家の両親は俺を大学まで行かせてくれると約束しているのだ。

 これは貴重なスポンサーだ……。

 それに九万円の軍資金のこともある。


「チャラチャラした連中から先輩を守り」


「うほう!」


「パラソルの下で先輩の背中に日焼け止めを塗り」


「おほう!」


「ビニールボートに乗って海に出て、泳ぎを教えた」


「いいね! 一日でそこまで進むとは……。私は我が息子を見くびっていましたわねえ」


 なんか機嫌がめちゃくちゃ良くなっているじゃないか。

 テンション上がるとふざけた喋り方をするのはこの人の特徴だ。


「ではダミアンちゃん、こっちで私に報告を……」


『了解した』


 ダミアンがリュックからひょこっと飛び出してきて、母とともに仕事場に消えていった。

 すっかり仲良くなってる。


 俺はと言うと、洗う必要があるものを洗濯機に投げ込み、自室に向かった。

 我が家は二階建て。

 もともとは祖父母の家だったんだが、二人とも俺が中学までに亡くなってしまい、そこから両親が古くなっていた建物をリフォームした。

 土地の一部は売ってしまったらしく、昔よりこじんまりした、しかし三人で住むには十分な大きさの家だ。


 二階は俺の部屋と、父の書斎がある。

 書斎というかマンガ倉庫な。

 あの人はマンガをやたら買って溜め込む。


 で、一階に母の仕事場であるパソコンルームと、居間に風呂トイレ、ダイニングキッチンと両親の寝室。

 ちなみに書斎とパソコンルームでも収納式ベッドがあり、両親が一人で寝たい時はそっちに行くとか。

 お蔭で二人の関係は円満であり、俺の家は居心地のいい状態を保っている。


「おっ、先輩から連絡が来てるじゃん。もう帰ったのか」


 LUINEの通知をタップすると、『今日はありがとう! 家に帰ったら全身が筋肉痛になって倒れているよ』とあった。

 おお、先輩の自撮りだ。

 日焼けでメガネの周りが赤くなっている。

 日焼け止めを貫通してくる日差し、ヤバいだろ。


 俺もなんか体がヒリヒリしてるもんな。


「えーと、こちらこそ楽しかったです、と。明後日はどこに遊びに行きましょうか」


 すぐに返答があった。


『あくまで部活、部活だよ君……。今回の事を明日レポートに起こし、物理部の活動記録とするつもりだ……』


 えっ、ただの海水浴をどうやって!?

 いや、先輩は口から出任せやでっちあげレポートを書かせれば天下一品なんだった。

 うちの母親とスキルが被ってるかも知れんな……。


「で、明後日の計画を立てるべく色々調べてみますんで、と」


『了解! 頼むぞ、私たちの楽しい夏休みの行く先は君の双肩に掛かっているのだ!』


「先輩、もう楽しくなって来ちゃってるなこれ。いや、俺も楽しんでもらえて嬉しいし、大変な体験をたくさんさせてもらった……。そしてダミアンさえいれば先輩を守ることもできるだろう……」


 俺はそう考えた後、自らの肉体も鍛えるべく、ちょっとだけ腹筋と腕立てとスクワットをした。

 体を徐々にビルドアップしていきたいな……!

 いつまでも、いると思うな親とダミアン。


 その後、気は進まないが例の情報屋……ユタカに連絡を取った。


「デートスポットについて聞きたい……と」


『おっ! ついに来たね! では詳しいことは直接会ってお話しましょう……カラオケボックスで二人きりで』


「こ、こいつっ……!!」


 大関ユタカ、恐ろしい女だ。

 めちゃくちゃグイグイ来る。

 先輩がいなかったら一瞬で落とされていただろう。

 だがあいつ、先輩がいなければ俺に絶対になびかなかっただろう……。


 なんかバグみたいな女だな。


 危なくなったらダミアンで身を守ろう。

 俺の貞操は先輩のために取っておく……。

 これはつまり、なんか一回そういう感じになったら、今後は選択肢にずっとそういう浮気みたいなものが入ってくるようになるからだ。

 

「仕方あるまい。一応行くが、カラオケボックスなんていう閉鎖空間は何かあらぬことを言われたら困る。ファミレスだ、と」


 ガーン!

 という感じのアニメキャラのスタンプが送られてきた。


 なにがガーン!だ。

 俺は三国志キャラのスタンプでホイホイ踊ってるやつを送っておく。


『仕方ない。そこで手を打つよ。んじゃあまた明日ねー! ずっと待ってる』


 くっそこの女、ずっと待ってるとか言われたら待ちぼうけなんて可哀想なことさせないために行かざるをえないではないか。

 なんて巧みな女だ。

 探偵か!?っていうくらい察しがいいから、俺の性格を読んでいたに違いない。


 だが!

 罠だと分かっていても!

 相手を可哀想な目には遭わせないのが俺だ!

 行くぞ行くぞ行くぞ!!


 ということで、LUINEのやり取りは終わった。

 先輩とのトークで心がホットになり、ユタカとのやり取りでびっしょりと嫌な汗をかいちまったぜ。

 まさか楽しい事のあとで精神戦をすることになるとはな。


 明日、ユタカの情報力を確認し、イマイチだったらちょっとお付き合いを考えさせてもらおう……。

 だが、せめてファミレスの飯代は奢ってやろうじゃないか。




 

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